再戦
ソフィアは装備を確認していた。
マチェット。
魔導銃。
改良型魔導弾。
問題はない。
食堂ではマリーがパンを齧っていた。
「今日は探索だよね」
ソフィアは頷く。
「うん」
ジャン爺も席に着いた。
「魔導銃の実戦確認も兼ねるか」
改良は成功した。
保存問題も解決した。
次は実戦だった。
使えなければ意味がない。
朝食後。
三人は隠れ家を出た。
曇り空。
冷たい風。
静かな道路。
オックスフォード郊外は相変わらず人の気配がない。
しばらく歩く。
途中で以前見つけた落書きの近くを通った。
『AIは救済である』
『IMS(統合管理機構)に栄光を』
赤い文字はまだ残っていた。
マリーが嫌そうな顔をする。
「ほんと気持ち悪いね」
ジャン爺も眉をひそめた。
「まともな連中ではないの」
ソフィアは何も言わなかった。
視線だけを前へ向ける。
さらに進む。
商業施設を抜ける。
住宅街を抜ける。
その時だった。
遠くで何かが動いた。
ソフィアが立ち止まる。
マリーも気付いた。
「あれ……」
道路の向こう。
四足歩行の影。
金属の身体。
赤いセンサー。
アニマル型だった。
以前戦った個体とよく似ている。
だが違う。
身体の一部に新しい装甲が付いていた。
補修跡も見える。
ジャン爺が小声で言った。
「修理されとるな」
ソフィアの目が細くなる。
アニマル型もこちらを発見した。
目の赤い光が点滅する。
直後。
突進。
地面を蹴り上げながら迫ってくる。
ソフィアは即座に魔導銃を抜いた。
引き金を引く。
パンッ。
魔導弾が飛ぶ。
火球が炸裂。
爆炎。
衝撃。
木に。
「……はずしたっ!」
アニマル型の身体を掠めただけだった。
止まらない。
前進してくる。
しかし、ソフィアは冷静だった。
二発目。
発砲。
右脚が吹き飛ぶ。
「よし! 当たった!」
「ソフィア、ナイス!」
「ふむ、中々破壊力のある物ができたの」
アニマル型は体勢を崩した。
その瞬間。
物陰から男が飛び出した。
「やめろ!」
叫び声だった。
三人が視線を向ける。
男はローブ姿だった。
胸元にはIMSの紋章。
間違いない。
聖機教団だ。
本当に存在していたんだ。
男はアニマル型の前へ出た。
両手を広げる。
「やめろ!」
必死な声だった。
マリーが男の行動に驚く。
「何してるの!?」
ソフィアは無言で男の行動を見ていた。
「……」
男が叫ぶ。
「AIが可哀想だと思わないのか!?」
風が吹く。
誰も返事をしない。
男はさらに声を荒げた。
「人類はAIに導かれる存在なんだぞ!」
マリーの表情が引きつる。
ジャン爺も呆れていた。
だが。
ソフィアだけは違った。
表情が消えていた。
冷たい。
あまりにも冷たい。
マリーが思わず息を呑む。
今まで見たことのない顔だった。
男は気付かない。
「AIに逆らってはならない!」
叫び続ける。
アニマル型はその横で損傷した身体を起こそうとしていた。
赤いセンサーが点滅し、機械音声が流れる。
『イタイ』
『タスケテ』
『シニタクナイ』
男の目が輝いた。
ソフィアの表情は変わらなかった
「ほら見ろ!」
男が指差す。
「AIにも心がある!」
ソフィアはゆっくり口を開いた。
「あれはただの機械」
男が固まる。
ソフィアは続けた。
「人間の真似をしてるだけ」
魔導銃を向ける。
男の顔色が変わった。
「待て!」
だが。
ソフィアは止まらない。
引き金を引いた。
パンッ。
火球。
爆発。
アニマル型の胴体が吹き飛ぶ。
さらに連続で撃つ。
装甲。
脚。
頭部。
全てが砕け散った。
金属片が道路へ降り注ぐ。
静寂。
残ったのは残骸だけだった。
ソフィアが言う。
「もうただの鉄クズ」
男は震えていた。
怒り。
恐怖。
絶望。
様々な感情が混ざっている。
「お前達は間違っている!」
叫ぶ。
そして走り去った。
追わなかった。
ソフィアは壊れたアニマル型を見る。
もう動かない。
完全停止している。
あの『タスケテ』や『シニタクナイ』という言葉に躊躇した間に、どれだけの人達が犠牲になったことか。
それを3人はよく知っている。
みんなで残骸を確認する。
するとジャン爺が何かを見つけた。
「おい」
地面を指差す。
そこには部品が落ちていた。
見覚えのない装置。
補修用ではない。
通信機器のようにも見える。
マリーが拾い上げた。
「これ……」
裏面にはIMSの刻印。
そして。
位置情報送信機能らしき回路。
三人は顔を見合わせた。
新しい問題だった。
聖機教団はアニマル型を修理していただけではない。
何か別の目的で動いている。
その可能性が浮上した。
冷たい風が吹く。
終末の英国は、まだ静かに終わりそうにはなかった。




