403.惑星の良さを体験して
ザザンザザン。
腹ばいになった砂浜から打ち寄せる波の音が聞こえてくる。
波打ち際に背をむけてビーチアンブレラの下で優雅な昼寝、全力で遊んだ心地よい疲れをこの振動が癒してくれるような気がする。
うーむ、気持ちがいい。
「なんとも締りのない顔ですね」
「休暇なんだから別にいいだろ」
「事前調査と言う話ではなくて?」
「それはそれ、これはこれ。調査自体は大方終わってるし後は報告書を待つばかり、詳細な調査をしないことにはテラフォーミングも出来ないしやることをやったらあとは休暇だ」
薄っすらと眼を開けるとナディアさんに上から見下ろされていた。
アングル的に非常にきわどいが、本人的には気にしていない様子。
ビキニ姿がなんとも健康的でうちのヒューマノイドに見習わせたいくらいだ。
「横を借りても?」
「まだまだ影はあるんだ好きにしてくれ」
「まったく、そういう所ですよ」
「さて、何のことだか」
色恋だのなんだの考えるのがめんどくさいお年頃、そんなので関係が崩れてしまうのならばその程度だったという事だ。
なんとなく別方向から視線を感じる気がするけれども目をつぶってしまえばそれもわからなくなる。
両手を枕にして目をつぶると、ナディアさんが左にくる気配がある。
はぁ、風が気持ちいいなぁ。
「マスター、浮気ですか?」
「自分の主人に対する開口一番がそれなのか」
「失言でした、言いなおします。それでは・・・逢引き中ですか?」
「お前なぁ」
盛大なため息をつきながら顔を上げると、例のきわどい水着を身に着けたアリスが腰に手を当てて仁王立ちで見下ろしている。
こちらはきわどいを通り越してもはや別の次元だが、ヒューマノイドだと思うとそこまで気にならないわけで。
「恥ずかしくないのか?」
「我々に羞恥心と言う概念はありません。もちろん世間一般の常識で考えるとそうかもしれませんが、こういうのお好きですよね?」
「誤解を生むような発言は止めてくれ」
「じゃあどんなのが好きなの?」
「そりゃぁ・・・って、おい」
「何かしら」
「二人ともそんなに暇なのか?せっかくの惑星なんだぞ、もっとこう遊んだり・・・したもんなぁ」
そう、ひとしきり遊びまくって気づけばもう夕方。
今日は夜間調査もするという事なので調査隊の面々はこのまま惑星に宿泊することになっている。
一応ソルアレス内で休む予定ではあるけれど、どこで手に入れたのかテントらしきものが砂浜の一番上に設置されており、ミニマさん達はそこで一泊するつもりらしい。
幸い嵐は来そうにないので一晩ぐらいなら問題ないという事だが・・・元気なもんだ。
「これ以上何を遊べっていうの?」
「ひとしきり楽しむものは楽しんだか。唯一してないとしたら泳ぐことだが・・・このまま入るのは不味いんだっけ?」
「止めはしませんが痒くなりますよ」
「塩分濃度が濃いとそうなるわね。まぁ、直ぐに流せばいいんでしょうけど」
「そこまでして泳ぎたいわけじゃないしな。後はまぁ夜までゆっくりしてくれ」
もうすぐ陽が落ちる。
夜が来ればいよいよお待ちかねの時間、ローラさん達が楽しみにしているとっておきが始まるだろう。
「そういやナディアさんは惑星に降りたことがあるんだったな」
「えぇ、この前話した通りよ。でもこうやってプライベートでっていうのはかなり久々ね」
「その時は何泊したんだ?」
「確か一週間だったかしら」
「・・・金持ちめ」
「子供ながらに楽しかったのを覚えてるわ。あの頃はどのぐらいの価値があるかなんてわかってなかったけど、今になればもっと楽しめばよかったと後悔しているくらいよ」
数時間滞在するだけで数百万の金が飛んでいく世界で一週間がどれだけすごい事か、でもそれがわかるのは金の価値を理解している大人だからこそ。
だが、今後はそんなことを気にすることなく惑星生活が楽しめるんだからなんとも贅沢な話だよなぁ。
「そろそろ陽が沈みますね」
「お、いよいよか」
「はるか昔太陽が沈む一瞬だけ別の世界とつながるという言い伝えがあったそうです。そこにはもう一人の自分がいて別の生活を営んでいるのだとか、ご存じですか?」
突然アリスが難しい話を始める。
