298.どうやって入り込むかを考えて
カイロスからもらったコインを見せてやると少年の態度が明らかに変わっていくのがわかる。
さっきまでは自分の周りは敵しかいない、みたいな雰囲気を出していたのにコインを見るなり目をキラキラと輝かせて俺を見てくる。
余りにも純粋な、いや希望に満ちた目になんだか申し訳なくなってくるんだが・・・。
「とまぁ、そんなわけで俺はカイロスと知り合いだ。あの人が本当に信頼した人にしかこのコインを渡さないのは知ってるだろ?」
「そうだけど・・・なんで宙賊じゃないのにそれを持ってるの?」
「まぁ大人の事情ってやつだな。とはいえカイロスの知り合いという事は尚の事君の事を悪くはできない。とりあえず今は情報が欲しい、詳しい話を聞かせてもらえないか?」
「・・・わかった」
「アリス、カイロスに連絡を取れるか?」
「可能な限りやってみますが、少しお時間を頂いても?」
「五分待つ」
「それだけあれば大丈夫でしょう、もしできた暁には褒めてくださいね?」
褒めるだけで通常なら絶対に連絡のつかない相手と通信できるのなら安いもんだ。
とりあえずアリスに連絡をさせつつ、テネスに情報を確認してもらいながらネロ少年の話を聞く。
やはり事前情報の通りコロニー内で権力闘争が発生、コロニーのトップとして君臨していたネロ少年の父親が暗殺され、それと同時に関係者が軒並み襲撃に遭ったそうだ。
反旗を翻したのは三番手の組織、二番手がそれに組したことで一気にパワーバランスが崩れてしまったようだ。
まさか二番手が裏切るとは思わなかったのだろう、油断していたせいでまともな反撃も出来ず一族皆殺し。
そんな中、事前に危険を察知した母親はネロ少年を例のボックスに入れて知り合いの宙賊に託して宇宙へ放出、なぜ母親が娼館で働いていたかはわからないけれど、その場所にいたおかげで襲撃に巻き込まれることもなく命は救われたようだ。
「つまり今は三番手がコロニーのトップとして権力を握っていると」
「逆らうものは容赦なく殺し、組するものには今回の一件で空いた地位を与えているみたいね。二番手は最初の襲撃以降まともな動きを見せず静観しているようだけど、かなりの影響力があるのは間違いないわよ。今コロニーがまともに機能しているのもこの組織が向こうについているから、もしそこが動けば三番手もただじゃすまないでしょうね。とはいえ今は大暴れした後だからほとぼりが冷めるまで静かにしておくんじゃないかしら」
「なんとまぁ血なまぐさい話だ。今時ホロムービーでもそこまでの事はやらないぞ」
「でも実際起きているんだから仕方ないじゃない。どうするの?今の身分でコロニーに向かえば間違いなく火に油、レーザー砲にエネルギーパックよ?」
「とはいえ向かわないという選択肢はない。うーむ、どうするか・・・」
宙賊だらけのコロニーに傭兵が行けばどうなるか、表向きは輸送業者ってことにすれば何とかなるだろうけど、下手に知名度があるだけにすぐにバレそうな気はする。
いっそのこと全くの赤の他人ってことにすれば大丈夫そうだが・・・そこまでやる必要があるのだろうか。
「通信開きました、モニター出します」
「お!待ってました!」
と、その時だ。
強引にカイロスさんに通信を繋いだアリスがメインモニターに画像を繋ぐ。
映し出されたのは食事中の光景、なんとも豪快に飯を食うカイロスさんがそこにいた。
近くには大量のアルコールパックが転がっている所から察するに、かなり酔っている感じだ。
「接続時間は四分と五十一秒、あとで褒めてくださいね」
「それはいいんだが・・・これはどういう状況なんだ?」
「直接通信は繋げませんでしたが、近くにいる掃除用ヒューマノイドに超超遠隔ハッキングを仕掛けています。マイク機能があるので会話はできると思いますが・・・」
「カイロスおじさん!僕だよ!ネロだよ!」
「んん!?どこからか坊主の声がするが・・・酔っぱらったか?」
「酔っぱらってなんかないよ!こっちを見て!」
必死にネロ少年が話しかけるもカイロスは半分夢の中、いや酒の中か?
