398.とりあえず役目を終えて
「以上がフロンティアコロニーからの連絡事項だ。今後この宙域は更なる発展を目指し多くの船が行き来することになるだろう。不要なトラブルを避けるためにも引き続き良好な関係を築いていきたいとアンネリーゼ様は考えておられる、もちろんこのコロニーの考え方を否定するつもりもない。我々は良き隣人、良き取引先だという認識に変更はないし、そこに新しい友人を加えてほしいと思っている。まぁ、新しい惑星が使い物になるには最低でも一年、軌道に乗るには三年はかかるだろうからしばらくは大人しくしていると思ってくれ」
フロンティアコロニーで預かった書類の読み上げ、それが今回の依頼。
たったそれだけなのに色々な事があった気もするけれど、まぁ結果としては無事に終わったと言っていいだろう。
目の前にで慈愛に満ちた表情を浮かべて母親・・・リスティアさんが俺をじっと見つめていた。
「リジェクト・シンセティカの代表として確かにメッセージを受け取ったわ」
「それはなによりだ。で、なんでそんな目で俺を見るんだ?」
「息子の成長を見られて感動しているの」
「成長って、ずっと見てただろ」
「モニター越しと直接では全くの別物よ。貴方だって絵で見る惑星と実際に降りた惑星では違ったでしょ?」
「まぁな」
「それと同じ。自分でお腹を痛めた子がこうやって立派になって戻って来た、親としてこれほどうれしい物はないわ。貴方も親になればわかるわよ」
「親ねぇ・・・」
母親を前にして言うのもなんだが自分が親になった姿ってのは正直想像がつかない。
別に夢見たことがないわけじゃないけど、前の嫁との間にも結局できなかったしなぁ。
一応調べてみたけれどもどちらにも異常は無し、要はタイミングという物らしいけど・・・まぁそっちでも相性は悪かったのかもしれないな。
「改めていいものだと実感したわ」
「それに近いものなら過去にもいただろ?」
「あれは・・・あの子たちは子供じゃないわ」
「先に言っとくがそれに関してはこれ以上深く聞くつもりはない。このコロニーの代表としての考えもどうしてそうなったのかも聞いたところで理解は出来なさそうだし、それを聞いて否定する気もない。ただ一つだけ言わせてもらうとしたら、彼女達は俺の大事な仲間だ。ここまでこれたのもアイツらがいたから、その頑張りを否定することは許さない」
「私もそれをするつもりはないわ。でもここには来ないで、以上よ」
「それはしないと約束しよう」
理由を聞きたいという気持ちよりも聞いたらめんどくさくなるという気持ちの方が強いので、あえて強い言葉で言わせてもらった。
どうやら向こうもそれを察してくれたのか会話はそこで終了。
お互い良い大人だし・・・って、数百年生きてる人に対してそれを言うんはなんだか変な気持ちだが、ともかく無事に役目は果たせたようだ。
「因みに孫はいつでも見せに来ていいわよ」
どうやらまだ終わってなかった・・・っていうかぶっ飛んだ方向から話が降って来た。
「一体何の話だ?」
「あら、だって貴方結婚するのよね?」
「誰と?」
「その子、ローラさんだっけ?良い子じゃない、生殖器官に異常もないしいい子を産めるわよ」
「え、そうですか?」
「そうですかって、いきなりこんなこと言われてなんとも思わないのか?」
「お義母様に認めてもらえるんですから別に何も・・・」
いや、そもそも結婚するっていう話にもなってなかったと思うんだが?
まずは交際からなんていう年じゃないけどさぁ、あまりにも話がぶっ飛び過ぎてないか?
