309.持ち上げた所を叩き落として
「誰がこの姿を想像できたでしょう!強い!強すぎる!セクシーレオタードことイブ選手、見事な勝利です!」
戦闘アリーナ準々決勝。
相手は優勝候補ではなかったもののそれなりの実力者ではあったようだが、自分の二倍以上ある半分義体のマッチョ男を相手にイブさんは一歩も引かずに戦い抜いた。
っていうか、一方的過ぎてなんだか可哀そうになってきたくらいだ。
セクシーレオタードの異名を遺憾なく発揮することも出来ずなんだか申し訳ない感じはあるけれども、賭けの上限が撤廃されたこともあり別の意味で大盛り上がりとなった一戦だった。
「向こうの動きはどうだ?」
「予定通りです。今回の一戦で得た稼ぎは1000万ヴェイル、融資先にすぐ500万ヴェイルを支払って安心しているようですね。向こうには更なる融資を打診していますので娼舘を担保に追加で金を借りてくるのは間違いないでしょう。それに加えて今回手に入れた500万をつぎ込めば借金は完済、更に八百長代を支払っても大儲け間違いなしですから」
「自分が騙されているとも知らないでほんとバカよね。まぁ、それをお膳立てするために1000万ヴェイルを捨てるアンタもバカだけど」
「別に捨ててなんてない、むしろ立派な投資だ。最初に損をすることで大きなプラスを得ることが出来るわけだし、これを惜しむ必要はないだろう」
「投資ってしたことあるの?」
「そんな金があったと思うか?」
今でこそこれだけの金額をあまり気にせず動かせるようになってきたけれど、俺が初めてソルアレスに乗った時は十万でさえ大金だったんだぞ。
なけなしの大金をまさか速攻で使うことになるとは思わず戦々恐々としていた頃が懐かしいが、そんな奴が投資なんてするはずがない。
「なんにせよ向こうは話に乗ってくるわけですよね?」
「そうなる予定だ。後は向こうが金を借りてオールインしたのを確認してから、こっちが不利だという情報を流してオッズを一気に傾ける。最後に自分達に最大金額までベットすれば後はイブさんが勝って終了だ。まぁ大会は最後までやるけどメインイベントは次の準決勝、そこでしっかり稼いで実力と金を見せつければ二割ぐらいの宙賊はこっちの味方につけられるだろう」
後はそれを足掛かりに少しずつ経済と人気を広げていき、最終的に上まで上り詰めようっていうわけだ。
「マスター、ドンブル様より通信が入っています」
「お、きたか」
通信を開くと、小型端末に満面の笑みを浮かべたおっさんの顔がどアップで表示される。
「約束は守っただろ?」
「素晴らしい戦いだった、特にあのオッズが切り替わった瞬間は最高だったな。やはり君達を選んだ私の目に間違いはなかったようだ」
「そりゃ何よりだ」
「次も期待している。お互いに大儲けをしようじゃないか」
「あぁ、お互い良い戦いをしようぜ。それこそ、会場中をあっと言わせるような奴をな」
そこで通信は終了、向こうが勝手に通信を切ってしまったが言うべきことは言わせてもらった。
もちろん今の通信も録画済み、後で何か言われても突っ込まれるような要素はどこにもない。
「とまぁこんな感じだが、別に俺は悪くないよな?」
「えぇ、お互いの健闘を祈る素晴らしい挨拶でした。先方が仰ったように大儲けをさせてもらいましょう」
「次の試合は二時間後、例の情報は一時間後に出すから一気にオッズが変わるはずよ」
「イブさんはさっきの試合でケガをした、余裕の勝利を見せかけてここまでかなり無茶をしていたと。まぁ、こっちもあり得る話だよな?」
「今大会では途中での治療は認められていませんので大きく影響する事でしょう。まぁ、小指のささくれが取れただけでも怪我は怪我ですし、本人は取れないように頑張ったけれども・・・と言っても嘘はついていませんから」
確かに嘘は言っていない、だがそんな些細な情報一つで人間は不安になり賭けが一気に変わってしまう。
そしてそんな些細な情報に踊らされた人が大損をすると。
「これぞ情報戦、人間の心理ってのはほんと面白いなぁ」
「アンタもその人間でしょ?」
「まぁな。あれ?ローラさんは?」
「ミニマさんと一緒にイブさんの所に行ったわよ」
「大丈夫なのか?」
