397.ある意味想定内の相手と対面して
応接室に案内されてきっかり十分後、部屋にやって来たリムさんに連れられて再び建物の中を移動する。
なんで金持ちはこんなにたくさんの部屋を作るんだろうなぁ、なんて思いながら移動しているとひときわ大きな扉の前で立ち止まった。
「こちらになります」
「これはまた・・・派手だな」
「でもやっぱり白が基調なんですね」
「我々の理念に基づく色ですから」
白い扉には複雑な模様が掘られており、これもまた人の手で作られていることが伝わってくる。
人が介した物しか使わない、そんな強い意志を感じるのだが流石にこの建物は違うだろう。
今時手作業で建築するなんてことはあり得ないし、それこそ大勢のアンドロイドが導入されたに違いない。
「・・・掃除が大変そうだ」
「それは言わないお約束です」
「そりゃ失礼」
「では参りましょう。代表、お二人をお連れしました」
「入りなさい」
ノックをすると先ほどの部屋で聞いたあの声が返って来た。
やはり本人の肉声だったか、そう思いながらリムさんの後に次いで部屋の中へ入った次の瞬間。
「あ」
「え?」
まさか、嘘だろ?
様々ある可能性の中で一番低い物をドンピシャで引き当ててしまい思わず声が出てしまった。
ここにいるのは分かっていた。
だが、まさか代表として目の前に出てくるとはだれが想像できただろうか。
写真の中、もしくはあの監視カメラの映像だけでしか見たことのなかった人が、さも当たり前のように目の前に座っている。
自分の母親。
アリス達を作り、俺を産んでどこかに行ってしまった人。
その人が目の前にいる。
リムさんに誘導されるがまま向かい合うようにしてソファーに座るとその人はにこやかにほほ笑んだ。
「ようこそリジェクト・シンセティカへ、我々は二人を歓迎します」
「お招きいただきありがとうございます」
「貴女がローラさんね。リムから色々と聞かせてもらったけどなんでも香茶を淹れるのが得意なんだとか、是非飲んでみたいわ」
「機会がありましたら是非とも」
「ふふ、ありがとう。リム、あれをもってきて頂戴」
「こちらに」
その人に言われるよりも早くリムさんが壁際のスツールに置かれていた大きな箱を机の上にそっと置き、それをゆっくりと持ち上げる。
出てきたのはあの店で見たティーカップとティーポットだ。
「ここまで来てもらったお礼に是非これを貰っていただけないかしら」
「そんな!こんな高価なもの受け取れません!」
「いいのよ、ここに置いておいてもなかなか売れないし使ってくれた方が作者も喜ぶわ。せっかく特使様にここまで来てもらって手ぶらで帰らせるわけにはいかないから」
「嫌味か?」
「ふふ、そんな顔しないで。折角の再会じゃない」
「望んだ形じゃなかったけどな」
「あの、代表?」
「リムは少し席を外してもらえるかしら」
「畏まりました、それでは失礼します」
本人も思う所はあるはずなのに言われるがまま素直に部屋を後にする。
部屋に残されたのは俺とローラさんそれとあの人だけ。
「さぁ、これで余所者はいなくなったわ。なのにまだそんな顔してるの?」
「そりゃそうだろう。いるのは分かっていたがまさかこのタイミングとは思ってなかったんだ。っていうか一番低い可能性が当たるとは・・・」
「まったく、こんな素敵な女性を連れて来て紹介もしてくれないなんて悲しいわ。ローラさんも大変でしょ、この子頑固だから」
「そんなことありません、素敵な男性です」
「あら、ありがとう。よかったわね今回は素敵な人みたいで」
明らかに俺を挑発する口ぶり、わざとだとわかっているのになぜかカチンと来てしまう自分がいる。
まるで母親に当たる反抗期の息子のよう・・・って、まさにその通りなんだけどさぁ。
「知ったようなことを言わないでくれ、アンタに俺の何がわかる」
「わかるわよ、だってずっと見ていたもの」
