LAWS
その日ロシアで核実験を行われていることが世界ネットワークで拡散された。
ロシア北極圏、ノヴァヤゼムリャ。1950年代から水爆実験場として活用されていた。
それから時代が変わり、NPT(核不拡散条約)によって実験場としての仕事は終わりを迎えた。
だが、2024年頃からウクライナ侵略作戦により、ノヴァヤゼムリャ水爆実験場は再開発が行われた。
その際に軍務部が注目したのが核実験のデータをAIに記憶させることだった。なぜなら機械学習の一つであるガウス過程を用いて、核データを生成・評価する手法が開発されているため、その試験運用も兼ねていたからだ。
そして水爆実験は成功。ロシアは新たな軍事革命のための狼煙を上げた。
NATOはそのようなロシアの行動を危険視し、マクロン大統領がアメリカ大統領にホットラインを繋げた。大統領は厳しい声音で、「アメリカ側は動かない。軍事費は出すが、基本黙秘しろ」と命じられ、マクロンは表情が引き攣ってしまう。
「大統領! ロシアはいま、ウクライナ侵略をしている最中ですよ」
マクロンの声に、アメリカ大統領は嘲笑を零す。
「そんなこと分かっている。だが、肝心なことをあなたは見えていない。NATOがウクライナに関与している限り、奴は核兵器を用いない。そもそも、地理的にもウクライナから偏西風で核汚染がヨーロッパに流れるからな。奴もそこまで馬鹿じゃないだろう」
「万が一があれば、袋叩きに合う。あの……」
「なんだ?」
「国連常任理事国に中国とロシアがいますが、どうにかすることは?」
「――どうにか、とは?」
「……すみません。では」
□■□
それから十年後。米国陸軍に新人隊員が組織入りした。2034年の事だ。
名はアラン・ジョンソン。端正な顔立ちに精気が迸る眼。屈強で。――女が追い求めるダンディズムを実像させたような男だ。
フォート・カバゾス陸軍基地。ロサンゼルス。
陸軍に入りたての新米に、上官がここで兵士とは何たるかを徹底的に指導する。
そのカバゾス基地にアランは所属していた。
朝目覚め、舌打ちする。その数十秒後、起床ラッパが兵舎に鳴り響く。
いつもこれだ。起床ラッパが耳障りで。身体を起こし、素早く兵装に着替えてグラウンドへ向かう。
ランニングを数キロこなしたあと、次は食堂に往く。
席に座り、DFACに則った、高カロリーだが栄養価など計算されたものを口に運ぶ。
いつもの不味い味だ。これで疲れなど取れるものか。
すると横に、見かけたことが無い兵士が座った。
「どうだ? 新人訓練は?」
アランはその藪から棒な男を睨む。
「そんな眼をするな。……というか、お前は訓練が終わったら、どこか配属希望を出すつもりはあるのか?」
アランが溜め息を零したあと、
「俺は、将来デルタフォースに入りたいと思っている」
そいつは失笑する。その態度にアランは苛立ちを覚える。
「おい、お前が聞いてきたんだろ」
「いやいや、すまねえ。今どきデルタフォースかって思ってな」
「は?」
「時代遅れって言ってんだよ」
「…………」
「LAWSって知っているよな?」
「――自立型致死兵器システム……」
答えを聞けて満足な気分になったのか、その男は笑みをこぼす。
「これからは戦場や、それを統治するのもAIの時代だ――」
男は最後にアランの肩を叩き、この場から去る。
「あいつとは関わらない方が良い。頭がイカれている」
先ほどまで男がいた席に蔑視の視線を投げる金髪の女性兵士。
「それは俺の好きにする」
「そう。じゃあ」
食事終了のラッパが鳴る。トレイの上にはまだ八割ほど食事が残っている。
我慢できず、舌打ちした。




