296.想定外の物を拾って
「マスターは人を拾うのが趣味なのですか?」
例のブツを見たアリスが開口一番にそんなことを言ってくる。
俺だって拾いたくて拾っているんじゃない、何故かそういう事に巻き込まれるだけだと言っても信じてもらえないのが悔しい所だ。
「人聞きの悪いことを言うなっての、っていうかそんな趣味なんてあってたまるか」
「ですが高確率で拾ってきますよね」
「私も拾ってもらいましたし、ミニマさんもその口です。亡くなってはいましたが、ケイトさんの旦那様も見つけましたし、そういう星の元に生まれているのではないでしょうか」
「そんな星なんていらないんだけどなぁ」
宙賊船で見つけた金属の箱、スキャンすら通さない不思議な箱から出てきたのはまさかの少年だった。
簡易スキャンの結果生きていることが判明、インプラントも仕込んであることから前みたいに遺跡から出てきたヒューマノイドという事でもないらしい。
じゃあなぜこんな箱に入れられているのかについてはよくわからないが、明らかにめんどくさい事情があるのだろう。
流石にこのままと言うわけにもいかないので、一度ソルアレスに連れて帰り客間で寝かせることになった。
念のため扉にカギをかけておけば起き出しても勝手に動き回ることは無いだろう。
「あの箱ですが、一般的には出回っていない隠蔽用に作られたボックスの様です」
「ゴーストシップシステムの流用か」
「限られた企業しか製造できず限られた場所にしか納品されないはずなのですが・・・まぁ、結果は御覧の通り。しかも今回のはコールドスリープに対応した特別製のようで、記録によると二週間前に盗難に遭ったようですね」
「じゃあその時からあの子は中に入っていたってことですか?」
「インプラントデータの情報からすると、一週間前に近くのコロニーで失踪届が出されています。意図して入れられたのかそれとも自分で入ったのか不明、しかも宙賊が何故これを持っているのかも不明です。今回マスターが強引に開封したせいでコールドスリープ機能は壊れてしまいましたが、スキャンされない箱という使い方はまだ出来そうですね」
「仕方ないだろ、急いでいたんだから」
うーむ、まさかそんなすごい物だとは思わなかった。
イブさんに呼ばれて急いでいたってのもあるけれど、あそこでアリスを呼んでおけばと後悔してももう遅い。
宙賊が持っていたので仮に持ち主に怒られたとしても、最初からこうだったと言い訳すればまぁ何とかなるか。
「それで、あの子はどうするん?」
「幸いそこから遠くないコロニーの住人のようですから連れて帰ってあげてはどうでしょう。ちょうど私達の目的地でもありますし、遠回りする必要もありません」
「ちょっと待て」
「何か?」
「目的地が一緒ってまさか・・・」
「そのまさかよ。相手は宙賊の子供、しかもかなりの訳ありっぽい感じね。まったく、なんでアンタはこうも面倒ごとに巻き込まれるのかしら」
いや、まだ巻き込まれてはいないんだがと反論した所で意味はない。
そもそもこんな訳アリの品を拾った時点で後の祭り、はぁいくら拾っただけとはいえめんどくさいことになったなぁ。
テネス曰く、彼は宙賊御用達コロニー『ヴァイス・コンコース』に属する宙賊一味の跡取り息子らしい。ちなみに父親は死亡、なんなら一族郎党みんな死亡。
いや、正確には母親だけが生き残っているようだが、本人は娼婦として売り払われているようで戻ったところで居場所はどこにもないらしい。
どこからどう見ても面倒ごと、まったく困ったもんだ。
「恐らくは宙賊の権力闘争に巻き込まれてしまったんでしょう。もしかするとあの箱に入れられていたのは母親が彼をコロニーの外に逃がすためだったのではないかと推測が出来ます」
「じゃあなんで失踪届を出すのよ」
「確かにそうですね、見つかったら元に戻されるわけですし危険すぎます」
「むしろ失踪届を出したのは母親じゃなくて権力闘争で蹴落としたい奴らなんじゃないの?ほら、コロニーの外ってなるとあまりにも広いし、表向きは失踪届ってことにしておけば年齢的にどこかで引っかかる可能性もあるわけでしょ?」
「私もそう思います。インプラントは生きているわけですから失踪届を出しておけばどこかで反応があるはずですし、私達みたいな何も知らない人が本人を届けてくれる可能性もありますから」
「じゃあ連れて行かないほうがいいのか?」
「という事はあの年齢の子供を路頭に迷わせることになりますが、よろしいですね」
いや、よろしいですねっていう聞き方はないんじゃないか?