「見ていた?」
「えぇ、貴方が生まれてから大きくなるまでずっと。傍にはいられなかったけど、どんな時も貴方の事を見守り続けてきた。だから、あの人がここまで育ててくれたことにとっても感謝してるの。もちろんイレギュラーな事は沢山あったけど、まさかこうして直接会えるなんて思ってもみなかったわ」
「じゃあ親父が死ぬのも・・・」
「人は死ぬ。それは仕方のない事よ」
そうはっきりと言い切られるとこれ以上は何も言えなくなってしまう。
人は死ぬ、その通りだ。
だがこの人はどうだろうか、俺を抱いたあの写真のまま何一つ変わっていない。
あの写真から最低でも35年は経過しているはずなのに、じゃあなんでこの人は・・・っと思ってしまうのだが、今はそれをぐっと飲み込んだ。
今聞くべきはそう言う事じゃない。
ただ一つ言えることがあるとすれば、親父は一人で死んだと思っていたけれど一応はこの人に看取られて?死んだことになるのだろう。
「親父は苦しんでたか?」
「いいえ、幸せそうに亡くなったわ。最後まで自分の人生を生きた、素敵な男だった」
「それを聞けただけでも十分だ。それじゃあ仕事の話をしようじゃないか」
親の死に目に会えなかったのが正直心残りだったんだが、あの人の最後を知れただけでもここに来た価値は十分にある。
後はもうどうでもいい話、色々と聞いた所で今が変わるわけじゃない。
「あら、他に聞きたいことはないの?あの子たちの事とか、もちろん私の事とか色々と知りたいんじゃない?」
「知りたいことは山ほどあるさ、だが今日は仕事で来たんだ。のぞき見していて知ってるだろうけどこれからかなり忙しくなるんでね、さっさとやることやって向こうに戻るつもりだ」
「惑星を買うだなんてあの子に唆されて夢を言い出した時はどうしようかと思ったけど、まさか本当に買ってしまうなんて思わなかったわ」
「別に唆されたわけじゃない。それに、アイツが俺の事を受け入れたのは偶然じゃなくて必然。親父が持っていた時点でアンタが何か絡んでるんだろ?気に入らなったから封印したとか言ってたが、最初から俺に合わせるつもりだったんじゃないか?」
「それは想像にお任せするわ。だけど一つだけ言えるのはあの子を乗せたあの船を買ったのは本当に偶然よ。まさかそれがこんなことになるなんて偶然ってのはすごいわね」
何故親父がソルアレスの前身であるショップシップを持っていたのか。
俺の件もあるからてっきりこの人が何かしたのかと思っていたのだが、どうやら違う話らしい。
いや、口でそう言ってるだけで本当はそうなのかもしれないけれど、それを確認する術はどこにもない。
ただ確実に言えるのはアリスとの出会いが俺をここまで運んできたという事実。
たとえこの人が裏で操っていたとしても間違いようのない事実だ。
「でもそのおかげで私はトウマさんと知り合えたわけですね」
「そういうことになるな」
「それならやっぱり感謝しないと。ありがとうございます、トウマさんを産んでくれて」
「まさか本人じゃなくて貴女にお礼を言われるなんて。ちょっと、こんないい子他にいないわよ?大事にしなさい」
「言われなくてもそのつもりだ。さぁ、さっさと仕事の話をしよう・・・っていっても全部見てるから知ってるんだろ?」
「それはそれ、これはこれ。さぁ息子の働きっぷりをしっかり見せてもらおうかしら」
思わぬ場所での母親との再会。
何故アリス達を嫌っているのかとか、何でコロニーの代表をしているのかとか、何ならイブさんの正体なんかも含めて色々と聞きたいことはあるけれど・・・とりあえず今は棚上げにしよう。
余りにも情報量が多すぎて全部聞くのは流石に無理だ。
もっと時間をかけてゆっくりとかみ砕かないと頭がパンクしてしまう。
まるで子供を見るような慈愛に満ちた目をするその人を前に、俺はゆっくりと言葉を紡いだ。




