307.本当の強さを証明して
「さぁ始まりましたアリーナ本選!次の試合は皆さんお待ちかね、セクシーレオタードことイブ選手!それに対するはまさかの優勝候補、ブゼラ選手だ!義体化されたあの剛腕を受ければいくらイブ選手であっても厳しい戦いになること間違いなし!」
「しかも彼女はインファイター、関節技を得意としていますが首から下を全て義体化した選手にどう立ち向かうのか見ものですね」
予選とは明らかに違う雰囲気、それもそのはず今回から賭けが始まっているので観客の応援にもかなりの熱が入っている。
「ブゼラ!殺す前に脱がせよ!」
「お前には高い金払ってるんだ!勝て!ついでに脱がせ!」
「キャーーー!イブ様こっち向いてーーー!」
「今日もいい感じのやぶれっぷり、期待してるぞ!」
「賭けないけど脱ぐ方には賭けてんだ、その胸晒して負けちまえ!」
なんとも身勝手な応援の嵐、予選でわざと手を抜いていた甲斐あって初戦の倍率は何と100倍。
残念ながら一回で10万ヴェイルまでしか賭けられないようだけど、それでもイブさんが勝てば1000万が手に入るので娼館用の金はあっという間に回収できるだろう。
これがアリスの作戦、とはいえ相手は優勝候補だからそう簡単には勝たせてもらえないだろうなぁ。
「うーむ、応援が全部そっち系だな」
「でも女性ファンも多いみたいですね、黄色い歓声が聞こえてきます」
「男なんてお姉様の衣装が破れる事しか期待してへんけど、わかる人にはわかんねん。お姉様ぁぁぁぁ!頑張ってぇぇぇ!」
黄色い歓声に混ざるようにミニマさんが一生懸命に声を張り上げる。
それに気づいたのかイブさんがこっちに向かって手を振り、彼女のボルテージはさらに急上昇。
もはや何を叫んでいるかわからなくなっている、普段一緒にいるのにまるでアイドルを見ているようだ。
「そんなに心配しなくてもイブ様は勝ちますよ。そして掛け金もがっぽり、皆さましっかり賭けましたね?」
「もちろんです、最大ベット完了しました」
「五人全員が10万ベットしても倍率がこれって、一体どれだけ差があるんだ?」
「観客の九割が相手に賭けてますから致し方ないかと」
「九割って、俺達の掛け金を支払っても胴元はぼぼろ儲けか」
「因みにここからは見えませんがVIPルームでは更に上の額が動いています。この戦いだけで数千万、娼舘よりもここを手に入れた方が確実に儲かりますね」
「とはいえこれだけの利権となるとめんどくさい手続き山盛りだろ?それなら簡単な所から攻めた方が話は早い、っとそろそろ始まるみたいだな」
「それでははじめ!」
レフェリーの合図と同時に相手選手がものすごい速さで突進、どう考えても人間が出せる速度じゃないんだがどうなってるんだ?
