スイスからの報復
大規模な被害を受けたスイス連邦は加害国(米国)に対し報復措置を決定。
協力を求めたが――
スイスは東ヨーロッパに位置するため、NATOが包囲しているので、他国はそんな負け戦に援助したところで無駄だと判る。ならいっそのことNATOを表立って敵対しているBRICSに協力を持ちかけることも過ったが、それは無理な話だ。そもそもスイスをアメリカに消しかけたのは、BRICSだから。
国力がどんどん衰退していくなかで、最終決定間近の日。
非公式にホットラインが掛かってきた。
連邦大統領のアダルベルト・シューマンは生唾を飲み込んでから電話を取った。
「初めまして。――大統領」
「誰だ?」
「申し遅れました。アルカイダ指導部のアーディスです」
「アルカイダ……イスラム派のテロ組織か。そんな奴がなんの用だ?」
「大統領はアフガニスタン戦争をご存知ですか?」
「は……? 話の意味が分からんな」
「9月11日。我が師、タリバン様が指揮したアメリカに対する攻撃。だが、アフガン戦争に奴らはぞろぞろ仲間を引き連れて、そして、タリバン様を殺した」
「何が言いたい?」
「あのときはソ連にも侵略されたが……。それからあいつは崩壊しロシアとなってから、我らに擦り寄ってきた。覇権国家、いや、もうあいつらは犬に成り下がったも同然」
アダルベルトは溜め息をつく。
「いいですか、大統領。プーチンの同意は貰っています。BRICSの後ろ盾で"奴ら"の鼻を曲げてやりましょう。いいお返事、待ってます」
通話が切れた。アダルベルトはズボンのポケットに手を突っ込み、大統領室から眺められる空を見上げた。
「何を……信じればいいんだ」
そろそろ夜明けだ――
米国第一特殊作戦群。通称グリーンベレーは、ヘリからスイスにエキストラクションロープで降下。後に多角的に展開。
そこに、アラン・ジョンソンはいた。
住居群はどれらも半壊されており、多くの民間人が犠牲になったと思うと心が痛い。
AK(自動小銃)を構えながらゆっくりと歩く。
すると同じ部隊員が喋る。
「デルタフォースは遥か前方の大統領室を占拠したそうだ」
別の部隊員は舌打ちし、続ける。
「若造が。美味しいところばかり持っていきやがって」
アランはつい、デルタフォースに毒づいた軍人を睨みつける。
「やけに静かだな……」
すると上空彼方から機影が見える。部隊は住居の外側に身を隠す。
その後少しの地響きが鳴る。
目線だけで音が鳴った方角を確認すると、アランはまさかの光景に身体が凍りついた。
地面がかなり燃え広がっている。
まさか、先ほどの飛行船がナパームを。だが、ナパーム(焼夷弾)は1983年からCCWの発行により徐々に使用されなくなり、今では使用禁止の国がほとんどだ。そもそもナパームをこんな都市部でばら撒くなんて。
機影がどんどん増え、ナパーム弾を次々と投下していく。
逃げ場を絶たれたグリーンベレー隊員は身体がどんどん燃え広がり、そして散っていった。
地面に崩れているアランは強烈な痛みや、突き上がる怨みに身体が支配されていることをも感じていた。
目線を上げると機影の正体は戦闘機だと判った。そいつの左舷には忌々しい国旗が刻印されている。
「……ロシア……ッ!」
そして意識を失った。
■□■
三日後。国連理事会。
まばらに席にいるのは理事国の首領の面々だ。
事務総長は唾を飛ばしながら激昂する。
「ロシア戦闘機がEU連合国の上空を侵犯したという情報が上がってきている。スイスにナパームを使用したのは貴国か?」
ロシア軍参謀総長はその言葉に鼻で笑う。
「何が可笑しい?」
「あなたの後ろにはアメリカがいる。アメリカに危害を加えられたからそんなヒステリックに?」
「なんだと!」
参謀総長は席から立ち上がり、理事国の面々を見渡した。
「ナパーム使用は戦時規定で禁止されている。だが、なんの罪もない国に侵略戦争を仕掛けたのは米国ですよ。その侵略戦争こそが、戦時規定、いや、倫理的にどうなのですか」
この場に公でのアメリカ関係者は居なかった。
それが答えだと言うように。




