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地味な《聴力強化》で、今日も飯を食う  作者: 話半分


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第10話:村へ帰る

次の日の朝、目を覚ます。


宿の廊下を歩く足音。

下の階で何かを運んでいる音。


外から聞こえる荷車の車輪。

道行く人たちの話し声。


どこかの家で戸を勢いよく閉めたであろう音まで、相変わらず聞こえる。


町へ来た最初の朝は、ずいぶんうるさいと思った。


今もうるさい。


ただ、目が覚めるたびにいちいち気にすることはなくなった。


町で過ごして一週間ほど。


「慣れってやつなのかな」


呟いて寝台から起き上がり、荷物をまとめる。


今日、俺は村へ帰る。


最初から一週間くらいのつもりで来た。


畑仕事は一段落しているとはいえ、ずっと家を空けておくつもりもない。


それに、町へ来た目的も一応は果たしたと言える。


減るばかりの金を稼ぐため、仕事を探す。


できれば、これからも金を稼げる方法を見つける。


そのくらいのつもりで町まで来た。


結果として、俺は冒険者になった。


倉庫を掃除した。


採取依頼を受けて草を採った。

その夜、見張りを経験し頭が痛くなった。


棚卸しもして数え間違えて、荷物運びもした。


頭に浮かんだ冒険者のイメージとはかなり違ったが、金はもらえた。


自分で稼ぐ方法を見つけた。


荷物の中から財布を出す。


中身を確認して、また戻した。


町にいれば宿代も飯代もかかる。

鑑定にも銀貨五枚使った。


それでも、働けば金は入ってくる。


少なくとも、家にいて残った金が減っていくのを見ているだけではなくなった。


それが分かっただけでも、来た意味はあったと思う。


そんなことを考えながら、世話になった宿の主人に挨拶をして宿を出た。


◇


村へ戻る前に、買い物を済ませる。


最初の日にも買い物はしたが、今回はあの時買わなかったもの、買うのをためらったものをいくつか選ぶ。


傷んできた道具を直す時に使えそうなもの。

村では手に入りにくい日用品。


服も見た。


今着ているものよりずっと綺麗だ。


値段を見る。


……今回はやめておこう。


今持っている服はまだ着られる。


買ったものを袋へ詰めてもらい、金を払う。


店を出てから、また財布の中身を数えた。


町へ来る前と比べれば、銀貨五枚分ほど減っている。


鑑定に払った分だ。


宿にも泊まった。

飯も食った。


最初の日にも買い物をしたし、今も買った。


でもその分は、この一週間稼いだ分で払えている。


もう一度数える。

やっぱりほぼ同じだ。


銀貨五枚分だけ減って村に戻る。


安くはなかった。


でも、自分の特性を知った。

仕事を探す場所も分かった。

一週間、自分で稼いで飯を食った。


財布を閉じる。


あとは村へ帰るだけだった。


途中で少し迷ってから、ギルドへ向かった。


別に用事があるわけではない。

今日依頼を受ける時間もない。


ただ、一週間世話になったし、このまま帰るのも何となく気になった。


中へ入る。


掲示板の前には今日も人がいる。


受付にも何人か並んでいた。


最初に来た時より、何が起きている場所なのかは分かるようになった。


何度か見かけたことのある人もいる。


掲示板を見ると、つい受けられそうな依頼を探してしまった。


清掃。

荷運び。

採取。


いつもの依頼がいくつか目に入る。


今日は受けないで村に帰る。


受付を見るとセラがいた。


俺に気付いたようだったので、そちらに向かう。


「おはようございます、ライアスさん」


前の人の対応が終わり、セラが言った。


「おはようございます」


「今日は何をします?」


「今日は仕事じゃなくて」


「違うんですか?」


「村に帰ります」


セラが目を丸くした。


「今日? 突然ですね」


「はい。最初から一週間くらいの予定だったので」


「ああ、そうでしたか」


町へ来た時、セラにそんな話をしたかは覚えていない。


たぶんしていないと思う。


「もう仕事探しはいいんですか?」


「探し方は分かったので」


掲示板を見る。


「ここに来れば何かありますし」


