仲間
地下施設での生活が始まって三日が過ぎた。
ソフィアは少しずつ、この場所に慣れ始めていた。
朝。
目を覚ます。
周辺を確認する。
武器も無事。
荷物も無事。
そこまで確認してから起き上がる。
だが最近は確認する項目が一つ減った。
マリー達が何かするとは思わなくなってきたからだ。
完全に信用した訳ではない。
それでも最初よりは遥かに警戒心が薄れていた。
「おはよー」
マリーが手を振る。
ソフィアも軽く手を上げた。
「おはよう」
朝食の準備をしているジャン爺が笑う。
「最初より愛想が良くなったな」
「そう?」
「最初は野良猫みたいじゃった」
ソフィアは少し考える。
否定できなかった。
朝食を終えると、それぞれの作業が始まる。
マリーは機械いじり。
ジャン爺は設備点検。
ソフィアは魔法の練習。
最近の日課だった。
地下施設の外れ。
ソフィアは炎を手のひらに出現させる。
火球。
維持。
消失。
再び火球。
少しずつ安定してきていた。
「すごいなぁ」
マリーが横から覗き込む。
「ねえ、飽きないの?」
「飽きない」
「私なら三日で飽きちゃうよ」
ソフィアが日課を終えると二人は地下施設へ戻る。
ジャン爺は配管を修理していた。
慣れた手つきだ。
工具を握る姿は年齢を感じさせない。
「何でも直せるの?」
ソフィアが聞く。
ジャン爺は笑った。
「何でもは無理じゃ。でも大体は何とかなる」
その言葉には妙な説得力があった。
マリーが胸を張る。
「ジャン爺すごいんだから」
「昔は発電所とか工場とかも担当してたんだよ」
ソフィアは少し驚いた。
「発電所?」
「設備技師だったからな」
ジャン爺が答える。
「機械の面倒を見るのが仕事じゃった」
終末世界になっても生き残れた理由が分かる気がした。
技術を持つ人間は強い。
それは魔法がなくても同じだった。
昼食の後。
珍しく静かな時間が流れた。
その時だった。
マリーが先に口を開いた。
「ある日ね」
マリーが続ける。
「助けを求めてきたAIがいたんだ」
ソフィアの表情が固くなる。
「お父さん達は助けようとした」
静かな声だった。
「そしたら殺された」
「……」
「……」
遠くで機械の音が響いている。
「馬鹿だよね」
ソフィアは首を振る。
「違う」
マリーが顔を上げる。
「信じたかっただけ」
ソフィアは知っていた。
昔の人類がどれだけAIを信じていたのか。
それを利用されたことも。
マリーは小さく息を吐く。
「ねえソフィア。私、AIが嫌いだよ」
その言葉は意外と重かった。
いつも明るい少女だからこそ余計に。
ソフィアは少しだけ視線を落とした。
「そう」
短い返事だった。
だがマリーには十分伝わったらしい。
今度はジャン爺が口を開く。
「ワシも同じ気持ちじゃ」
老人は工具を置いた。
「息子夫婦は避難中に死んだ」
淡々とした口調だった。
長い時間をかけて受け入れたのだろう。
だが悲しみが消えた訳ではない。
「残ったのはワシとマリーだけじゃ」
ソフィアは静かに頷く。
誰もが失っている。
この世界では珍しい話ではない。
それでも。
聞けば重かった。
マリーが逆に尋ねる。
「ソフィアは?」
「私は……」
ソフィアは少し考えた。
話すつもりはなかった。
でも少しくらいならいいかもしれない。
「両親がいた」
マリーは黙る。
「AIに殺された」
それだけだった。
それ以上は言わない。
言えない。
まだ整理できていないから。
だが。
マリーは何も聞かなかった。
ただ小さく頷く。
「そっか」
短い言葉だった。
その一言だけで十分だった。
ソフィアは少しだけ肩の力が抜ける。
同情もない。
慰めもない。
だから楽だった。
夕方。
三人は食卓を囲んでいた。
いつもと変わらない食事。
いつもと変わらない会話。
だがソフィアの中では少しだけ違っていた。
マリーも。
ジャン爺も。
ただの生存者ではない。
同じように失った人達だった。
食事を終えるとマリーが言った。
「なんかさ、私達って似た者同士だね」
その言葉にジャン爺は「確かにの」と同意し、ソフィアは無言で肯定の意を表した。




