311.次の動きを考えて
今回の戦闘アリーナ優勝という看板を引っ提げ、ヴェイロン一味のコロニー内での知名度は向上した。
もちろんこの程度でどうにかなるとは思っていないけど、少なくともイブさんというとんでもないクルーを所有しているという認知はついただろう。
後はここからコツコツと成り上がっていくだけ、とはいえ時間をかけるつもりはないのでサクサクといきたいところだ。
「さて、今後についてなんだがひとまず競売が行われるまでは別の方面から攻めていこうと思っている」
満腹でホテルに戻った俺達はしっかり休憩した後、明日からの動きについて話し合う事にした。
一応どうするかの指針は決めているのだが、それを採用するかは話し合いになる。
「え、直ぐに買えないの?」
「残念ながらマスターの言う通りです。今回の件でドンブル様は多額の借金を背負いましたのでそれを競売と言う形で清算することになるでしょう。もちろん満額は難しいでしょうから競売先は少しでも回収しようとあの手この手でいいように見せてくるはずです。それらの準備も含めて競売が始まるまで数日、もう少しだけお待ちください」
「・・・わかった」
早く母親に会いたいと思うんだが、足がつかない完璧な方法で購入する為にももう少しだけ我慢してもらわなければならない。
しかし競売かぁ、めんどくさいなぁ。
「あの手この手って何をしてくるんですか?」
「単純な所で行くと競売物件の偽装ですね。物凄く良い物件に見せかけて値を釣り上げてきます。外観、内装、設備、売上もかなり手を入れて来るのではないでしょうか」
「え、それって駄目ですよね?」
「もちろん普通なら一発アウトな話ですが、ここがどこかお分かりですね?」
「だってヴァイス・コンコース、ここでは金と力でなんでも通っちゃうってわけよ」
ローラさんの素朴な疑問ももっともだが、全てテネスの答えで片付いてしまう。
例え外では黒でも、金と力があれば白になるのがこのコロニー。
もちろん今お俺達にそんな力はないけれど、それを付けるためにこうやって色々と動いているというわけだ。
「具体的にこの後何するん?」
「選択肢は二つ。一つ目はのんびりコロニーを観光しながら時間を潰す。まだまだ見てない所も多いし、面白い物が見つかるかもしれない」
「いいですね!」
「イブさんの優勝祝いも探しに行きたいから第一候補だな」
「じゃあ二つ目は?」
「今回手に入れた賞金を元手にカジノを荒らしまわる。具体的にはカジノを買えるぐらいに巻き上げるつもりだ」
「・・・は?」
ミニマさんがコイツ何言ってんだ?みたいな顔で俺を見てくる。
まぁ、それが普通の反応だよな。
だがうちに長くいるとイブさんのように面白そうと目を輝かせたり、ローラさんのようにうんうんと頷いたりするので質が悪い。
普通に考えて宙賊コロニーにあるカジノを荒らしまわるなんてそんなバカげたことできるはずがないのだが、残念ながらそれが出来てしまうんだよなぁ。
「なるほど、イブさんが力を示しましたから今度は金銭的な方で力を示すわけですね」
「まぁそんな所だ。金はいくらあっても困らないし、十中八九競売ではよからぬ連中が値段を釣り上げてくるだろうからそれらに対応できるように準備しなければならない。それに、娼舘とカジノがあれば収入面で困ることはないだろうからネロが独り立ちした後も重宝するだろう」
「確かにお金はあっても困らないしね」
「カジノを一から立ち上げるとなると色々と面倒だが、権利だけを買えば引き続き営業は出来るし運営者が変わるだけで客が困ることもない。宙賊一家としてこの二つを押さえておけば組織としての勝手に評価も上がってくる」
「そんなに上がる?」
「あがる・・・はずだ」
これはテネス情報なので間違いはないと思うが、ようは安定した資金は安定した組織運営につながるので下っ端が仕事を求めて勝手に集まってくる。
彼らは金払いさえよければ他所に行くことはないので、カジノ運営を手伝わせて小金を与えつつしっかりと小金を稼いでもらうだけで組織としての評価も上がり結果より人が集まってくるというわけだ。