確か量子力学とか理論物理学なんて言う小難しい学問で大昔から議論され続けている奴だったはず、ホロムービーでは鉄板のネタではあるけれど、それを現実で考える事はほとんどない。
「確かパラレルワールド理論ってやつか」
「選ばなかった方の選択肢を選んだもう一人の自分だったかしら?アンティークヒューマノイドが随分とオカルトめいたことを言うのね」
「可能性の世界を否定することはできませんから。もしマスターに拾われていなかったら、そう考えない日はありません」
「確かにそれを考えない日はないが・・・だが、結局現実が全てだからな。アリスはいるしこうやって惑星を買うことも出来た。まぁ不安は尽きないがなるようにしかならないだろう。幸いここには頼れる仲間もいるし、どうにかなるさ」
もしアリスに会っていなかったら今こうして沈みゆく夕陽を見ている事なんてなかっただろう。
今でもあのコロニーにいて別の仕事を探しているか、はたまた一念発起してラインぐらいには移動して、また掃除夫として小汚い宙賊船を洗っていたかもしれない。
が、それはあくまでも可能性の話。
どれだけタラレバの話をしても現実が変わることはない。
「そこに私は入っているのかしら?」
「当たり前だろ、今度の辺境調査は俺も期待してるんだ。是非面白い物を見つけてきてくれ」
「あら?一緒に来てくれないの?」
「一緒に?そんな話になってたか?」
「別にそういうわけじゃないけど・・・折角なら一緒の方が面白いと思っただけよ」
「ナディア様、うちのマスターが誠に申し訳ありません」
ナディアさんにはこの間鹵獲した中型バトルシップを編成して地図の無い宙域の調査をお願いしている。
星間ネットワークもなくどんな星があるのかもわからない未開拓宙域、この惑星の未来を考えるとそういった場所を開拓していく必要がある。
何をするにしても人はいるし、金を生み出すための資源が必要。
もしその宙域に手付かずの小惑星があり、そこでレアメタルが産出出来ればそれこそ良い稼ぎになるだろう。
もしくはどこからか逃げ出してきた宙賊がつぎはぎのコロニーを形成しているかもしれない。
何があるかわからないからこそロマンがあると、昔の開拓者たちは言ったそうだ。
まさか現代においてそれと同じことをすることになるとは思わなかったが、その辺は経験豊富なナディア大佐・・・じゃなかったナディアさんにお願いするはずだったんだけど、どうやらそういうわけにはいかないらしい。
「アリス、今後の予定は?」
「特に何も、事前調査が終わりましても結果が出るのはまだ先になりますし、フロンティアに戻ったところでやることと言えば減っていく残高を眺めるだけでしょうか」
「・・・はぁ、現実に戻るわけか」
「それならばナディア様と共に辺境探索に出るのも悪くないかと。生憎イブ様とミニマ様は運搬の仕事が入っていますのでご一緒できませんが、ソルアレスは動かせますのでローラ様とテネスも同行できるかと」
「ふむ、そこまでの大仕事にはならないと思うが・・・折角だし一緒に行くか」
ここで行かないという選択肢を選ぶとろくなことにならない。
それに、親父もやった辺境探索を息子の俺がするというのも乙なもの。
そうと決まれば惑星の良さを今のうちに堪能しておくとしよう。
宇宙に戻ればこういうのんびりした時間を過ごすことも出来なくなる。
「では皆様にはそのように伝えておきます、ナディア様これでよろしいですね」
「えぇ、報酬は口座に入れておくわ」
「はい?」
「なにか?」
「いや、今報酬って言ったか?」
「言いました。マスターを調査に駆り出す手伝いをして欲しいと言われまして、10万ヴェイルで引き受けましたので」
「いや、やっす!」
まさか俺がそうなるように仕向けるよう依頼されていたとは思わなかった。
しかもそれをたった10万ヴェイルで引き受けるとか、言い換えればその値段で主人を売ったって事だろ?
それなのになんの悪びれる顔もせず、むしろ何か問題でも?と言う感じで俺を見てくる。
まったくこれだからうちのヒューマノイドは。
空を見上げれば満天の星空、それを見ながら盛大なため息が出てしまった。