別に助けたくないわけじゃない、出来れば母親の所に連れて行ってあげたいとも思うけれども、それをすれば間違いなく殺されるだろう。
宙賊の権力闘争なんてホロムービーの中で十分なのに、まさか現実でそれを経験する日が来るとは思わなかった。
「アリス、もう一度ヴァイス・コンコースについて教えてくれ」
「ヴァイス・コンコースは宙賊を相手にした商売人が集まる商用コロニーです。主な産業は違法賭博、違法戦闘アリーナ、違法商店に違法娼館と言う所でしょうか。商人ギルドは腐敗していて賄賂が横行し、コロニー運営や警備は警備は買収可能、金と快楽と力で全てが解決できるという悪徳の名に相応しい場所ですね」
「何から何まで違法、そんな所に彼を連れていくのか?」
「それを決めるのはマスターです。連れていくもよし、別の場所に放置するもよし、何でしたら見なかったことにして箱に戻すことも可能です」
いや、戻せば死ぬだろ。
そんな夢見の悪いことが出来るか!と言いたいところだが、じゃあどうするんだっていう話に戻ってしまう。
連れて行っても死ぬ、置いて行っても死ぬ、放置しても死ぬ。
なんとまぁ面倒な物を拾ってしまったもんだなぁ。
全員の顔を見回すも静かに首を横に振るだけ。
現状では何も解決策は見つからない、だがこのままと言うわけにもいかないわけで。
いずれコールドスリープから目を覚ますはずなので、それまでにある程度の方針を決めておく必要がある。
「はぁ、マジで困った」
「あそこで気づかなければこんな事にもならなかったのですが・・・おや?」
「どうした?」
「いえ、ロックをかけたはずの扉が開きました」
「ってことはあの少年か?」
「それしか考えられません、ですがあれを?」
アリスが信じられないという感じで首をかしげているが、とりあえず勝手に歩き回られて怪我をされても困るので様子を見に行くとしよう。
コールドスリープ明けは意識がもうろうとしやすいもの、まだ年端も行かない子供なだけに何をしでかすかわからないからなぁ。
急ぎコックピットを抜けて廊下へ・・・って、あれ?
「開かない?」
「そんなまさか、って何よこのロック!」
コックピットから廊下に抜けるエアロックが近づいても解放されない。
物理ボタンを押してもエラーを吐き出すだけ、何事かとテネスが確認するのだが彼女も驚きの声を出して虚空に向かって手を動かしている。
「どうなってるんだ?」
「誰かが上からロックコードを上書きしたようです」
「ハッキングか?」
「外部からはあり得ません、となると中から?」
「いや、中からって他に誰が・・・いるなぁ」
この船にいる部外者と言えばあの少年だけ、だがアンティークヒューマノイドと違法AIがいるこの船をハッキングしてしまうなんて、そんなことが出来るんだろうか。
「ここを、こうして・・・こうね!開くわよ!」
テネスの合図でエアロックが強制的に解放、再び閉じる前にと慌てて廊下に出ると目の前に何かが転がっている事に気が付いた。
「あっぶねぇ!」
慌てて飛び越えて後ろを振り替えると、例の少年が体を小さく丸めてうずくまっている。
とりあえず様子を確認するべく近づいたその時だ。
「・・・ママ」
再び眠ってしまった少年の目尻から、一筋の涙が零れ落ちるのを俺は見逃さなかった。




