299.宙賊として成り上がることにして
「とりあえず話を戻すが、トウマはこれからどうするつもりだ?」
「要は親の仇を取りたいのならコロニーで成り上がれってことだろ?向こうが隙をついて殺したんなら、こっちも同じことをしてやればいい。つまり、強くなれってことだ」
「よくわかってるじゃねぇか、やっぱりお前は宙賊になるべきだな」
そう言ってカイロスがニヤリと笑った。
そう、やられたのならやり返すまで。
宙賊の流儀とかそういうのはよく知らないけれども、ホロムービーでは定番の奴だ。
親を殺した奴を息子が殺して再び頂点に名乗りを上げる、それが彼の復讐の形なんだろう。
それを年端も行かぬ少年にやらせるのはどうかと思うが・・・まったく、恐ろしい世界だなぁ。
「生憎とその予定はないが、ありがたく名前は使わせてもらう。まさかあのコインをこんな風に使う日が来るとはなぁ」
「俺は予想してたぞ、お前はそういう男だ」
「よくお分かりですね、さすがカイロス様です」
「まったく、勘弁してくれよな」
「本来であれば身内の俺がケツを拭かなきゃならないんだが、生憎と時間がかかりすぎる。トウマ、俺とお前の仲だから頼みたい、悪いが俺の代わりにそのガキを守ってやってくれないか」
急に真面目な顔になったあの大宙賊カイロス=ヴェインが俺に向かって頭を下げている。
本来であればありえないことだが、他でもないこの人頼みとなれば引き受けるしかないわけで。
やれやれ、偽装するためとはいえまさか俺が宙賊になる日が来るとはなぁ。
「わかった、確約はしないが出来るだけやらせてもらおう。だが、最後に決めるのは俺じゃないぞ」
「そりゃそうだ、ケツ持ちまでさせておいて何も決められないような奴が上に立てるはずがねぇ。おい坊主、親の仇を取りたいんなら覚悟を決めろ。いつまでも甘えん坊のままでいられると思うな、これがお前の生きる道だ。それを恨むんなら親を恨め、わかったな」
「・・・わかった」
「お前の親父はいい男だった。だからこそ、その後を継いで親父さんを安心させてやれ」
「はい!」
「ってことだからよろしく頼むぞ、トウマ」
「ったく、この貸しは高くつくからな、覚悟しとけよ」
「おー怖い怖い」
成り行きとはいえこんな面倒ごとを押し付けられたんだ、タダでやってもらえると思うなよ。
しばらくして通信が乱れ、真っ黒いメインモニターにノーシグナルの表示だけが映し出された。
それと同時にドッと疲れが押し寄せてきて、大きなため息をつく。
まったくものの数分でとんでもないことになってしまった。
もちろん断ることも出来たけれど、それをするにはあまりにも知りすぎている。
面倒ごとに巻き込まれるのはいつもの事と言うけれど、ここまでの面倒ごとは想定外だっての。
なによりみんなの意見を聞かずに決めてしまった感がある。
偽装するとはいえ宙賊と言う身分になるんだ、それを良しとしない人もいるだろう。
はぁ、マジでどうするかな。
「お疲れ様でした」
「あーその、なんだ?急な話で申し訳ないがみんなも聞いての通り宙賊としてコロニーに潜入することになった。成り行きとはいえこんなことになって申し訳ない。色々思う所はあると思うが・・・ってなんでそんなに笑顔なんだ?」
何か言われるんじゃないかと恐る恐る顔を上げたのだが、ミニマさんとローラさんを除く面々が笑顔を浮かべていた。
「なにビビってんのよ、成り行きで面倒ごとに巻き込まれるなんて今更じゃない」
「そうですよ。それに宙賊に扮して悪を倒すなんてホロムービーみたいじゃないですか」
「うちはあんまり乗り気やないけど、でも宙賊に扮するお姉様は見てみたいからアリやね」
笑顔の三人からはなんともポジティブな返事が返ってくる。
アリスはまぁ聞くまでもないとして、まさかミニマさんまでそういう反応になるとは思わなかった。
いや、彼女はイブさんが行く場所にはどこにでも行くからある意味同じか。
だが、ローラさんだけは難しい顔をしたまま。
そうだよな、普通はこういう反応になるよなぁ。
「思う所はあるともうけど出来ればついてきて欲しい。だが、どうしてもいやだというのならノクティルカで待機してもらってても構わないからな」
今まで一緒に行動してきたからって別に強制するつもりはない。
ローラさんがいないとなるとかなりの痛手にはなるが、ここから先は血で血を洗う抗争が行われている場所だけに無理強いはできない。
下を向き、難しい顔をするローラさん。
どうしたもんかと思っていると、アリスがローラさんの横に立った。
「ローラ様、何をお考えですか?」
「いえ、トウマさんがヴェイロンという名を付けてもらったという事は私達も名前を変える必要があるわけですよね?」
「まぁそうですね、我々は宙賊一味として成り上がる必要がありますからファミリーとして同じ名を付ける必要があります」
「という事は、私はローラ=ヴェイロンっていう感じになるのでしょうか」
「そうなります。私はアリスのままですが、他の皆様はヴェイロン一味として名を付けていただきます」
「ふふ、まるで結婚したみたいですね」
いや、自分が宙賊になるっていうのに意識するところはそこなのか?
