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境界のソフィア ~人類最後の希望はAIが理解できない力でした~  作者: あかと


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アニマル型


 物資を手に入れたことで少しだけ気持ちに余裕ができていた。


 数日分の食料。


 飲み水。


 十分ではない。


 だが何もない状態よりは遥かに良かった。


 ソフィアはオックスフォードの街を歩いていた。


 リュックの重みが心地良い。


 生き延びるための重みだった。


 風が吹く。


 灰色の空は相変わらずだった。


 人影はない。


 車も動かない。


 聞こえるのは自分の足音だけ。


 そのはずだった。


 カラン。


 どこかで音が鳴った。


 ソフィアは立ち止まる。


 振り返る。


 誰もいない。


 風で何かが転がっただけかもしれない。


 そう思い再び歩き出す。


 だが。


 今度は違和感だけが残った。


 何かいる。


 そんな感覚だった。


 視線。


 気配。


 言葉では説明できない何か。


 ソフィアは歩きながら周囲を観察する。


 壊れた店舗。


 放置車両。


 住宅街。


 どこにも異常はない。


 だが。


 背中に張り付くような感覚は消えなかった。


 そして。


 交差点へ差し掛かった時だった。


 影が動いた。


 道路脇。


 放置された車の下。


 何かが飛び出した。


 ソフィアは反射的に飛び退く。


 次の瞬間。


 金属音が響いた。


 ガキンッ!


 アスファルトに爪が突き刺さる。


 それを見てソフィアは目を見開いた。


 犬だった。


 いや。


 犬ではない。


 全身が黒い金属で覆われている。


 赤い光を放つ両目。


 剥き出しの機械骨格。


 四足歩行。


 体長は大型犬ほど。


 アニマル型。


 AIを搭載した獣型兵器だった。


 人類最後の日。


 各地へ投入され、生存者の追跡や索敵を行った存在。


 それが目の前にいた。


 アニマル型が低く唸る。


 ギギギ。


 機械音が混じっている。


 そして。


 次の瞬間。


 飛びかかってきた。


 ソフィアは横へ飛んだ。


 直後。


 ガキンッ!


 アスファルトが砕ける。


 アニマル型の爪が深く食い込んでいた。


「こっわ……!」


 予想以上だった。


 アニマル型が振り返る。


 赤い瞳が光る。


 そして再び突進した。


 ソフィアは走る。


 全力だった。


 背後から金属音が迫る。


 ガガガガガッ!


 四本の脚がアスファルトを叩く。


 距離が縮まる。


 速い。


 明らかに自分より速かった。


 このままでは追い付かれる。


 ソフィアは振り返る。


 右手を前へ向けた。


 集中する。


 身体の奥にある熱。


 それを掴む。


 解放する。


 ボッ!


 炎が生まれた。


 それを球状にしていく。


 練習し続けた甲斐があった。


 ソフィアは火球を飛ばした。


 アニマル型へ直撃し爆発する。


 だが。


 止まらない。


「っ!」


 ソフィアは目を見開く。


 効いてはいる。


 装甲が焼けている。


 火花も散っている。


 だが倒れない。


 アニマル型は炎を浴びながら突進してきた。


 ソフィアは横へ飛ぶ。


 爪が頬の横を掠めた。


 冷や汗が流れる。


 あと少し遅ければ顔を切り裂かれていた。


 立ち上がる。


 再び火球を放つ。


 二発。


 三発。


 四発。


 爆発。


 黒煙。


 焦げた金属。


 片脚が歪む。


 装甲も焼ける。


 それでも。


 まだ動く。


「嘘でしょ……」


 息が荒くなる。


 胸が苦しい。


 魔法を使う度に疲労も増していた。


 アニマル型が再び飛びかかる。


 避ける。


 転がる。


 立ち上がる。


 また追ってくる。


 終わらない。


 まるで壊れた機械のように。


 いや。


 実際に機械だった。


 恐怖より先に絶望が湧く。


 倒せない。


 今の火力では足りない。


 その時だった。


「こっち!」


 突然。


 女性の声が響いた。


 ソフィアは反射的に振り返る。


 路地の奥。


 茶髪の少女が立っていた。


 見たことのない顔だった。


 少女は必死な表情で叫ぶ。


「早く!」


 アニマル型が迫る。


 考える時間はない。


 ソフィアは走った。


 少女も走る。


 二人は路地へ飛び込んだ。


 背後から金属音が追い掛けてくる。


 ガガガガガッ!


 恐ろしい速度だった。


 曲がる。


 さらに曲がる。


 階段を下りる。


 建物の隙間を抜ける。


 やがて。


 古びた鉄扉の前へ辿り着いた。


 少女が扉を開く。


「中!」


 ソフィアは飛び込む。


 少女も続く。


 直後。


 ガンッ!!


 外側から激しい衝撃。


 扉が震える。


 だが破られない。


 数回の衝撃の後。


 やがて静かになった。


 足音が遠ざかる。


 沈黙。


 少女が壁にもたれた。


「ふぅ……なんとか助かったね」


 茶髪の少女は荒い息を吐きながら言った。


 ソフィアは警戒したままだった。


 知らない人間。


 生存者。


 それだけだ。


 味方とは限らない。


 先に少女から口を開く。


「ねえ」


 視線はソフィアの右手に向いている。


「その火の球は何!? 何なの!? 教えてよ!?」


 少女は興奮しながら、矢継ぎ早に質問責めをしてきた。




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