物資探索
翌朝。
ソフィアはオックスフォードの住宅街を歩いていた。
今日の目的は単純だった。
食料探し。
魔法を手に入れた。
だが。
食べなければ生きていけない。
それは変わらない。
通りには住宅が並んでいた。
どれも似たような家だ。
庭付きの一軒家。
整った街路樹。
かつては穏やかな街だったのだろう。
ソフィアは最も近い家へ向かった。
玄関の扉は半開きになっている。
慎重に中を確認する。
気配はない。
物音もない。
ゆっくりと足を踏み入れた。
リビングは荒れていた。
家具が倒れている。
床には割れた食器。
壁掛けテレビだけは沈黙したまま残っていた。
誰かが慌てて家を出たようにも見える。
ソフィアはキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開く。
嫌な臭いがした。
思わず顔をしかめる。
中身は全滅だった。
野菜も。
肉も。
乳製品も。
腐敗している。
当然だった。
3年近く放置されたのだ。
残るは保存食だけだ。
棚を調べる。
缶詰。
乾燥食品。
ビスケット。
だが。
ほとんど残っていなかった。
「……先に来た人がいる」
ソフィアは呟く。
棚には不自然な空白があった。
食料だけが選んで持ち出されている。
偶然ではない。
生存者だ。
自分以外にも生きている人間がいる。
その証拠だった。
しかし。
安心はできない。
食料を持ち去った人物が善人とは限らない。
ソフィアは探索を続けた。
二軒目。
三軒目。
四軒目。
結果は同じだった。
食料はほとんど残っていない。
残っていても少量。
缶詰を二つ。
乾燥スープを一袋。
そんな程度だった。
昼頃。
ソフィアはスーパーへ向かった。
大きな店舗だった。
入口の自動ドアは開いたまま壊れている。
店内へ入る。
商品棚は空だった。
食料品コーナーも。
飲料コーナーも。
ほぼ何もない。
人類が必死に生きようとした痕跡だけが残っていた。
「やっぱりそうだよね」
少しだけ苦笑する。
誰だって最初に来る場所は同じだ。
スーパー。
コンビニ。
薬局。
だから真っ先に漁られる。
むしろ何か残っている方がおかしい。
奥へ進む。
倉庫らしき場所を発見した。
鍵は壊されている。
中を確認する。
そこで。
ソフィアは足を止めた。
棚の隅。
見落とされていた段ボール。
中には保存食が入っていた。
軍用携帯食。
真空パック。
賞味期限もまだ大丈夫そうだった。
「……当たり」
久しぶりに口元が緩む。
全部ではない。
数日分程度。
それでも十分だった。
リュックへ詰める。
水も見つかった。
未開封のペットボトル。
数本だけ回収する。
重すぎると運べない。
必要な分だけ持つ。
終末世界では欲張りすぎる方が危険だった。
荷物をまとめる。
その時だった。
カツン。
小さな音が響く。
ソフィアの動きが止まる。
気のせいではない。
何かが落ちた音だった。
店内のどこか。
ソフィアはゆっくり振り返る。
静かだった。
誰もいない。
だが。
妙だった。
風ではない。
動物とも違う。
何かがいる。
そんな気がした。
ソフィアは息を潜める。
数秒。
十数秒。
何も起きない。
やがて。
「……気のせい?」
警戒しながらも呟く。
だが違和感は消えなかった。
結局。
その正体は見つからないまま。
ソフィアはスーパーを後にした。
外へ出る。
灰色の空は変わらない。
だが収穫はあった。
数日分の食料。
飲み水。
そして。
自分以外の誰かがこの街にいた痕跡。
終末世界は広い。
けれど。
完全に一人ではないのかもしれない。
そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。
だが。
すぐに打ち消した。
生きている人間がいる。
それと。
信用できる人間がいる。
その二つは別の話だった。