きょろきょろと辺りを見回した後、何事もなかったかのように再びアルコールパックに手を伸ばして勢いよく喉に注ぎ込んでいる。
ウーム、豪快な飲み方だが今はそれを見ている時じゃない。
「あー、カイロス聞こえるか?キャプテントウマだ」
「トウマだぁ!?って、ことはあれかあのアンティークがなにかしてんのか。えーっとどこだ?」
俺の名前を出した途端に目を丸くした顔思ったら、すぐにいつものりりしい感じに戻っていく。
流石百戦錬磨の男、少々の酒に飲まれるような人じゃなかった。
「ここだよ!」
「ここ・・・って、この掃除ロボか」
「その通りですキャプテンカイロス、大変申し訳ありませんが時間がありません。簡潔にお話をしたいのですがよろしいですか?」
「・・・こんな場所まで通信を飛ばすなんざよっぽどの状況なんだろう。いいぜ、聞かせろ」
すっかり元に戻ったカイロスにヴァイス・コンコースで起きたことを説明する。
最初こそ驚いた感じだったがすぐに真剣な顔になり・・・更には目が怒りに燃え始めた。
「あの野郎、俺が戻ってこないのをいいことに調子に乗りやがって」
「やっぱり知り合いだったのか」
「知り合いっていうか俺の元子分だな。アイツにはヴァイス・コンコースのお目付け役として働くようにきつく言い聞かせていたんだが、俺の目が届かないのをいいことに好き放題やることにしたんだろう。そしてその結果、坊主の親まで殺しやがった。だが、一つ勘違いするな。下の奴に殺されるのは上の奴が弱いからだ」
「でも!」
「でももへったくれもねぇ、殺されるような隙を見せたやつが悪い。じゃあお前がどうすればいいかわかるか?」
正直親を殺された子供に向かって言うセリフではないけれども、そんな甘い生き方をしていたらヴァイス・コンコースというコロニーでは生きていけないんだろう。
宙賊ってのは自由気ままに生きているのかと思いきや、上に行くとどうやらそうでもないらしい。
「・・・わからない」
「ったく、こんな軟弱な息子を残して死ぬなんざバカな野郎だ。おいトウマ、この馬鹿息子にどうすればいいか教えてやってくれ」
「なんで俺に言うんだよ」
「お前ならわかるだろ?」
「そりゃわかるが・・・」
「な?傭兵なんざやってるがお前には立派な宙賊の素質があるんだよ。どうだ、これを機に宙賊に鞍替えしないか?今ならいい名前を付けてやるぞ」
「それはいいアイデアですね。どうやってヴァイス・コンコースに入り込もうか考えていましたが・・・なるほど、素直に宙賊を名乗ればいいわけですか」
カイロスの信じられない提案にアリスが素早く反応する。
いや、宙賊を名乗るって正気か?
星を隠すには銀河とはよく言ったもんだが・・・まさか宙賊を名乗る日が来るとは思ってもみなかった。
だがそのまま行った所でどうにもならないのは目に見えているだけにそれに乗るしかないだろう。
「生憎と宙賊になるつもりはないが、偽名を名乗るぐらいは許されるだろう。もちろんかっこいい名前つけてくれるんだよな」
「俺の昔の名前を使うといい、この名前とお前の持つメダルがあればあのコロニーでちょっかいをかけてくる奴はほとんどいなくなる。今日からお前はトウマ=ヴェイロンだ」
ヴェイロンか、確かカイロスはヴェインって名乗っていたはずだから確かにその名残があるな。
かくしてカイロスの古い名前を貰った新米宙賊、トウマ=ヴェイロンがこの日誕生した。




