310.無事に?優勝を果たして
「どういうことなんだ!?」
「どうもこうもお互い健闘した結果だろう。いやー、いい試合だった」
「こちらが勝つという話はどうなった!?そのせいでこっちは大損、後1時間以内に金を用意しないと大変なことになってしまうんだぞ!」
決勝戦もサクッと終わり、無事に優勝を果たした俺たちは立役者のイブさんを労うべく優勝者用の控え室でささやかながら祝杯をあげていた。
ささやかとはいうけれどかなり豪華な食事が並び、アルコールもたっぷりだ。
しかもこれが大会運営からというのだから恐れ入る、なんでも今回の大会でかなりの額を稼いだようで、そのお礼と次回はもっとセクシーな衣装で出てほしいというお願いも含まれている。
加えて俺がヴェイロンという名前を使っているので恩を売っておきたいという打算もあるだろうけど、むしろそれを狙っていたので大当たり。
ここで手に入れる賞金なんてほんの些細なものに過ぎない、信頼や評価というものは金では買えないものだけにそれを手に入れられたのは最高にプラスだと言っていいだろう。
「いや、そんなの知らないし。アリス、そんな八百長みたいな話したか?」
「確かにそれらしいことを提案されましたので『面白いな』とだけ返事をしています。その際に今回のベットについて話をしていますから、それで誤解されたのでは?」
「誤解!?実際に君達に言われた通り賭けたではないか!」
「それは準々決勝の話だろ?俺たちは負けないから安心して賭けていいぞっていう話をしてお前がそれに乗っただけ。優勝を目指しているんだから勝つのは当然だし、それに乗っかって勝ったのを八百長と言われるのは不本意だ」
「そ、それなら何故準決勝で自分にあんな大金を賭けたんだ?あの試合は私の対戦相手に賭けるという話ではなかったのか?」
「さっきも言ったようにこっちは優勝を目指していたんだ、自分の仲間にベットしない理由がどこにあるよ。まぁ、ありもしない噂が流れ更にはアンタが大金をベットしてくれたおかげで俺たちは大儲けできたけどな」
方や全財産を失った男と方や大金を手に入れた男。
その落差があまりにもひどい。
さぁ次はどう出て来るのかと期待をしていると、急に手首に巻いたデバイスアームを確認したかと思ったら激昂していた顔がみるみる青ざめていった。
どうやら先方としては非常によろしくない状況になってきたんだろう。
ここで助け舟を出すことも出来るけれども・・・正直この人を助けた所で何のプラスもないので今回はスルーだ。
「と、ともかく金は返してもらわないと困る!私は大事な娼舘を抵当に入れてまで金を用意したんだ、これを返せないと破産する!」
「返す?俺がお前に1ヴェロスでも貸してくれと頼んだか?」
「そうではない、そうではないが、約束を違えたせいでこっちは・・・」
と、狼狽していたその時だ。
「ここにドンブルはいるか!」
ドンドンドンという手荒いノックの後、両開きの扉が勢いよく開かれ外から複数人の男が雪崩込んで来た。
なんだろう、もっとかっこいい登場を期待していたんだがなんで折り重なっているんだ?