「毎日あるとは限りませんよ」


「その時は諦めます」


セラが笑った。


「ライアスさんなら、そんな感じでしょうね」


……どういう感じだろう。


聞こうかと思ったが、やめておいた。


「冒険者の登録は、そのままでいいんですか?」


「大丈夫ですよ。また町に来た時に使えます」


「それならよかったです」


これで、また金が必要になったら仕事を探せる。


村で暮らせなくなったわけではない。

小さいけれど畑もある。

ちゃんと家もある。


ただ、現金が必要になった時に町へ来て働くという選択肢が増えた。


宿代と飯代がかかるから大きくは稼げないが、今のところ、それで十分だ。


「また来るなら顔を出してくださいね」


セラが言った。


「仕事はたぶんありますから」


「来ると思います」


言ってから、少し考える。


「……たぶん」


「そこは言い切らないんですね」


「次にいつ来るか分からないので」


「じゃあ、そのうちまた」


「はい」


それだけだった。


別れの挨拶というほどのものでもない。


受付から離れる。


出口へ向かう途中振り返ると、奥の受付に強面の男がいた。


何度か対応してもらったことがある。


向こうもこちらを見て、軽く顎を上げた。


俺も頭を下げる。


それだけでギルドを出た。


◇


少し歩いて町の門を出る。


背負った荷物は、来た時より少し重い。


買ったものが増えたせいだ。

財布は軽くなったが。


村に向かって歩き始める。

着く頃には夕方だ。


町から離れるにつれて、人の声が少なくなっていく。


荷車を引く人と何度かすれ違った。


一台通るたび、車輪の音が聞こえる。


昨日のことを思い出して少しだけ耳を澄ましたが、変な音が聞こえることもなく、普通に離れていった。


普通の荷車がどんな音を出すのか、まだそんなに知っているわけでもない。


歩き続けて昼を過ぎただろう頃。


途中で休憩を取り、持ってきたパンを食べる。


水を飲んで、また歩く。


行きにも通った道だ。

景色も特に変わらない。


これまでもたまに通った道だ。


それでも、町へ向かっていた時より少し長く感じた。


夕方が近づいた頃、見慣れた道へ入る。


村が見えてきた。


誰かが畑から戻っていくのが見える。


遠くで犬が鳴く声がはっきり聞こえた。

鳥が鳴きながら飛んでいく。

人の声は聞こえない。


町とは違う音だった。


村に入り、何人かと挨拶を交わす。


「帰ってきたのか」


「はい」


「町はどうだった?」


「仕事してきました」


「へえ」


それだけで終わった。


何の仕事をしたのかまで聞かれなかったし、きっと興味もないだろう。

俺も話さなかった。


そのまま村の外れまで歩く。


この辺まで来ると、周りにはもう他の家はない。


ようやく家が見えた。


戸を開ける。


家の中は出た時のままだった。


当然だ。


俺の他には誰も住んでいない。

こんな外れまではほとんど人も来ない。


荷物を下ろして、まず畑を見る。

特に変わったところはなさそうだ。


家の中へ戻り、保存してある食料も確認する。


特に問題はない。


町へ行く前と何も変わっていなかったし、しばらく食べていくには十分だ。


火を入れる。


鍋に水を入れ、芋を切る。

町で買った塩を少し使った。


大した料理ではない。

茹でて塩を振った芋だ。


いつも食べているものだ。


できたものを器へ移し、椅子に座る。


一口食べる。


悪くない。

いや……美味くはない。


町で食べた飯の方が美味い。


もう一口。


悪くはない。


町では、人の話し声がどこからか聞こえていた。


宿にいれば廊下を歩く音がしたし、朝になれば荷車が走り始めた。


ここにはない。


村の中でも外れにあるから。


そうでなくても、きっと村にはない音がたくさんある。


匙を置く。


しばらく耳を澄ませた。


風が家の外を通る。

遠くで何かが鳴いた。


聞こえてくるのはそれくらいだった。


「やっぱり静かだな」


口に出すと、自分の声が妙にはっきり聞こえた。


もう一度、芋を口に入れる。


明日は畑を見よう。


その後のことは、それから考えればいい。

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