301.ハッタリにハッタリを重ねて
一斉に向けられる銃口。
すかさずイブさんが腰の銃を抜いて構えるも、手を挙げてそれを制する。
こんな状況にもかかわらず悲鳴すら上げないうちの女性陣は流石だが・・・見えないけれど、ミニマさんはイブさんの後ろで震えている気もする。
「……引き金を引くなら、その先のことまで考えたんだろうな?」
「それはそっちの出方次第だ。兄貴の名を語る不届き者があまりにも多いんでね、その罪は命をもって償ってもらっている。あの人の名前はそんなに安いものじゃない」
「好きすぎるだろ」
「憧れていると言って欲しいんだが?」
こういう冗談を言いあえる程度には向こうにも余裕はあるらしい。
向こうの装備はどれもレーザーガン、ということは電子制御されているので引き金を引いたところでエネルギーパックの中身が射出されることはない。
撃たれる心配がないからこうやってゆっくり考えることも出来るわけで。
「はぁ、このコインだけじゃダメなんだろ?」
「それを偽装する馬鹿が多すぎる」
「なら俺のと比べたらいい、お前も持ってるんだろ?」
「・・・・・・」
「なんだそこまで慕ってるのに貰えなかったのか」
「最後通告だ、兄貴の名を使う証拠を出せ」
カイロスという男は、ただ自分を慕っているからと言ってそう簡単に認めるようなことはしない。
男として、人間として認めた人間以外にあのコインを渡すことはないからだ。
だからこいつの手にコインはない、それが例えこのコロニーのナンバー2だったとしてもこいつはあの人に認められなかった、それが答えだ。
「マスター、準備できました」
耳の奥に仕込んだイヤホンからアリスの声が聞こえてくる。
どうやら時間稼ぎは終了らしい、この短時間で準備するとは流石アリスだ。
因みにここまで流れは俺達も想定済み、この人がナンバー2かどうかについては名前を答えるよりも早くアリスから情報を貰っている。
このリアルタイムの情報戦こそ俺たちの強み、アリスとテネスがいれば怖いものはない。
「なら本人から聞いた方がいいんじゃないか?」
「何?」
「今なら通信がつながるだろ。アリス、繋げてくれ」
「畏まりました、マスターの端末に表示します」
さも当たり前のようにアリスが答え、手元の端末が起動する。
コネクティングの表示の後、空中に表示されたのは紛れもないカイロスさんだった。
「ん?誰かと思ったらトウマじゃないか、久しぶりだな」
「相変わらず派手に暴れているのか?」
「それが仕事だからな。お前から連絡してくるなんて珍しいが、何かあったのか?」
「どうしてもアンタと話がしたいっていう人がいるんでね、代わってもいいか?」
「俺と話したい奴?」
スラスラと話しているように見えるが、実はこれはアリスが作った即席の応対プログラム。
声の質感は先日の通信から拾い上げて複製、外見も同じくあの時の映像から分析して3D化させたものだ。
余りにも自然過ぎてバーチャルだなんて思えないぐらいだが、そこはアリスとテネスによるリアルタイムの演出によるもの、相変わらずやることとがおかしいだろ。
「兄貴、お久しぶりです」
「おぉグラントじゃねぇか、元気そうだな」
「お陰様で、兄貴もお元気そうで何よりです」
男が深々と頭を下げると、後ろにいた他のやつらも慌てて頭を下げる。
遠隔でもそれをさせるのがカイロスと言う男、でも、これがバーチャルだって知られたらどうなるんだろうか。
「で?わざわざコイツを使って俺に連絡を付けるなんざどういうつもりだ?」
「いえ、最近兄貴の名をかたる奴が多いので確かめさせてもらいました」
「・・・お前、その為だけにこいつを使ったのか?」
「申し訳ありません」
「良い度胸してるじゃねえか、俺が不在の間に随分と偉くなったもんだな」
「そんなつもりは・・・」
まるで本物が話しているような凄みを感じる。
偽物だとわかっていても本物と錯覚してしまうような出来、これが出来ればいくらでも通信偽装なんてできそうなもんだが・・・世の中大丈夫なんだろうか。
「・・・冗談だ、そう怖い顔するなって」
「すみません」
「だが、こいつを顎で使ったのは許してねぇ。こんな見た目だが俺の名前を使わせるぐらいには認めている男だ。罰としてこいつがそこにいる間はよくしてやってくれ、わかったな」
「・・・わかりました」
罰、という言葉を聞いた瞬間に男の目尻がピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。
「最後に聞かせてください。あの日、ここを経つときに食べたのを覚えてますか?」
ヤバイと思った時にはもう遅い。
あの人が罰なんてことは言わない、それをきいたアイツも何かを悟ったんだろう。
ここにきて本人にしかわかない質問をぶつけてきやがった。
これを間違えれば確実にアウト、顔には出さないけれども全身が緊張していくのがわかる。
どうする、とりあえずレーザー銃は何とかなるとしても物理的な戦闘はイブさん以外に出来ないぞ?