なんとも嬉しそうな顔をするローラさんに思わず苦笑いをすることしかできなかった。
ここにいる全員が宙賊になる事に抵抗がない、なんとも恐ろしい話だ。
「あー、再度の確認になるが俺達は宙賊としてコロニーに入ることになる。もちろんこのコインがあればある程度の身分は保証されるが、向こうからすれば敵討ちに来たと警戒される可能性もある。常に危険は付きまとうし、見たくない物も山ほど見ることになるだろう。それでもいいのか?」
「では、よくないと言ったら行かないのですか?」
「そういう話じゃない、俺はみんなの確認をだな・・・って無意味か」
「そういう事よ。アンタと一緒に行動する時点でこうなるのは目に見えてるんだから、それに彼の事を任されたんでしょ?それならこれからの事を考えないと」
「これからの事?」
「あーもう!ヴェイロン一味のリーダーがそんなのでどうするのよ。もっと堂々としなさい堂々と!」
バシっとアリスに背中を叩かれる。
まったく、これだからヒューマノイド憲章の無いやつらは・・・、自分達が鋼鉄の体で出来てるってことを忘れてないか?
「いってぇなぁ」
「シャッキリしないのが悪いんでしょ。もう引き返すことはできないんだから、リーダーらしくしなさいよね」
「リーダーらしいってなんだよ」
「ふむ、一般的な宙賊のリーダー像と言えば・・・女性を横に侍らせる感じでしょうか」
「なるほど、こんな風にですかね?」
「ローラさん?」
「では私は反対に」
「イブさん?」
「お姉様がそう来るなら私もやるで!」
アリスの言葉にキャプテンシートに座った俺の左にローラさんが、右にイブさんが体を預けてくる。
因みにミニマさんはここぞとばかりにイブさんの背中ににぴったりと頬を押し付けていた。
ふくよかな胸が両サイドからしっかりと押し付けられ、なんとも言えない気分になってしまうのをぐっと抑える。
何故なら目の前に彼がいる、流石に大人といての威厳ってものが・・・。
「マスター、威厳をお忘れなく」
「わかってるっての!」
「で、これからどうするん?」
「侍らせるんですから肩を抱くとか、お尻を揉むとかですかね」
「お姉様のはアカンで!」
「では私が」
「アリスちゃんはいつもやんか」
「・・・とりあえず目の前に彼がいるんだ、ヤメテ差し上げろ」
ふざけるのはこれぐらいにして今後について話し合おう。
スッと離れていくローラさん達をちょっと残念に思いながら深呼吸をして気持ちを入れなおす。
「というわけで俺達は宙賊に扮してコロニーへと向かう。カイロスさんに頼まれた以上出来る限りのことはするが自分のケツは自分で拭け、その意味は分かるな?」
「わかってる」
「いいだろう。アリス、進路をコロニーに向けろ。下剋上と行こうじゃないか」
俺達は宙賊、目標はネロ少年の復讐をかなえる事。
かくしてヴェイロン一味がここに誕生し、例のコインを胸に抱き宙賊コロニーへと進路を向けるのだった。




