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地味な《聴力強化》で、今日も飯を食う  作者: 話半分


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第11話:いつもの暮らし

朝、目を覚ましてから、しばらく寝台の上でぼんやりしていた。


何か聞こえる気がして待っていたが、外で鳥が鳴いているだけだった。


廊下を歩く足音はない。

誰かが下の階で椅子を引くこともない。


そこでようやく、自分の家に帰ってきたんだったと思い出した。


昨日は村まで一日歩いて、畑を見て、飯を食ったところまでは覚えている。


疲れていたんだろう。

その後眠ってしまうまでは早かったらしい。


起き上がって窓を開けると、冷たい空気が入ってきた。


町へ行く前より寒くなった気がする。


一週間しか経っていないから、気のせいかもしれない。

とはいえ、もう間もなく冬だ。


そろそろ冬に向けた準備を進めなければいけない。


とは言え、昨日放り出したままの荷物が、部屋の隅に残っているので、まずはそこから片づけることにした。


町で買ってきたものを一つずつ出し、使う場所へ持っていく。


村では手に入りにくい日用品は棚へ入れる。


道具の修理に使うものは、外で使う道具と一緒に置いておく。


着替えは洗うものと、そのまましまえるものに分けた。

洗濯もしなければいけないが、寒い時期はとても億劫に感じてしまう。


荷物もあらかた片付いてきた頃、袋の底から、折り畳んだ紙が出てきた。


広げなくても何かは分かる。


特性の鑑定をしてもらった時にもらった紙だ。


銀貨五枚。


そう思ってから、内容より先に値段が出てきたことに少し嫌になる。


銀貨五枚の紙を捨てる気にはならなかったので、机の引き出しへ入れた。


《聴力強化》だと分かってから一週間ほど経った。


分かったところで耳そのものが変わったわけではないが、仕事では何度か役に立ったように思う。


なら、まあ、しまっておくくらいはしてもいいだろう。


荷物を片づけ終える頃には腹が減っていた。


火を起こし、残っていた芋を鍋に入れる。


煮えるまでの間に保存食を確認しておく。


干した豆もある。

芋もまだ十分残っている。


町へ行く前に数えた時と、当然のことながらほとんど変わっていない。


一週間、家を空け、俺が食べなかったのだから減る理由もなかった。


やっぱり冬を越すだけなら問題なさそうだ。


鍋の中をかき混ぜながら考える。


食堂などもない泊まるだけの安宿だったので、町にいた時は外へ出て朝飯を食うこともあった。


節約のため、毎日ではなかったが。


この家にいる時は朝飯に困ることもない。


ただ、まず火を起こさないと始まらない。


面倒ではある。

ただ、金は減らない。


……町に行ってから、金のことを考えることが増えたな。


いや、町に出た理由が金が減ってきたからだったから、その前からか。


そこまで考えて、食事が出来上がったので、食べ始める。


このあとすることをもう一度頭の中で整理していく。


簡単な食事だ。

すぐに食べ終わって外へ出た。


◇


昨日は変わりはないかの確認だけだったので、まず端から歩いてみる。


留守にしていたのは一週間だ。


荒れていたら面倒だと思っていたが、別にそんなことはなかった。


少し傾いた支えの木を戻し、風で飛んできた枝を拾っていく。


土もいつも通りだった。


俺が町で倉庫を掃除していようが、荷車の音を聞いていようが、こちらでも同じように一週間が過ぎている。


当たり前と言えば当たり前の話だ。


畑を見終わって、今度は畑で使っている道具を出した。


町へ行く前から気になっていたものがいくつかある。


柄が少し緩んでいるものを手に取って振ってみると、やっぱりぐらついた。


まだ使える。


ずっとそう思って使っていた。

その結果、直さないままになっていた。


町で買ってきた工具を持ってきて、腰を下ろした。


一度外す。

汚れを落とす。

不要な部分を削って合わせる。


少しきついか?

さらにもう少し削る。


今度は入ったが、削りすぎてしまった気がする。


「……まあ、抜けなきゃいいか」


使うのは俺だ。


一度強く振ってみる。

前よりはましだった。


次の道具も見る。


こっちは刃の方が気になる。


手入れを始めてしばらくすると、町でやっていた仕事よりずっと時間が経つのが早く感じた。


誰かに急かされるわけでもない。

終わったら報酬をもらえるわけでもない。


途中で腹が減ればやめればいいし、暗くなれば続きは明日に回せる。


そういう仕事だった。

いや、仕事と呼ぶのかは分からない。


やらないと困るからやっているだけだ。


それなら町で受けた掃除も似たようなものだった気がする。


頼む相手がいるか、自分でやるかの違いだろう。


そこまで考えて、手を止める。


あらためて考えるほどのことではなかったが、今までは考えることすらなかったことだなと思った。


◇


昼を過ぎてから、家の裏へ回った。


薪の残りを確認し、雨が降っても困らないように積み直す。


途中で一度、人の声が聞こえた。


近くの道を誰かが歩いているらしい。


聞こうとはしなかったから、内容まではわからない。


町では、意識しなくても誰かの声がどこかから入ってきた。


村では、人が通り過ぎればまた静かになる。


しばらくすると、本当に何も聞こえなくなった。


町へ行く前なら、この静けさを気にしたことはなかった。


今も別に嫌ではない。


ただ、一週間前より静けさがわかりやすくなっただけだ。


夕方までには、気になっていた道具を二つ直し、薪も片づいた。


まだ手をつけていないものもある。

だが、全部今日やる必要はない。


家へ戻り、もう一度火を起こした。


昼と大して変わらない材料で飯を作る。


芋と豆。

塩を少し。


町では毎日違うものを食べようと思えば食べられた。


金を払えばではあったが。


鍋から器へ移して座る。

一口食べる。


昨日と大して変わらない。


もう一口食べる。


それで問題なかった。


食べ終わったら器を洗い、火の始末をする。


明日は残っている道具を見るか。


畑ももう少し手を入れるところがある。


保存食も、冬に入る前に一度きちんと並べ直した方がよさそうだ。


町から帰ってきても、やることはなくならなかった。


寝る前に戸締まりを確認して、寝台へ入る。


外は静かだった。


今度は、何か聞こえるのを待つこともなかった。

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