第三の軍事革命
米国国防総省は、ある民間軍事会社に最高峰のAI-DSS(軍事意思決定支援)システム開発を委託した。
攻撃前のペンタゴンの民間軍事会社への年間支出金額は二五十億ドル(3.8兆円)だったが、現在三九十億ドルを超えた。その要因はシステム開発において巨額バジェットを投資したのもあるが、攻撃によるインフレも原因のひとつだ。
スイスの国力低下は世界中の金融ネットワークや世界保健機構、赤十字国際委員会の壊滅を意味する。オフショア資産は凍結。紛争地域の中立立場での支援なども体を成さなくなった。パワーバランスは崩壊。戦時規定の意味の消失で皮肉だが還って米国覇権を揺るがし始めたのである。
戦争においてのルールは、戦争を『ビジネス』にするうえで必要不可欠であり、それを失うことは金のなる木を伐採するようなものだ。
よって、AI-DSSシステムの生産が急務になったのだ。機能としては、戦争の管理や――それすなわち金儲けのために――各国の軍事兵器やそれに投資できるGDPを瞬時に計算、そして米国においては第二のホワイトハウスの役目を背負わせられるものにしたい。そう大統領は考えてペンタゴン経由で投資した訳なのだ。
そうなればエンジンを一から作り上げることより既存のものを拡張させた方が失敗する可能性は極めて低い――PMCはそう断定した。
そこで目をつけたのが、ゲーム開発エンジンであるU.Eだったのだ。理由は、戦争では基本『仮想』を相手にしなければならない。だからこそU.Eの瞬時に演算し幻想を規格させる、ゲームエンジンの性質が高く評価されたのだ。
それが、米戦術演算兵器――ATCWの誕生である。
□■□
アラン・ジョンソンは入院中の身だった。運良く火傷のレベルがII度だったので後遺症は残らず済んだ。
いつも通り、味気ない病院食を食べ終え息を吐いた。相変わらず不味い。
扉がノックされる。現れたのは奴だった。フォート・カバゾス基地の食堂で、アランに軍事AI兵器の講釈を垂れた男である。
「元気か?」
「病人に言うセリフじゃ無いな」
アランの嫌味にそいつは半笑いを見せる。
「その口振りじゃ安心だな」
「――なんの用だ?」
「お前、デルタフォースに興味があったよな」
「…………」
「どうやらお前に名誉勲章の話が出てるらしい」
「俺は……何もしていない。何も成果を残せず、なのに死なずに国に帰ってきた哀れな兵士だ」
「――続けるぞ。お前が所属していたグリーンベレーの兵力は落ちた。予定では廃棄されるそうだ。そこで陸軍士官が大統領にした提案がデルタフォースの拡大だそうだ」
「何故だ?」
「世界軍時規定が消えたいま、必要なのは現場統治や教育ではなく、武力での制圧、だそうだ。――今後、グリーンベレーの役目は軍事AI兵器が担う、と」
「そんなことが可能なのか?」
「――いいか、覚えておけ。世界は軍事革命の真っ只中だ。俺たちも時代に適応しなくてはならない」
奴の話す内容のほとんどが理解が出来ない。アランは俯いた。
「……これ以上は怪我に障るか。じゃあな」
去ろうとする男をつい呼び止めてしまった。
「なんだ?」
「……名前を聞いてもいいか?」
「メイソン・ベックウィズ……お前のよく知る名前だ」
「――まさか……」
メイソンは今度こそ病室を出ていく。
奴の名前を反芻し、困惑からアランは独りごちる。
「ベックウィズ……チャールズ・ベックウィズに関係が? だとすればあいつは何者なんだ?」
チャールズ・ベックウィズとはデルタフォースの発足者であり、特殊部隊の発展に貢献した人物だ。
――まだ世に出ていないであろう名誉勲章の話せたり、AI兵器の成長を執拗にこだわったりしている様子から窺えるに、メイソンはただの軍人ではないのかもしれない。
奴は何者なんだ……




