探索再開
地下施設の食堂。
マリーは机に突っ伏していた。
「眠い……」
目の下のクマが酷い。
ジャン爺も似たような顔だった。
「誰のせいじゃと思っとる」
老人はため息を吐く。
マリーが反論した。
「だって面白かったんだもん」
ソフィアはスープを口に運ぶ。
魔導銃完成。
魔導弾完成。
そして試射成功。
だが問題も見つかった。
魔法の保存。
あれを解決しなければ実用化は難しい。
「今日は休んだら?」
ソフィアが言う。
マリーは首を振った。
「無理」
即答だった。
ジャン爺も頷く。
「無理じゃな」
完全に同類だった。
ソフィアは呆れる。
技術者というのは面倒だ。
研究家の両親もよく似た顔をしていた気がする。
朝食後。
ソフィアは装備を整える。
ナイフ。
魔導銃。
そして少量の魔導弾。
マリーが気付いた。
「出かけるの?」
「探索」
数日ぶりだった。
隠れ家へ来てから研究ばかりしていた。
だが食料も物資も無限ではない。
周辺状況の確認も必要だった。
ジャン爺が地図を広げる。
古い紙地図だった。
「西と南、それと北側近辺は前にワシらが見た時には何もなかったしの」
老人の指が動く。
「なので行くなら東じゃ」
ソフィアは頷く。
オックスフォード郊外。
まだ調べていない場所は多い。
マリーが手を振る。
「気を付けてね」
「そっちも」
「ソフィア、これも持って行きなよ」
マリーから刃渡り40cm前後のマチェットを渡される。
「いいの?」
「うん。魔法が使えなくなった時の為にね。ナイフだけじゃ心もとないでしょ? あと鞘とベルトもね」
「ありがとう」
ソフィアはお礼を言って、腰にベルトを巻き鞘付きのマチェットを右側に装着して外へ出る。
曇り空だった。
風が少し冷たい。
草木は伸び放題。
道路もひび割れている。
だが完全な廃墟ではない。
信号機は動いていた。
街灯も生きている。
遠くでは送電線が唸っている。
文明は残っている。
人間だけが消えていた。
ソフィアは静かに歩く。
警戒は怠らない。
物音。
影。
反射光。
常に確認する。
数十分後。
小さな商業施設へ辿り着いた。
入口は開いたまま。
人の気配はない。
ソフィアは中へ入る。
棚は半分以上空だった。
誰かが持ち出したのだろう。
それでも残りはある。
缶詰。
乾パン。
保存水。
少しずつ回収する。
その時だった。
ガタッ。
物音。
ソフィアは即座に振り返る。
手がマチェットへ伸びる。
沈黙。
数秒後。
棚の裏から飛び出した。
猫だった。
黒と白のまだら模様。
ソフィアは力を抜く。
猫は一瞬こちらを見る。
そして走り去った。
「驚かせないで」
小さく呟く。
猫の姿はすぐ消えた。
終末後。
動物は増えていた。
人間が減ったからだ。
珍しい話ではない。
探索を続ける。
その途中だった。
建物の壁に違和感を見つけた。
落書き。
赤い塗料で書かれている。
『AIは救済である。人類は従うべきである』
ソフィアは近付く。
他にもあった。
『レジナルド様こそ偉大なる救世主』
『IMS(統合管理機構)に栄光を』 (Integrated Management System)
どれも同じ筆跡だった。
「もしかして聖機教団……?」
以前ジャン爺が話してくれたことがある。
AI支持者。
まだ活動している人間達。
ソフィアは周囲を見る。
落書きは完全には乾いていない。
つまり近くにいる可能性がある。
ソフィアは警戒を強めた。
さらに進む。
すると今度は別の物を見つける。
足跡だった。
人間のもの。
一人ではない。
複数。
しかも新しい。
数日前か昨日か。
ソフィアはしゃがみ込む。
観察する。
生存者。
あるいは聖機教団。
判断はできない。
だが一つだけ分かった。
自分達以外の誰か達が近くにいる。
その事実だった。
夕方。
隠れ家へ戻る。
マリーは作業台で眠っていた。
設計図を抱えたまま。
ジャン爺も椅子で寝ている。
ソフィアは思わず苦笑した。
2人が起きてから探索結果を報告する。
「人の痕跡があったの?」
マリーの表情が変わる。
ジャン爺も真面目な顔になった。
「間違いないのかの?」
「うん」
壁の落書き。
足跡。
周辺状況。
ソフィアは見てきたもの全てを報告する。
二人は黙って聞いていた。
ジャン爺が言う。
「聖機教団の可能性が高いの」
「ソフィアが見た時は落書きも乾いてなかったんだよね?」
「うん」
「こりゃ、明日からはなるべく固まって動いた方が良さそうじゃの」
ジャン爺の言葉に、ソフィアとマリーは真剣な表情で頷いた。