「なんやあれ!反則やろ!」
「残念ながらルール内です、この試合で禁止されているのは武器の使用ですから小型ジェットを足につけていても何ら問題ありません」
「なるほど、だからあんなに足が太かったのか」
「とはいえあの程度で負けるイブ様ではありません」
「そうかもしれないが・・・いや、そもそも勝つことが決まってる試合なんだから落ち着いてみておこう」
こんな所で負ける人じゃないのは俺達が一番理解している。
足に装着したジェットを駆使してリングの上をぐるぐると回転しながらタイミングを伺う対戦相手、それとは対照的にイブさんは冷静にその動きを確認している。
全身義体ということは恐らく足だけでなく手にも何かしら仕込んでいる可能性は高い、しかも得意の関節技への対策もしているだろうから下手に手を出せない状態。
果たしてイブさんはどう対処するつもりなんだろうか。
「速い!速過ぎる!小型ジェットを駆使した高速移動にイブ選手は身動き一つとれないようだ!」
「流石優勝候補、例え生身の人間であっても容赦はしないつもりですね。あの一撃を喰らえば大怪我ではすみませんが・・・おっと!ここで動きが変わった!?」
「背後からの強襲!あまりの速さにイブ選手は反応でき・・・あれ?」
「何故かブゼラ選手が転倒!義体化していない顔面からリングにめりこんでいったぁぁぁl!」
グルグルと回転していた相手選手がイブさんへ突っ込んでいったかと思ったら突然転倒、勢いもそのままに顔面からリングに激突して動かなくなってしまった。
急ぎレフェリーが駆け寄って状況を確認し・・・頭の上で両手を大きく振る。
「し、試合終了!優勝候補ブゼラがまさかの初戦敗退だぁぁぁぁぁ!」
「いったい何が起きたんでしょう。今スーパースローで状況を確認・・・これは!イブ選手はあの一瞬でブゼラ選手を担ぎ上げて投げ飛ばしたようですね!そして受け身を取れずそのまま顔からと言う感じでしょう。完全義体化していれば復帰できたかもしれませんが、自分の速度で自滅するというなんとも情けない結果になってしまったようです」
スーパースローの映像を見ると、確かに死角から襲い掛かる相手選手の腕を掴んで軽く投げ飛ばしたように見える。
だが、あの速度あのタイミングでの突進を相手を見ることなく投げ飛ばすって・・・っすがイブさん、はんぱねぇ。
「ブゼラてめぇ!」
「金返せ!」
「おい!服の一枚でも破ってから死ね!」
あまりに劇的な結末にシンと静まりかえっていた会場だったが、ピクリとも動かないブゼラ選手に向けて罵詈雑言の雨が降り注ぎ始めた。
罵詈雑言、違うな怒号?
ともかく優勝候補がまさかの自滅と言うなんとも情けない状況に、一瞬で手に入れるはずの掛け金を失った観客たちがリングに向かってゴミなどを投げ込み始めた。
イブさんは早々にリングから離れていたので被害はなかったようだが・・・って、相手まだ動かないけど生きてるのか?
「なんだかすごいことになっちゃいましたね」
「まさか一瞬で勝つとはなぁ・・・イブさんだから大丈夫だと思ってはいたが、こんな終わり方は流石に想像してなかった」
「そんなことあらへん!お姉様の実力があったらあれぐらい余裕やで」
「そういう事にしておこう」
未だ会場から怒号は止まず、やっと出てきた医療班に雑に担架に乗せられるも身動き一つせずそいつはリングの外へと運ばれていった。
それでも観客の怒りは収まらず今にも暴動が起きそうな空気になっている。
「これ、やばいか?」
「そんなことはありませんよ。賭けに負けるなんてよくある話ですし、イブさんの実力を見誤ったのは彼らですから。そして我々は無事に5000万ヴェイルを獲得、次の試合は流石に大勝ちできませんが・・・」
アリスがぴたりと話すのを止めたので後ろと振り返ると、向こうから例の商人がやって来た。
恐らく今の試合を見て何かを察したんだろう、どうやら獲物が餌にかかったようだ。
「ん?なんだ、またアンタか」
「先程の試合みてましたよ、初勝利おめでとうございます」
「どうも、まぁこれで終わるつもりはないけどな」
「ブゼラ選手とはいずれどこかで当たると思っていたのですが、どうやらその相手はそちらの選手になりそうですね」
「次の選手も強そうだから何とも言えないが・・・まぁ、出来る限り頑張るつもりだ」
恐らく準決勝の八百長相手がさっきの選手だったんだろう。
もちろん決勝で当たる選手にも根回しはしているんだろうけど、イブさんが勝ったことで予定が変わり急ぎ接触してきたに違いない。
向こうは借金返済に向けてこの大会にかなりの金を使っているはず、その点俺達は今の掛け金だけでもかなりの額になっているし、この次も勝つのでさっきほどではないものの数百万単位で稼ぐ予定をしている。
焦りまくっている相手と違ってこっちは非常に心に余裕がある。
流石にここで八百長の相談はしてこないだろうけど、どうやって切り出そうか悩んでいるのは間違いない。
最初こそ応じるふりをしてガッツリ落とすのがこっちの作戦、はてさてどう出てくるのやら。




