302.今後の方針を話し合って
「本当にここでいいのか?」
「はい、グラント様より送られてきた情報によるとここになります」
搬入用ハンガーを抜けてコロニー内に移動した俺達を待っていたのは、ある意味想像通りの宙賊用コロニーだった。
自分達が暮らす場所なんだからもう少し綺麗にできないのかと思いながらも、自分達船すらも満足に掃除できない連中が集まっているんだ、綺麗なはずがない。
床は元がどんな感じだったのかわからないぐらいには汚れており、ゴミはそこら中に散乱している。
大通りを歩いているはずなのにいかがわしい店が軒を連ね、彼・・・彼女には見せられないような光景が広がっている。
ここで過ごしていたんだからある程度免疫はあるだろうけど、それでも限度ってもんがあるだろう。
流石にいきなり声をかけてくるような奴はいなかったが、アリス達へ露骨な目線を向けてくる宙賊たち。
まぁそんなのにビビっているのはミニマさんぐらいなもので、イブさんもローラさんも飄々とした感じで大通りを進んでいった。
途中で飲食店を見つけた時に一度そこへ行こうとしたのだが、タイミングよくグランドから宿泊先の連絡がきたので先にチェックインすることにしたのだが、到着したのはなんとも場違いなほどの豪華なホテルだった。
「うーむ、中が正直あんな感じだったからどうしたものかと覚悟していたんだが、思っていた以上にマトモだな」
「一応ここでは最上級のホテルみたいよ」
「マジか、そこまで上等な場所じゃなくてもよかったんだがなぁ。とはいえランクを下げて防犯が悪い所に泊まるわけにもいかないし・・・これが妥当なのかもしれないなぁ」
下手に安い場所に泊まって危険な目に遭うぐらいなら、高い金を払って安全な所に泊まるべきなんだろう。
特にうちは女所帯だし、彼の件もあるので出来る限りプライバシーは保てる方がいい。
とはいえ一泊いくらするんだ?
宙賊が金持ちだっていう話は聞かないけど、もしかしてここを利用する一般人向けの場所なのかもしれない。
宙賊相手の商売となると非合法の物が多くなり、必然的に値段も上がる。
なるほど、そう考えるとこのぐらいの宿も必要になるのか、ってそれはそういった商売をしている人だから支払えるわけで俺みたいの庶民は・・・。
「因みに支払いは無いそうですのでご安心ください」
「よし!しこたまルームサービス頼んでやろうぜ!」
「最低ね、アンタ」
「最高ですね、マスター」
アリスとテネスに真逆の褒められ方をしながらもひとまずは宿にチェックイン、用意してもらった最上級スイートはなんとも贅沢な造りだった。
ルスク・ヴェガスのホテルにも勝るとも劣らない素晴らしい装飾に、複数の部屋。
どこも綺麗に整っているけれど、ただ一つ窓から見える景色は残念だった。
まぁ、これに関してはカーテンを閉めておけば問題ない。
「本当にここを使っていいのか?」
「はい、グラント様よりそう仰せつかっております。聞けばカイロス様のお知り合いだとか、どうぞあの方の代わりに心行くまでおくつろぎください」
まぁ先方がそういうのであれば何も言うまい。
さすがカリスマ大宙賊カイロス、その名前はこのコロニーでかなりの影響力を持つようだ。
「さて・・・部屋割の前に確認だな」
「小型のジャミング装置を各部屋に設置、これで映像や会話が外に漏れることは無いでしょう」
「ホテルのシステムにも侵入成功、それなりの物は使っているみたいだけど・・・監視するようなプログラムは走ってないわね」
「後気を付けるべきはルームサービスぐらいなものでしょうか、それでは皆さまどうぞ好きな部屋をご利用ください」
いくら影響力があるとはいえ、相手はこのコロニーを牛耳ろうなんて言う相手だ。
盗聴盗撮ハッキング、それらの手段でこちらを監視してくるのかと思いきやその心配はなかったらしい。
うーむ、どこまで俺達の事を信じているかはわからないけれど・・・ひとまずは安全な場所を確保したと思っていいだろう。
「ウチはこの部屋!お姉様もここでええやろ?」
「そうしたいのは山々ですが、防犯上別の部屋に寝る方がよさそうです。私は入口に近い所を使わせてもらいますので、皆さんは奥へお願いします」
「えーっと部屋は全部で七つか、ちょうどいいな」
