399.自分の居場所に帰還して
「お、見えて来た」
遠くに見えるフロンティアコロニー、メインモニターの宙域マップには表示されているものの肉眼で見るとまた安心感が違うなぁ。
その奥に見える青い星が俺達の買った惑星、テラフォーミングをすると見た目も少し変わるらしいけど陸地が増えるともう少し茶色くなってしまうのだろうか。
「はぁ、やっと安心できるよ」
「そんなに緊張してたのか?」
「あたりまえじゃないか、あの人の力でオールデリートされかけたんだよ。一応オフライン物理ドライブにバックアップしてるとはいえ、自分が消える恐怖は想像を絶するものがあったよ」
「ここなら大丈夫なの?」
「これだけ離れてたら遠隔での攻撃も難しいし、一応アイツと私達で出来る限りの防壁を作ってるから一秒ぐらいは時間を稼げるはず。それだけあればなんとかなるから」
「一秒でどうにかなるのか」
その辺が俺にはよくわからないけど、自分の創造主相手に彼女たちなりに色々と策を講じているようだ。
この間の口ぶりからすると近づかなければ特に問題ないっていう話だったが、念には念を入れた方がいいんだろうなぁ。
「それで、帰ったら何する?」
「そりゃ報告だろ」
「そんなのはわかってるよ。それが終わったらの話、遊ぶ?寝る?イチャイチャしちゃう?」
「寝る」
「えー、つまんないの」
メインモニター全面を使ってどアップで不満げな顔を見せるリリス、こいつらは一体何を期待しているのだろうか。
「まぁ今でも操縦はローラさん任せだし半分寝てるようなもんだけどな」
「私だってほとんどオートパイロットだし似たようなものよ」
「別に僕の事なんて気にしないで好きなだけイチャイチャしたらよかったのに」
「そういう気づかいは不要だって言っただろ」
「そうですよ、私達には私達のペースがありますから」
「ふ~ん、とか言って裏でイチャイチャしてるの・・・わーーーダメダメ!消さないで!それは駄目!」
何やらよろしくないことを言い出したので、オフライン物理ドライブの電源ボタンに指を伸ばした瞬間大騒ぎするリリス。
お前らの監視下でよからぬことなんてできるかっての。
今後はその辺も含めて何か対策を講じるべきだろう。じゃないとこいつらだけでなく母親も覗いてくる可能性がある。
まったく、何が楽しくてそんなことをするのやら。
そんな話をしながらも数時間後には無事にフロンティアコロニーへと入港、ハッチを開けるとクルー総出のお出迎えを受ける事となった。
「ただいま」
「お帰りなさいませマスター、そしてローラさん。お務めお疲れ様でした」
「お二人ともお帰りなさい、大変だったそうですね」
「まぁこっちはこっちでなかなか大変やったけどな。アリスちゃんもテネスちゃんもそれはもう大騒ぎで・・・って、これ黙っとかなあかん奴やったっけ」
ミニマさんがしまったっていう顔をしているけれども、その辺は想定の範囲内だ。
「その辺の話はまた後でするとして・・・アンナ様は?」
「今は別の公務に出ておられるようです。今日はお会いできないとのことですので、明日また訪問いたしましょう」
「明日でいいのはありがたいな。時間的には・・・ちょうど夜か、ローラさんお腹の空き具合は?」
「沢山は無理ですけど少しなら」
「ってことで飯でも食いに行くか」
「やった!ご飯や!」
「お疲れじゃないですか?」
「疲れてるから飯を食いに行くんだよ、食って寝るのが一番の休息だからな」
表向きはそう言う事にしているけれども、酒が入らないと話せないような内容でもある。
まずは腹ごしらえをして英気を養いつつ、それから本題に入るとしよう。
「なるほど、あの方がそんなことを」
「詳しく聞くのもアレだったからスルーしたけど、よっぽどヒューマノイドの事を嫌ってるみたいだな。理由は生殖機能がないかららしいが、自分で作っといて随分と無茶を言うよ。じゃあ子供が産めない人は人間じゃないってのか?」
「人の営みを尊重するが故に私達ヒューマノイドを汚染物扱いするなんて、ひどい話ね」
「そりゃ独創性と言う面では人類に負けるけど僕達は僕達で色々と考えているんだけどねぇ」
「まぁ何と言われようとアリス達は俺の仲間だしそれを排除するような人とは相容れない。別にこっちから近づかなければいいだけだし、しばらくは様子見でいいだろう。何かあれば今後は別の人に行ってもらえればいいだけだ」
