試射
地下施設の工房。
机の上には魔導銃が置かれていた。
金属製の銃身。
側面には魔法陣。
見た目は銃だ。
だが中身は普通ではない。
マリーが胸を張る。
「完成版だよ!」
ジャン爺も満足そうだった。
「昨日より改良したからの」
ソフィアは魔導銃を手に取る。
思ったより軽い。
引き金に指を掛ける。
しかし何も起きない。
「撃てない」
マリーが笑った。
「まだ登録してないもん」
そう言うと銃の側面を指差した。
小さな装置が付いている。
「指紋認証」
ソフィアは少し驚いた。
終末世界で聞く単語ではない。
ジャン爺が説明する。
「誰でも使えたら危険じゃからな」
確かにその通りだった。
ソフィアは指を乗せる。
小さな音が鳴る。
登録完了。
マリーが満足そうに頷いた。
「これでソフィア専用!」
「試してみる?」
ソフィアは即答した。
「もちろん」
三人は施設の外へ向かった。
空は曇っていた。
風が少し冷たい。
試射場所は以前と同じ林だった。
倒木が転がっている。
ソフィアは魔導銃を構えた。
マリーが魔導弾を差し出す。
金属製の小さな弾。
内部には火球の魔法が封じられている。
らしい。
見た目では分からない。
「本当に撃てるの?」
「試射した時は大丈夫だったよ!」
「本当に?」
「うん!」
マリーが自信満々すぎて、ソフィアは少し不安になった。
ジャン爺が笑う。
「なに、大丈夫じゃ。銃自体は耐えられるようになっとるから、爆発するとしても撃った先の方じゃ。指を失ったりすることはないわい」
余計不安になる。
爆発する可能性を含めないでほしい。
それでも試さない理由はない。
弾を装填する。
狙いを定める。
倒木。
距離は二十メートルほど。
引き金を引いた。
パンッ。
乾いた音。
次の瞬間。
轟音が響いた。
火球が飛び出したのだ。
倒木へ直撃。
赤い炎が広がる。
木片が吹き飛んだ。
熱風が頬を撫でる。
三人とも固まった。
数秒後。
マリーが叫ぶ。
「成功したー!」
飛び跳ねている。
ジャン爺も目を丸くしていた。
「想像以上じゃな……」
ソフィア自身も驚いていた。
威力が高い。
普通に火球を撃つのとは少し違う。
魔法が圧縮されているような感覚だった。
倒木は黒く焦げている。
中心部は砕けていた。
「威力が強くなってる」
マリーが得意げな顔をする。
「でしょ?」
その後も試射は続いた。
二発。
三発。
四発。
結果は上々だった。
ただし問題も見つかった。
五発目。
引き金を引く。
しかし不発だった。
「あれ?」
マリーが首を傾げる。
ソフィアも確認する。
壊れてはいない。
弾も正常だ。
ジャン爺が魔導弾を分解した。
数分後。
原因が判明する。
「魔力じゃな」
ソフィアが顔を上げる。
ジャン爺は弾の内部を指差した。
「魔法が抜けとる」
つまり。
時間経過で消えた。
マリーが頭を抱える。
「保存できてないじゃん!」
せっかく完成したのに。
ソフィアは逆に冷静だった。
失敗ではない。
問題点が見つかっただけだ。
研究ではよくある話だ。
「何日くらい保つの?」
ジャン爺が答える。
「まだ分からん」
マリーも頷いた。
「検証しないとね」
新しい課題ができた。
だが三人とも少し楽しそうだった。
昼過ぎ。
帰り道。
ソフィアは魔導銃を眺めていた。
魔法。
技術。
別々だったものが混ざり始めている。
もし改良が進めば。
もっと強くなる。
もっと便利になる。
戦う力になる。
そして。
人類が生き残る力になるかもしれない。
地下施設へ戻る。
昼食は保存食のスープだった。
温かい湯気が立つ。
マリーは食べながら設計図を書いている。
ジャン爺は修正案を考えている。
二人とも完全に夢中だった。
ソフィアは少しだけ笑った。
「また寝不足になるわよ」
マリーはスプーンを止める。
「大丈夫!」
その目の下には薄いクマがあった。
全然大丈夫ではない。
ジャン爺も同じだった。
ソフィアは呆れる。
だが悪い気分ではなかった。
研究施設にいた頃。
一人だった。
今は違う。
何かを作る仲間がいる。
夕方。
工房からマリーの大きな声が響いた。
「ジャン爺!」
「なんじゃ!?」
「思いついた!」
「またか!」
ソフィアは本を閉じる。
どうやら静かな夜にはならないらしい。
それでも。
少しだけ口元が緩んだ。
魔導具。
まだ未完成。
だが確実に前へ進んでいる。
一方、その頃。
遠く離れたオックスフォード市街。
一機の監視用ドローンが、焼け焦げた倒木を発見していた。




