396.相手のギャップに戸惑って
「これは・・・」
「すごい、とっても綺麗です」
リムさんに案内されたのはコロニーの中央に作られた小高い丘。
配管等の機械類をコロニー下部に集合させたフラットなコロニーだけにそこから全体を見渡すことが出来る。
全体的に白を基調とした建物が何かの模様になるように配置されているようだ。
見上げれば漆黒の宇宙、その対比がまた素晴らしくコロニーとは思えない光景に目を奪われてしまった。
「如何ですか?」
「いや、こんなに綺麗な景色は大型コロニーでも拝めないだろう。白と黒の対比がまたすごい」
「ありがとうございます」
「街の配置が何となく模様に見えるんですけど、あの模様には何か意味があるんですか?」
「あれは当コロニーの理念である『あるがままの姿』を表しています。コロニーの創設者が配置を決めて今に至ります」
「あるがまま、ねぇ。」
「人の営みは普遍なもの、汚染された考えによって穢されてはいけません。それ故にこの白というわけです」
言いたいことはわかるが理解はできない。
別に俺達は人と人の営みを否定していないし、ヒューマノイドがそれを汚染しているとも思わない。
むしろ彼女達は俺たちの良き理解者、サポーターとして存在している。
そりゃたまにとんでもないことをしでかしたりもするけれど、そこに敵意も害意もない。
・・・いや、あいつらならなんかありそうだなぁ。
でもまぁ一般的なヒューマノイドにはそういう考えは無いので大丈夫だろうけど。
「汚されていない白ってことか」
「まるでウェディングドレスのようですね」
「素敵な表現ありがとうございます」
「でもあれは・・・」
「何か?」
「なんでもない」
ジロリと睨まれてしまいこれ以上何も言えなくなってしまった。
あれは確かあなた色に染めてくれっていう白じゃなかったっけ。
あれ、違う?
何やらリムさんとローラさんが盛り上がり始めたので、二人から少し離れた場所で景色を堪能する。
「ドンマイ、マスター」
「ここの考えは否定しない、だが理解もできないんだよなぁ」
「人間なんて大昔からこういうくだらないことで争い合って来たんだから、他人に押し付けないだけいいんじゃない?ローラさんがこの考えに賛同することはないだろうし、他所は他所ってやつだよ」
「あくまでも干渉しない隣人ってやつか」
「商品は高くてもいいものなんだろうし独創性もある、あれは僕達には作り出せないからねぇ」
人間にしか作り出せないもの、それが独創性。
もちろんAIやヒューマノイドも新しい形を作り出せるけど、そこには何らかの基準があり、それらを複合して新しいものを作り出している。
つまり完全なる無からは何も生み出せない。
人間にはそれができる、だから優れているんだっていうのはちょっと短絡的だと思うけどな。
「ま、お互いに干渉しなければいいだけか」
「そういうこと。でも知らないままスルーするのと知った上でするのは全然違うからいい機会だったんじゃない?」
「それはまぁ確かに」
「アンナ様もそれを僕達に知って欲しくて・・・ごめん、やっぱりさっきの無し」
なんとなく察するあの人の性格からするとそんなことを考える人じゃない。
間違いなくめんどくさかっただけ、まぁポジティブにそう考えておくか。
「いい時間になりましたね、ではそろそろ参りましょうか」
「素敵なお話ありがとうございました」
「いえ、私も楽しかったです」
なかなかに受け入れられない俺の代わりにローラさんが場繋ぎをしてくれたおかげで非常に穏やかな時間が過ぎていった。
さすがローラさん。対人スキルはかなりのもの、俺もこの辺を見習っていかないと。
先ほどと同じく先を歩くリムさんの後ろをローラさんと並んで歩く。
「ありがとうローラさん」
「いえ、私も勉強になりました」
「勉強になったのか」
「はい、いろんな考えの人がいるんだなって。もちろん受け入れるつもりはないですが、ありのままの自分を表現するっていう考えには共感できます。トウマさんがありのままの私を受け入れてくれたように、向こうを受け入れてあげる気持ちも大事ですよね」
「ありのままかぁ、まぁ言いたいことはわかる」
我々はただありのままの姿を尊重しているだけ。
ならテラフォーミングした惑星はありのままと言えるのだろうか。
それをいえばここにいるであろうあの人もありのままではないわけで。
明らかに矛盾している考え方、だがその純粋さゆえに否定することは絶対に出来ない。
その方がいいんだろうとなんとなく理解している自分もいる、そこが難しい所だ。
純粋が故に考え方、理念のギャップがすごい。
結論で言えば・・・うん、やっぱり無理だな。
もちろん全否定するつもりはないが、それを俺に求められても理解が出来ない。
なのでそれ以上の考えはシャットアウトして素直に聞き流すとしよう。
丘を下りてそのまま街の中を抜けると、宮殿のような白くて大きな建物に到着。
どうやらここがコロニーの統治府・・・らしい。
「それではこちらでお待ちください、直ぐにお呼びいたします」
案内された部屋も白を基調としており非常に綺麗なつくりになっている。
窓に架けられたレースの詩集が非常に細かく、すべてが一つ一つ違っていることからこれらも人の手によってつくられたものと思われる。
うーむ、ここまでくると狂気の域だな。
別に汎用物が悪いわけじゃないのに、オリジナルにこだわる理由は一体何なんだろうか。
「この部屋もすごいですね」
「ただアンナ様の言葉を伝えに来ただけなのに、随分と大それた感じになって来たぞ」
「まぁ特使みたいなものだからね」
「そんなもんか?」
「そんなも・・・」
「ん?リリス?」
さっきまで普通に話をしていたリリスだったが、突然動力の切れた人形のように動かなくなってしまった。
いや、そもそも人形は人形なんだけど・・・って、ハッキングがバレたのか!
慌てて顔を上げて部屋の中を見回すと角の部分で赤く光る点を発見、なるほどあそこか。
「おいおい、覗きとは随分と趣味が悪いじゃないか」
「トウマさん?」
突然誰に言うわけでもはなく話し始めた俺を見てローラさんが不安そうな目で周りを見渡すも、俺の目線は部屋の奥、ちょうど角の部分に設置された監視カメラに向けられている。
「あら、随分と早く気づいたのね。場所まで正確に見つけてるし、いったい誰の入れ知恵かしら」
「一応特使ってことになってるんだが随分な対応するじゃないか」
「おかしなこと言うのね、私はお客様がどうされているのか見ているだけよ?」
恐らく監視カメラ、もしくは部屋に仕掛けられたマイクを通しての声だろう。
本人を前にしていないので何とも言えないが、聞こえてくる声から感じるのは俺と同じもしくはそれ以上の年齢の女性。
まぁ本人が目の前にいたとしても声なんていくらでも変えられるけど、おそらくは本人の肉声。
「見ているというのか、それとも監視しているというのか難しい所だな」
「それはとらえ方の問題じゃないかしら」
「そう言う事にしておこう。それで、俺達はいつまで待っていたらいいんだ?」
「んーこっちにも色々と用意があるから、あと十分だけ待ってくれるかしら」
「へいへい」
なんだろう、向こうもそれなりに偉い人のはずなのにため口を聞いてしまう雰囲気がある。
果たしてどんな人なのか。
ただ一つだけ言えるのは・・・面倒なことになりそうだという事だけだ。




