第5話 入院2か月目。
「初めまして。クリスティン様を担当することになりました、フロレンティーナと申します。フローラとお呼びください」
貴族用の個室に動いて、専属の看護助手が付くという説明はバルト先生と婦長のエルマさんに聞いていた。婦長が連れてきた水色のエプロンを付けた茶色の髪を一本に縛った女性が名乗った名前に驚いて、クリスティンは思わず振り返って顔を見てしまった。
***
「おはようございます!」
翌朝からフローラがクリスティンの病室に来るようになった。私と同じ年位だろうか。カーテンを開けて、窓を開けて風を入れる。
控室から洗顔用のタライを持ってきて、顔や手を拭いてくれる。それが済むと、背中に羽枕を押し込んで、ベッド用のテーブルに朝食を運んでくれた。
「先生もおっしゃっていましたでしょ?たくさん食べた方が、早く回復しますよ」
「……」
前にいたベッドでは、看護師が食事の介助をしてくれていた。正直…そんなに食欲もない私にとっては苦痛だったが、口元に差し出されたものは仕方なく食べた。
ここでは…フローラは見守るだけで、手は出さない。食事のトレーにはスプーンとフォークが私が動かせる左側に揃えて置かれている。
しばらく目の前に置かれた朝食を眺めていたが…仕方なく左手でスプーンを持つと、まだ温かいオムレツを二口ほど食べた。
個室に動いてからの私の生活は規則正しいものだった。
朝、フローラがやって来てカーテンを開けて、顔を洗って、朝食。
カーディガンを羽織って、車いすに動かされて、中庭を散歩。部屋に帰って来てしばらく休むと、先生の回診。
頭をぐるぐる巻きにしてあった包帯は取れて、ガーゼだけになった。
昼食後は少しゆっくりする。
その後、機能回復訓練専門の看護師が来て、膝や肘…動かせるところを動かして、筋肉がこれ以上落ちないようにする運動をする。
「ご自分でも手を握ったり開いたりなさってくださいね」
そんなことを指導される。
夕方、またフローラに車いすに乗せられて、中庭の散歩。
この人はなかなかおしゃべりな人だ。ろくに話さない私に懲りもせずに、好きな花は何か、だの、好きな食べ物は何か?などと聞いてくる。
…正直…放っておいてほしい。
夕食を食べて、体を拭いてもらって、着替えをする。
父が家から持ってきてくれた寝間着は、母が揃えてくれたらしい。相変わらず可愛らしいフリルがたくさんついているが…なんとなく今の自分には不釣り合いな気がしている。仕方がないので着てはいるが。
枕元、私が使える左側に呼び出し用のベルを置いて、フローラが退勤する。
夜間は当直の看護師が定時で見回りにやってくる。
長い長い夜が始まる。
私は何も見えない夜の中で、ただただその暗闇を見つめている。