「出店で売ってる安っぽい合成肉。あれで横に綺麗な姉ちゃんでもいれば美味かったんだろうが、横がお前じゃなぁ」
「そんなこと言うとミシェルねぇさんに怒られますよ。それじゃあ、失礼します」
男はそういうと自分で俺の端末を触り電源を切った。
「疑ってすまなかった。お前は確かに兄貴に認められている、それは間違いないようだな」
「信じてもらえて何よりだ」
「お前が何をしにここに来たのかは知らないが、ここにいる間不便の無いように取り計らおう。兄貴との約束だからな」
「そりゃありがたい話だ。見ての通り女所帯だ、来たばかりで泊るところも見つけてないんで良い所を紹介してもらえると助かるよ」
「あとで場所を送る。おい、帰るぞ!」
やれやれ、何とかなったか。
いつもなら盛大なため息をつくところだが、向こうが見ていないとも限らないので宙賊のリーダーらしく堂々としていないとなぁ。
「アリス、さっきの、知ってたのか?」
「いえ」
「じゃあどうして・・・」
「彼・・・いえ、彼女がフォローしてくれました。横から割り込んでリアルタイムに情報を書き込むなんて、人間もまだまだやりますね」
この場で言いなおすのは一人しかいない、確かにハッキングの腕はなかなかみたいだけど、あのアリスが認めるなんてよっぽどのことだ。
ある程度の答弁ができるように準備していたとはいえ、まさかあんな質問をされるとは思っていなかったが、どうやら彼女のおかげで助かったらしい。
奴らが全員引き上げるのを確認してから小さく息を吐き後ろで控えるティリスの所へと向かう。
「おかげで助かった」
「別に、その場にいたから知ってただけだし」
「だがさっきので確証が取れた。母親の計画通りネロ死んだことになってるみたいだな、そしてその姿だと判別がつかないと」
「だから?」
「つまりコロニー内を自由に動き回っても問題ないってことだ。あいつはここのナンバー2、そいつが俺たちをフォローしてくれるってことは、面倒ごとに巻き込まれないってことにもなる。ここで成り上がるつもりとはいえ、新参者が好き勝手するのはいい顔をしないだろうけど、この名前と後ろ盾があれば色々と動きやすくなる」
「そしてあいつにも復讐できる」
「そういうことだ」
ネロ少年の父親を殺したのは間違いなくあの男、どういう意図があったのかは知らないが、その事実は間違いない。
そんな敵を前に冷静に対処できたのは幼くても元ナンバーワンの息子というところだろうか。
さて、思わぬ流れになったがとりあえずコロニーでやっていく算段はついた。
ここから先はハッタリじゃなく実力がものをいう世界、どんな世界が広がっているのか楽しみだ。