そう思ってアリスの方を見るとニヤリと笑うだけだった。
やっぱりお前かよ。
「なんだ?扉が勝手に・・・」
「おい、早くその重たいのをさっさとどけろ!」
ドタバタとコントのようなことをしながらも男達は何とか立ち上がり、こちらを見て何故か俺を睨みつけてくる。
いや、開けたのは俺じゃなくて後ろの骨董品・・・って、聞くはずないか。
「ずいぶんと賑やかな登場だが、ここが戦闘アリーナの支配人が用意した特別室だってわかってるんだろうな」
「誰が用意して誰が使っているかなんて興味ねぇ、俺達が来たのはそこにいる男にあうためだアンタ達の邪魔をするつもりはねぇよ」
「なんだ、知り合いか?」
「ちょいと金をな」
「そりゃご苦労さん。こっちも金を返せだのなんだの言われて困ってたんだ、さっさと連れて行ってくれ」
「お前!お前のせいで私は!」
「金を借りといて人のせいにするなっての」
「そうそう、こうなるのがいやだったら金なんて借りなきゃいいだけの話だろ?しかも追加でって、バカな奴だ。」
「お前ら余計な事喋るな。さっさと、つれてけ!」
「「「はい!」」」
最初こそかっこ悪い登場だったけれど、最後は宙賊らしく堂々とした感じでドンブルを連れて控室を出ていく部下達。
ドンブルは最後まで金を返せだの嘘つきだの叫んでいたがいい迷惑だ。
こっちはただ全力を尽くしたまで、それを嘘つき呼ばわりは困るよなぁ。
「ったく、あいつらめ余計な事言いやがって・・・」
盛大なため息をついた後、最後に俺をジロリと睨んでからリーダーらしき男が踵を返し帰ろうとしたが、お前にまだ用があるんで帰ってもらうのは困る。
「おい、ちょっと待て」
「なんだ?」
「随分と貸しがあるみたいだがどうやって金を工面したんだ?」
「絶対勝てるからなんて唆されて自分の大事な娼舘を担保にしやがったのさ、まったくバカな男だ」
「そりゃご愁傷様。因みにその娼舘はどうなるんだ?」
「コロニーに担保登録しやがったから競売にかけられるだろうな。ったく、余計なことしやがって」
「直接差し出せばもっと金を貸してやったのになぁ」
「そうそう、ってお前よくわかってるじゃねぇか。それともなにか?娼舘でも買って一発やろうって魂胆か?」
さっきまで不愛想な男だったが、俺の反応が気に入ったのかやっとニヤリと笑みを浮かべた。
いや、気に入られたいわけじゃないんだが・・・って、まぁいいか。
「買ったら一発どころか何発でもできるだろ?」
「違いない。もしお前が買ったら安くしてくれよ」
「そのつもりだから期待してくれ」
「そういうノリのいい奴は嫌いじゃない。お前、名前は?」
「トウマ、トウマ=ヴェイロンだ」
「ヴェイロン、なるほどお前がアニキの知り合いか」
どうやらこの人もカイロスさんの事を知っている口のようだ。
でもまぁ、そのほうが色々と動きやすいので今後もこの名前は使わせてもらうとしよう。
さっきと違って笑顔を浮かべて男は部屋を出ていった。
「マスター、素晴らしい宙賊っぷりでした」
「やめてくれ、俺は真っ当な人間だっての」
「真っ当な人間?」
「いや、なんでそこで疑問に思うんだよ。どこからどう見ても善良な一般市民だろ!・・・そうだよな?」
別に脅したわけでもない、ただ宙賊と話をしただけ。
心配になり女性陣に目を向けるもこんな状況にもかかわらず食事を続けている。
流石にティリアはイブさんの後ろに隠れていたようだけど、それでも怯える様子はない。
「今のアンタを真っ当と言うのはちょっと無理があるわね」
「じゃあ普段はどうなんだ?」
「巨大輸送船を所有してソルアレスなんていうぶっ飛びバトルシップを所有、それでいてひーふーみーっと女性を五人も侍らせておいて真っ当ってのはちょっと無理があるんちゃう?」
「・・・マジか」
「むしろ今までもっとすごいことをたくさんしてきているのに、そんなに驚くことですか?」
「ローラさんにそれを言われるとは思わなかった。え、俺って善良な一般市民じゃないのか?」
「アンタ、今更それを言うのはちょっと無理があるわよ」
全員から憐みの目を向けられる35歳バツイチオッサン。
俺はただ惑星を買ってのんびり余生を過ごしたかっただけなのに・・・ってそれが普通じゃなかったか。