「ほら、やっぱりいい子じゃない。それとあの子、えーっと名前は・・・」
「ナディア様ですか?」
「そうそう!あの子もいいわね、家柄も申し分ないしこれからを考えるとお嫁さんにしておくに越したことはないわよ。子供は何人いてもいいわけだし、あの人もきっと喜んでるわ」
「親父は関係ないだろ」
「関係あるわよ、だってあの人と私の遺伝子が繋がっていくんだから。人の営みは遺伝子の営み、それを続けてつなげていくことは貴方達人間にしかできない特権。それを放棄することは許されないわ」
さっきまでの表情とはうって変わって鋭く冷たい目で俺を見る・・・いや、睨みつけてくる。
それはまるで自分と父親の遺伝子を途絶えさすなんて許さない、そんな強い意志のようなものを感じるもの。
なんだろう、やっぱこの人は俺達とみている方向が違うそう確信させるには十分な反応だった。
「許されないって・・・」
「ローラさん、こんな子だけど色々と助けてあげてね」
「もちろんです」
「あら、そろそろ限界みたいね。煩い子たちが必死に頑張っているみたいだからこのぐらいで終わりましょうか」
「うるさいって、アンタが生み出したんだろ?」
「そうね、私が生み出してしまった罪。人の形をしていながら人としての営みを成しえないただの入れ物。あの時、まだ未熟だった自分が生み出してしまったけれど、今となってはもう不要なものよ。人は人を生み出せるようになった。でも安心して、それはあくまでも非常時にだけであの子たちが世に出ることはまずないわ。出た所で・・・ううん、これ以上は教えてあげない。だって怖い顔してるもの」
暴れ出す怒りを必死に押さえようとしていると、ローラさんがそっと手を握って来た。
もちろんそんなことで俺の怒りが無くなるわけではないけれど、それでも冷静に慣れたのは間違いない。
だめだ、この人とは根本的に合わない。
いや、合わないっていうか合うはずがない。
そもそも見ている軸が違うんだ、そりゃどこまで行っても交わることはないだろう。
「ローラさん仕事は終わった、早く戻ろう」
「わかりました」
「それじゃあまたね、何かあったらこっちから連絡を入れるから安心してちょうだい」
「連絡は不要だ、失礼する」
荒々しく席を立ちそのまま部屋を出ると、リムさんがドアの外で待機していた。
「ハンガーまでお送りいたします」
複雑な感情が自分の中を暴れまわっているせいでその後の事はよく覚えていない。
気付いた頃にはソルアレスのキャプテンシートに座っていて出発の順番を待つだけだった。
聞きたいことは沢山あった。
もしあったらどういう話をしようかとシミュレーションしたこともあったし、親父の事や35年間何をしていたのかとか色々と聞けるんじゃないかと期待していた自分がどこかにいた。
アリスやイブさんの事もそうだ。
俺の大事な仲間がどうやって生まれのか、その辺について聞くことが出来ればもっと理解も深まるんじゃないかと思っていたんだ。
だが現実はそんなに甘いものではなかった。
「こちらリジェクト・シンセティカコントロール、ソルアレス応答願います」
「こちらソルアレス、出発許可を願う」
「出発許可が出ました、良い旅を」
「ローラさん、出してくれ」
「了解キャプテン」
ソルアレスがゆっくりと動き出し、みるみるうちに白いコロニーが小さくなっていく。
一定距離離れた所で一気に加速、アッというまに見えなくなってしまった。
「ちょっとまって、今やって・・・あ!開いた!」
「マスター!マスター御無事ですか!?」
「ローラさんもいる!ねぇ、大丈夫?何かされなかった!?」
「あぁ、本当によかった。いつもの不貞腐れた顔です」
「いや、あの顔見て何で安心するのよ。どう考えても何かあったでしょ」
「そんなことはどうでもいい話です。あの顔をしているということはいつものマスターだという事、それがわかっただけでも十分です」
それとほぼ同時に回線が開き、なんとも賑やかな感じになる。
あぁ、これが俺達の日常だ。
煩いはずなのになぜか心地いい、この空気感にやっと肩の力が抜け詰っていた何かが抜けていくのがわかる。
「誰の顔が悪いって」
「マスターが男前の顔だと話しているだけですが?」
「まったく、適当なこと言いやがって。とりあえず報告はするから少しおとなしくしてろ、画面がうるさい」
「畏まりました。三分後にまた繋ぎます」
「いや、みじか!」
「こっちが何時間待ったと思ってるんですか。ともかく三分間だけ待ってあげますから、覚悟してくださいね」
「え、ちょっと待って、わたしも!?」
それだけ騒いでメインモニターがブツリと途絶える。
リリスはこの船にいるはずなので彼女も含めて回線を切ったという事だろうか。
「やれやれ騒がしいったりゃありゃしない」
「仕方ないわよ、心配してたんだから」
「まぁそれもそうか。とりあえずやることはやったんだ、皆の所に帰ろう」
「えぇ、帰りましょ」
俺達の居場所はここじゃない、騒がしい仲間の待つフロンティアコロニーに向かってソルアレスは一気に加速を開始したのだった。