「メインの部屋はマスターが、サブはミニマ様とローラ様、それとティリス様でご使用ください。私とテネスそれとイブ様で入り口近くのゲストルームを使用させていただきます」
「僕・・・私が一部屋使っていいのか?」
「お一人で申し訳ありませんが、防犯上この方が安心ですので」
サブ寝室のうち窓の無い部屋が一つあったので彼にはそこを使ってもらおう。
年齢的と性別的に俺と同室ってのも考えたんだが、色々と聞かれたくない話もあるのであえて分けさせてもらった。
「えー、私はお姉様と一緒がよかったんやけどなぁ」
「いくらここが高級ホテルとはいえ、いつ何時襲撃されるかわかりませんから我慢してくださいね。アリスさん、罠はどうしますか?」
「入口と窓ぐらいでいいのではないでしょうか。電子ロックですので籠城は可能です」
「一応ドローンも配備できそうだけど、どうする?」
「は?ここにドローンを持ち込むのか?」
「ここっていうかこの上ね、ちょうどいい感じのスペースがあるからそこで見張らせるってのもアリよ」
流石にコロニー内でドンパチするとは思えないのだが、宙賊コロニーだからなぁという一言で全部あり得る気がしてくる。
とりあえずそれは保留にしつつ、ここぞとばかりにルームサービスを手配して小腹を満たしながら今後について話し合う事にした。
「ルームサービスの質も高いな」
「ここはルスク・ヴェガスのホテルをリスペクトしてるからサービスの質も上々みたいよ」
「これなら外に食べに行く必要もない・・・ってわけにはいかないですよね」
「せっかく普通は入れないコロニーに来たのですから、色々と見て回るのもよろしいかと」
「見て回るって言ってもほとんどが非合法やろ?見て楽しむ分にはいいかもしれへんけど買い物はあまり期待できひんのとちがう?」
「むしろ非合法ゆえに普通では流通しないものが手に入るという考えも出来ますよ。調べてみたら香茶の店もあるみたいなので、そこはちょっと行ってみたいです」
確かにここでしか買えない物や、ここでしか見られないような物を見たい気持ちはある。
非合法なレース、オークション、そして買い物。
折角来たのだからを免罪符に楽しむのも一つなのだが、生憎と俺達にはやらなければならないことがあるわけで。
「何をするにせよ、ネロを上に引き上げるっていう目標があるからそこは忘れないでくれよ。俺達はヴェイロン一味、このコロニーで成り上がりつつネロの母親助けてナンバーワンをぶっ潰すっていう目標があるんだ。アリス、ここで名を上げるには何をするのが手っ取り早い?」
「そうですね、一番手っ取り早いのは実力を示す事でしょうか。非合法の戦闘アリーナで強者を倒して賞金と名声をゲット。更にそのお金を使って娼館を買い上げ、そこを運営して資金を稼ぎつつ小さい勢力を支配下に置いていく。幸いこれに関してはカイロス様の名前を使えますのでそこまで難しくは無いでしょう」
「戦闘アリーナですか」
「銃火器使用不可のステゴロ勝負が行われている武闘大会です。もちろん賭けも行われていますので、イブ様にオールインすれば賞金以外にも掛け金をかなり回収できるかと」
「え、私ですか?」
「もちろんです。我が一味の中でイブ様の右に出る人はいませんから、それに前々から自分の実力を試したくて仕方なかったんですよね?」
そうなのか?
普段からあれだけ暴れまわっているのに・・・と思いながらも、白兵戦は最近ご無沙汰。
恐らくホロムービーの視聴履歴からそう推測されているんだろうけど、俺はともかく彼女達のプライベートを詮索するのはどうかと思うぞ。
「まぁ、はい」
「ではエントリーしておきますのでよろしくお願いいたします。勝負服は必要ですか?」
「え、いいんですか?」
「それぐらい必要経費で出せますよ、ねぇマスター?」
「好きにしてくれ、だが出るからには頼むぞ。俺達の名声がかかってるんだ」
「はい!」
普通、そういうのに出ろと言われたら慌てて止めそうなもんだがイブさん的にはむしろ嬉しい話らしい。
勝負服まで作ってまでやる気十分のイブさんに期待をしつつ、それ以外の事について考えていく必要がある。
場の空気になじめず不安げなネロ・・・じゃなかったティリスを見つめながら小さなため息をつくのだった。