まさに永久機関、別に下っ端を増やすのが目的ではないけれど、数は力なので必然的に俺達の権力も上がってくる。
『あいつらは100人も部下がいるらしいぞ』なんて話が広まればしめたもの、一部の宙賊は義理堅くたとえどんな苦境でも乗り越えようとするけれども、その他大勢は長いものに巻かれろという奴らばかりなので、結論として大きい組織に入りたがるので、後はそれをうまくコントロールするだけで組織は勝手に大きくなっていくだろう。
「なんにせよお金があるのはいい事です。私は賛成します」
「私もです」
「んー、ウチはお姉様と一緒なら何でもええで」
「ローラさんは?」
「確かに面白そうですけど、そう簡単に勝てるでしょうか。普通のコロニーと違って小細工なんかもしてくるでしょうし、折角稼いだお金が無くならないか心配です」
「確かに色々と余計なことはしてくるでしょうね。カードのすり替え、ルーレットの固定、スロット偽装。一般的なカジノコロニーで禁止されている事は全て行われるはずです。もちろん客もバカではありませんから、すり替えやアイコンタクト、ブラフなんかを用いて対抗するはずです」
カジノで遊ぶのもまた宙賊、おとなしくやられるわけもなくお互いに見えない所で色々とやり合う事だろう。
ここではバレなければ咎められることもない。
「ったく、おとなしく遊べないもんかねぇ」
「私達を使って荒稼ぎしたアンタがそれを言う?」
「それは過去の話だろ?むしろここではそれが当たり前、頼りにしてるぞ」
「もちろんです。とはいえ、ここではかなり厳しい目を向けられますので今までのようにはいかないかもしれませんが・・・でもまぁ、ティリス様がいますから」
「え、俺!?」
全員の視線を向けられ驚いたような顔をするネロ少年。
いきなり名指しされたことで動揺してしまい、思わず地が出てしまったようだ。
「私、ですよティリス様」
「あ!ごめんなさい・・・」
「別にここにいる間は気にしなくてもいいんじゃないか?」
「いけません、常に意識しておかないと今のように地が出てしまいますから」
「これもリディアさんに会うまでの辛抱です、もう少しだけ我慢してくださいね」
「・・・わかった」
娼舘を買って拠点を移せば他の宙賊の目を気にする必要もなくなるだろう。
外に用があるのなら話は別だが、普段は引きこもってもらうほうが色々と安心なので出るのは控えてもらう事になる。
どうしても必要になればこうやって女装してもらわなければならないのだが、その時に今のようになってしまうと・・・まぁ、めんどくさいってことだ。
「で、どうして彼女の力が必要なんだ?」
「私達ヒューマノイドが厳しい目を向けられるのはハッキング技術が人より優れているからです。人はどれだけ頑張ってもヒューマノイドに勝てない、はずでしたがティリス様にはそれが可能です。マスターにはヴェイロンという名を使って私達をカジノ内に同行させて警備の目をくぎ付けにし、その間に皆さんはカジノで荒稼ぎをする。ティリス様には皆様のフォローをしてもらう事になります」
「なるほど、あえて俺を囮にしてその間に大儲けするわけか」
「理想はスロットの同時ジャックポット、まさか人間が同時にハッキングをできるとは思っていないはずですので一発で大金を稼ぎ出して早々に引き上げるのがベストでしょう。問題は身分を証明しろと言われた時ですが・・・それも何とか出来ますよね?」
「リアルタイムハッキングでインプラントデータを書き換えるぐらいなら何とか」
「何とかできるんや・・・」
「え、出来ないの?」
「まぁ普通はできないだろうな。ともかく、一撃必殺でカジノから金を巻き上げるのが今回の目的だ。目標となるカジノのリストアップは任せたぞ」
「お任せください」
ドンと程よい大きさの胸を叩くアリスとため息をつくテネス。
さぁ、次に狙うは違法カジノ。
何でもありの場所で果たして目的は達成できるのだろうか。