良い感じに小腹が満たされ、アルコールも回って来た所でリジェクト・シンセティカでの出来事を報告した。
本来であれば母親との感動の再会・・・になる予定は元々なかったけれど、それでももう少しましな結果になると思っていた・・・のだが、結果は御覧の通り。
喧嘩別れとまではいわないけれども少なくとも良い感じの別れ方は出来なかった。
だがそれはお互いに譲れない部分があるのだから仕方のない事、さっきも言ったようにこっちから近づかなければいいだけなのでしばらくは静かにしておこう。
「なんにせよこれで仕事は終わり。これからは惑星のテラフォーミングの方に注力するから、サポートよろしくな。資金も増えたしミニマさんの方で追加資料はまとめてくれてるんだろ?」
「もちろんや!社長から返答も来てるけど、ええ感じの内容やったで」
「ほぉ、それは期待できそうだ。イブさんは確かフロンティアの警備部隊に指導を始めたんだっけ?」
「今回鹵獲したバトルシップを編成して警備部隊を新設しました。中型船が何隻か余りましたのでまた別の運用を検討中です」
「別の?」
「辺境の調査隊を作ろうと思てんねん。フロンティア周辺宙域は調査出来てるけどまだまだ未開の地域もあるし、宙域の今後を考えたら入植できる惑星が後一つ二つは欲しい所やから事前調査しよう思てんねん。中型のバトルシップなら燃料もそこそこ積めるし何かあった時に対処できるやろ?そんで、問題ない宙域には星間ネットワークを敷いていくつもりや。そっちの資材についても発注済み、費用は国が出してくれるってアンナ様が言ってたから大丈夫やで!」
どうやらこっちはこっちで面白い事を考えているらしい。
確かに俺達の惑星だけじゃ宙域を盛り上げる事は出来ないし、入植できるようになっても住む人を連れてこなければならない。
前に行ったような観光惑星にするのか、はたまた普通に住める惑星にするのか。
まだテラフォーミングが進んでいないのでどのような資源があるのかとかその辺もわかっていないけれども、なんにせよ住民は必要なのでその辺を手配する必要はあるだろう。
「あの、事前調査ってどんなことをするんですか?」
「事前調査の内容は主に三つ。まずは大まかに飛行をして宙域にどんな場所があるのかを確認する広域調査、次いで広域調査をもとにして発見した小惑星などを調べる詳細調査、最後にそれらにて発見された物に対処する対象調査になります。対象調査には未開拓地域に隠れている宙賊などを発見することが多いので、それらを撃退することも含まれています」
「そして、それらが終わったら星間ネットワークを設置して初めて開発地域と認定されるってわけ。今回の場合はアンナ様の管理宙域が増えるんだけど、ドンドンと広がっていくと管理しきれなくなるから国に申請をするともれなくそこの管理者になれるのよ。爵位がもらえるかは功績次第だけど、良い感じの惑星とかがあるともらえるケースが多いわね」
「昔はそれを求めて誰もが辺境を目指したってわけか」
「実際何もない空間を当てもなく飛び続けるわけだからお金も時間もかかるし、わざわざやる人も少ないけど、僕達の場合はその辺をクリアできるだけの資金も機材もそろってるからね。やらない理由がないってことだよ」
ただ惑星に住むと言ってもやることは盛沢山。
特にテラフォーミングが終わるまでは年単位の時間がかかるケースが多いので、それと並行して調査や資材の準備をするのが今後の仕事になるだろう。
追加で億単位のお金がポンポン出ていく可能性を考えると事前に稼いでおく必要もあるので、夢の隠居生活と言うのは難しい。
それでも前進しているのは間違いない。
「とりあえずそっちの方は任せた」
「畏まりました」
「アリスは引き続き全体の進捗確認、テネスはミニマさんと一緒にそっちの調査に注力してくれ。リリスは情報収集をよろしく、ローラさんは資材関係とコロニーとの折衝を頼む」
「ではマスターは何をされるんですか?」
「それらを確認しながらふんぞり返る!」
「つまり全部の仕事に首を突っ込むわけですね、頑張ってください」
いや、俺はただふんぞり返るだけ・・・ってそれを許してくれるメンバーじゃないか。
惑星を買うためにここまで来たけど惑星を買ったら買ったで、また忙しくなるという残念な状況。
でも夢はかなったんだ。今度はそれを大きくするために頑張るとしよう。
全員の視線を浴びながら、改めて自分の居場所に戻ってきたことを実感するのだった。




