改良
朝方、工房の灯りがまだ点いていた。
ソフィアは食堂へ向かう途中で足を止める。
嫌な予感がした。
扉を開く。
予感は当たった。
マリーが机に突っ伏している。
ジャン爺は椅子に座ったまま眠っていた。
工具。
設計図。
部品。
工房は完全な戦場だった。
「また寝てないの?」
ソフィアが聞く。
マリーがゆっくり顔を上げた。
「少しは寝たよ」
目が死んでいた。
ジャン爺も目を擦る。
「二時間は寝たの」
本当に少しだった。
ソフィアは呆れる。
朝食後。
工房へ移動する。
机の上には新しい魔導弾が並んでいた。
前回とは少し形が違う。
側面の魔法陣も複雑になっている。
ソフィアが一つ持ち上げる。
「変わった?」
マリーが頷く。
「かなり」
ジャン爺が補足した。
「魔法陣を作り直したんじゃ」
保存。
維持。
固定。
幾つもの役割を持つ魔法陣らしい。
ソフィアは半分も理解できなかった。
マリーが笑う。
「簡単に言うと魔法が逃げにくくなった」
それなら分かる。
前回の問題は魔法が消えたことだ。
時間が経つと魔導弾の中身が抜けてしまう。
使う前に空になる。
それでは意味がない。
「試したの?」
ソフィアが聞く。
マリーは首を振る。
「まだ」
ジャン爺が魔導弾を指差した。
「今日が本番じゃ」
昼前。
三人は再び林へ向かった。
試射場所は以前と同じだった。
倒木。
岩。
開けた空間。
危険は少ない。
ソフィアは魔導銃を構える。
改良型魔導弾を装填。
狙いを定める。
引き金を引く。
パンッ。
轟音。
魔導弾が飛んだ。
火球が現れる。
そのまま倒木へ直撃。
爆ぜる。
木片が舞う。
前回と同じ威力だった。
マリーが拳を握る。
「よし!」
ジャン爺も頷いた。
「問題はここからじゃな」
そこから待った。
一時間。
二時間。
昼食を挟む。
さらに待つ。
午後。
再び魔導弾を装填した。
引き金を引く。
火球が飛ぶ。
問題なし。
マリーが飛び上がった。
「成功!」
まだ終わらない。
夕方。
さらに確認。
結果は同じだった。
魔法は消えていない。
威力も落ちていない。
ジャン爺が大きく息を吐く。
「ようやく完成じゃな」
ソフィアも少し安心した。
これなら使える。
実用品だ。
魔導具がただの試作品ではなくなる。
帰り道。
マリーはずっと機嫌が良かった。
鼻歌まで歌っている。
「そんなに嬉しい?」
ソフィアが聞く。
マリーは即答した。
「嬉しいよ」
夕日が差し込む道を歩く。
マリーは前を向いたまま話す。
「だってさ、初めて未来に向かってるって感じがするじゃん」
マリーは照れたように笑った。
ソフィアは黙る。
マリーの言葉を考える。
未来。
確かにそうだった。
この三年。
生き残ることばかり考えていた。
食料。
水。
寝床。
明日を迎えること。
それだけだった。
でも今は違う。
何かを作っている。
明日より先を見ている。
それは大きな違いだった。