「準決勝ともなると警備も厳重だから。もちろん彼女も一緒だから心配しないで」
「まぁ下手に人の目に触れるよりかはマシか・・・」
会場付近にいるといつ何時彼女の正体に気づく人が来るかわからない、ただでさえうちは女所帯で目立つからよろしくないことを考える奴もいるだろう。
その点控室は警備員もいるし下手な連中が近づかないようになっているので安心は安心、食べ物や飲み物に細工をされない為にも身内がいる方がイブさんもまた安心するに違いない。
「さぁ、いよいよ始まりました準決勝!ここでの勝者が決勝に進める大一番!気になるのはやはり予選会セクシーレオタードことイブ選手だ!」
「予選会の動きが嘘のような動きに圧倒されるばかりですが、先ほど入った情報によるとケガをしているようです。先ほどの準々決勝ではそれらしいそぶりは見せていませんでしたが、気になる所ですね」
「それもありオッズはかなり変動しています。今賭ければ大儲け間違いなしですが・・・ここは無難に行くべきか?」
「賭けは自己責任ですから。おっと、そうこうしているうちに時間が来たようですね」
ドンブルが自分の選手にオールインしたのはこっちも確認済み、怪我の件もありあってか俺達が3000万ヴェイルを投資してもオッズに大きな動きはなかった。
現時点で掛け金は5倍、これに勝てば見事1.5億円と言う膨大な額を稼ぐことになってしまう。
うーん、今まで地道に働いてきたのが馬鹿らしくなるような金額だが・・・まぁ、そのうちの半分ぐらいは色々と準備する中で消えていくんだろう。
それでも自分の金を使わなくていいというのはありがたい話だ。
審判の合図でリングに上がった二人の選手、前情報もあり若干つらそうな顔をするイブさんだが・・・心持ちポッコリと膨らんだお腹を俺は見逃さなかった。
恐らくミニマさんがお菓子か何かを差し入れたんだろう、まったく大事な一戦の前に食べ過ぎるとか余裕過ぎるだろ。
相手はこっちが八百長で負けるとわかっているので余裕たっぷりの表情、見た目はひょろひょろっとした細身の男性だが・・・これでよく優勝しようと思ったな。
「それでは準決勝・・・はじめ!」
合図と同時に相手選手が一気に接近、素早い連続技でイブさんは防戦一方になる。
ここまで余裕の勝利だっただけに会場は大盛り上がり、勝負服は至る所が破れて素敵な素肌が露になっていく。
まぁこれも勝利を演出するための演出、ドンブルは・・・もう勝ったつもりなのか満面の笑みを超えて形容しがたい表情をしている。
今頃手に入れた大金をどうやって使うのかを考えているんだろうけど、その顔もあと数分だろう。
「やはり怪我は本当だったのか、イブ選手動けない!」
「予選でも見せたことのない破れ方!いやー、素晴らしいですね。あの衣装を採用した人を褒めてあげたいくらいです」
「なんでも所属しているリーダーのトウマ=ヴェイロンが決めたそうですよ」
「ヴェイロンってのあのヴェイロンですか?」
「と言う話です。なるほど、それでしたらあの衣装も頷けますね」
ん?
なんでカイロスさんだったら納得なんだ?と色々とツッコミたいところだけど、ここで俺の名前を出してくれるのはありがたい。
これでうちの株は急上昇、さぁ後は仕上げと行こうじゃないか。
「さぁ、防戦一方のイブ選手!これで決まってしまうのか・・・おっとおぉぉぉ!?ここに来てイブ選手が反撃を開始!あっという間に相手の裏を取り・・・落としたぁぁぁぁ!」
一瞬の出来事、レオタードをこれでもかと破かれ危なく胸が見えるんじゃないかと言う所までやられてから起死回生のバックテイク、からの流れるようなチョークスリーパーで一瞬にして相手の意識を刈り取ってしまった。
電光石火とはまさにこのことだろう。
「レフェリーがダウンを確認し、試合終了!まさかまさかの大逆転でイブ選手が決勝進出を決めました!」
大歓声と怒号があふれるアリーナ会場、持ち上げられるところまで持ち上げられてから叩き落とされたドンブルは現実を受け入れられず茫然自失と言う感じのようだ。
イブさんがこちらに向かってVサインをすると、会場中からさらに歓声が巻き起こる。
もちろん俺もそれにVサインを返し試合は終了。
さぁ後は決勝戦、それと後始末だけはしっかりとしておかないとな。




