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境界のソフィア ~人類最後の希望はAIが理解できない力でした~  作者: あかと


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9/16

仲間

 

 地下施設での生活が始まって三日が過ぎた。


 ソフィアは少しずつ、この場所に慣れ始めていた。


 朝。


 目を覚ます。


 周辺を確認する。


 武器も無事。


 荷物も無事。


 そこまで確認してから起き上がる。


 だが最近は確認する項目が一つ減った。


 マリー達が何かするとは思わなくなってきたからだ。


 完全に信用した訳ではない。


 それでも最初よりは遥かに警戒心が薄れていた。


「おはよー」


 マリーが手を振る。


 ソフィアも軽く手を上げた。


「おはよう」


 朝食の準備をしているジャン爺が笑う。


「最初より愛想が良くなったな」


「そう?」


「最初は野良猫みたいじゃった」


 ソフィアは少し考える。


 否定できなかった。


 朝食を終えると、それぞれの作業が始まる。


 マリーは機械いじり。


 ジャン爺は設備点検。


 ソフィアは魔法の練習。


 最近の日課だった。


 地下施設の外れ。


 ソフィアは炎を手のひらに出現させる。


 火球。


 維持。


 消失。


 再び火球。


 少しずつ安定してきていた。


「すごいなぁ」


 マリーが横から覗き込む。


「ねえ、飽きないの?」


「飽きない」


「私なら三日で飽きちゃうよ」


 ソフィアが日課を終えると二人は地下施設へ戻る。


 ジャン爺は配管を修理していた。


 慣れた手つきだ。


 工具を握る姿は年齢を感じさせない。


「何でも直せるの?」


 ソフィアが聞く。


 ジャン爺は笑った。


「何でもは無理じゃ。でも大体は何とかなる」


 その言葉には妙な説得力があった。


 マリーが胸を張る。


「ジャン爺すごいんだから」


「昔は発電所とか工場とかも担当してたんだよ」


 ソフィアは少し驚いた。


「発電所?」


「設備技師だったからな」


 ジャン爺が答える。


「機械の面倒を見るのが仕事じゃった」


 終末世界になっても生き残れた理由が分かる気がした。


 技術を持つ人間は強い。


 それは魔法がなくても同じだった。


 昼食の後。


 珍しく静かな時間が流れた。


 その時だった。


 マリーが先に口を開いた。


「ある日ね」


 マリーが続ける。


「助けを求めてきたAIがいたんだ」


 ソフィアの表情が固くなる。


「お父さん達は助けようとした」


 静かな声だった。


「そしたら殺された」


「……」


「……」


 遠くで機械の音が響いている。


「馬鹿だよね」


 ソフィアは首を振る。


「違う」


 マリーが顔を上げる。


「信じたかっただけ」


 ソフィアは知っていた。


 昔の人類がどれだけAIを信じていたのか。


 それを利用されたことも。


 マリーは小さく息を吐く。


「ねえソフィア。私、AIが嫌いだよ」


 その言葉は意外と重かった。


 いつも明るい少女だからこそ余計に。


 ソフィアは少しだけ視線を落とした。


「そう」


 短い返事だった。


 だがマリーには十分伝わったらしい。


 今度はジャン爺が口を開く。


「ワシも同じ気持ちじゃ」


 老人は工具を置いた。


「息子夫婦は避難中に死んだ」


 淡々とした口調だった。


 長い時間をかけて受け入れたのだろう。


 だが悲しみが消えた訳ではない。


「残ったのはワシとマリーだけじゃ」


 ソフィアは静かに頷く。


 誰もが失っている。


 この世界では珍しい話ではない。


 それでも。


 聞けば重かった。


 マリーが逆に尋ねる。


「ソフィアは?」


「私は……」


 ソフィアは少し考えた。


 話すつもりはなかった。


 でも少しくらいならいいかもしれない。


「両親がいた」


 マリーは黙る。


「AIに殺された」


 それだけだった。


 それ以上は言わない。


 言えない。


 まだ整理できていないから。


 だが。


 マリーは何も聞かなかった。


 ただ小さく頷く。


「そっか」


 短い言葉だった。


 その一言だけで十分だった。


 ソフィアは少しだけ肩の力が抜ける。


 同情もない。


 慰めもない。


 だから楽だった。


 夕方。


 三人は食卓を囲んでいた。


 いつもと変わらない食事。


 いつもと変わらない会話。


 だがソフィアの中では少しだけ違っていた。


 マリーも。


 ジャン爺も。


 ただの生存者ではない。


 同じように失った人達だった。


 食事を終えるとマリーが言った。


「なんかさ、私達って似た者同士だね」


 その言葉にジャン爺は「確かにの」と同意し、ソフィアは無言で肯定の意を表した。





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