第9話 お誕生日。
「クリスティン、お誕生日おめでとう!頼まれていた靴だよ。クラーラからも本を預かってきた」
父がやってきた。面会日でもないのにどうしたのかと思った。
私は言われるまで、自分の誕生日だったことをすっかり忘れていた。
…私は17歳になった。
父は大きなカバンを床に下ろして、テーブルに本を積み重ねていく。クラーラお義姉様からは恋愛小説とミステリー小説のようだ。
父に頼んでいたのは編み上げブーツだ。もうすぐ右足首の固定も取れるらしい。まずは足首がしっかりサポートできる靴の方がいいと聞いたので、父に頼んでおいた。
クリーム色に先染めされた革のブーツを箱から取り出す父。
「まあ、お父様、ありがとうございます」
父とはようやく会話らしくなってきた。私が入院するまでそんなに話したこともなかった。窓口はいつも母だったし。
入院してから面会日は父か兄が来てくれるようになった。
ベッドに立てかけて置いた松葉杖を使って、テーブルまで一歩一歩移動をする。
手を出していいのか悪いのかわからないのだろう、おろおろしながら父が手を開いたままクリスティンを見守っている。
椅子に座った私をほっとした顔で見てから、父も椅子に座ったので、フローラが控室に行ってお茶を用意してくれるようだ。
「まあ。この箱はなあに?」
「ああ、お母さんから、クリスの誕生日プレゼントにと預かってきたんだよ」
「……」
重ねられた本の脇に、ピンクのリボンを掛けた綺麗なバラの模様の箱が置かれていた。
「…お母様が?」
自分の声が硬いのがわかる。
「開けてごらんよ。中身は私も知らないが、クリスがとても喜ぶものだと言っていたよ。ここに一緒に来たかったらしいけど、面会に制限があるからね…。さ、開けてご覧」
持ち上げた箱は、大きさの割に軽かった。
「…意外と軽いわね」
そんなことを言いながら、リボンをほどき始めた。
父はにこにこしながら私の手元を見ている。
そっと…母が好きなピンクのバラが描かれた箱のふたを開けると……
「いやあああ!」
その箱を払いのけた手が、ガクガクと震える。
呆然と立ちすくむ父が見える。
テーブルの下に落とされた、綺麗なバラの模様の箱は角が一か所つぶれて……金髪の縦ロールに仕上げられたカツラがこぼれ出ている。
「……もう、無理、無理よ」
バルト先生と一緒に駆けこんできたエルマさんとフローラに抱えられて、ベッドに戻るが、震えが止まらない。
「大丈夫ですよ。ゆっくり息をしてくださいね」
エルマさんが背中をさすりながら、声をかけてくれた。
バルト先生が落ちた箱と中身を拾い上げて、父の肩を抱いて病室を出ていった。




