牽制
WTIが二十五ドルの減少を記録した。
これに対しサウジアラビア、ロシア、UAIらは猛反発。ただでさえ世界的インフレによって株価もろども下落しているというのに。WTIにも大きな変動があれば国力が低下する……
過去にもあった大幅な減少の例は、2020年のコロナ渦で、ロックダウンの影響によって原油の非買が進んでいたという経緯がある。
――そして現在、スイス対アメリカの戦争によってイランやアメリカなどの原油を輸入できない状況に陥っているのだ。それに対する対抗措置がWTIの禁利下げ。
■□■
米国エネルギー省と財務省、国務省らの長官は険悪な表情で会議室にいた。
キューバ産の葉巻に火を点けた財務省長官のジョージ・シューマ。
「ジョージ……今回のWTI金利下げについてどういう見解なんだ?」
米国エネルギー省のアドルフ・フリッドマンは現在いる高層マンションの一室から望める最下層を見つつ言った。
「答えろ。財務省から直々にエネルギー省へ圧力があったと報告が上がっている。……どういうつもりだ?」
アドルフの問いにもジョージは無視してずっと葉巻を吸っている。
「――答えないか……」
「まあ、ヒントは与えてやる……」
「ヒント? たわけたことを」
「とりあえず聞け。十年前のアメリカ対イラン戦争を知っているか?」
「……あれを戦争と言ってもいいのなら」
「一バレル50ドル以上を下落したというあれですよ」
「それについてエネルギー省はどういう見解なんだ?」
エネルギー省の男は溜息をついてポケットに手を突っ込んだ。
「世界各国が牽制しあっている。原油を失えば、交通網は麻痺。今後冬を越せるかどうかもわからない」
「それでも……金利をあげた理由はなんだ?」
「簡単な話だ。スイスを悪者にしたいんだよ。アメリカにケンカを売ったからこんな惨事を招いたんだ、ってな。戦争というのは動機付けだ。こじつけでもほんの少し筋が通れば正当性がある」
国務省長官はかぶりを振った。理解したくないというように。
エネルギー省長官はこの部屋から出ていく。
日本財務省大臣 大塚真一は登壇に立った。おおよそ多くのカメラーが真一のことをシャッター交じりに撮る。
「えー、WTIが1バレル50ドルに金利上げしたということで――」
記者の一人が手をあげる。
「日本の影響はどのようにお考えでしょうか?」
「原油が輸入しにくい……すなわち、日本の交通網は弱体化するでしょうね」
記者の面々は固まった。
「どのような手を打つつもりでしょうか」
真一は咳払いをひとつ。それから一言残して踵を返した。
「関係省庁に確認をとってみます」
「先生!」
真一は声のしたほうへ見る。するとそこにはバッジのつけた青年議員がいた。
つい、笑ってしまう。
「おい、剣持。バッジが左に曲がっているぞ」
「あっ、すみません」
「……飯でも食いに行くか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「会議までまだ時間はあるし。どうだ? 若い者はどういうのを食べるんだ?」
「カプリチョーザですね」
「ふーん。じゃあ行こうか」
運転手に連れられて真一と剣持はカプリチョーザへと向かった。
「――あの……不躾な質問かもしれないんですけど……」
「どうした?」
「日本もAI兵器戦争に参加する可能性はあるのでしょうか?」
「……どうだろうな」
「実は、裏でいろいろと決まっていたり?」
「…………」
「ですよね。俺みたいな若造に伝えられるわけないですもんね」
「――これだけは伝えておいてやる。でかくなれよ。すればきっと視野が広がるはずだ」
そう言ってやったら剣持は満面の笑みを浮かべた。




