294.次なる目標を定めて
「さて、準備はできたな?」
いよいよ明日は出立の時、諸々の準備を終えた俺たちは珍しくソルアレスのコックピットに集合していた。
今後はここが当たり前になるんだが、宿のあの広い空間に慣れてしまったせいかちょっと窮屈に感じてしまう。
それでも二日もすれば元の感覚に戻るんだろう。
「物資の搬入ならびに燃料の補充は完了しています。弾薬関係も補充済み、ナディア中佐に感謝しないといけませんね」
「いきなり大量の弾薬購入を依頼された時は驚いたが、向こうはあくまでも任務の途中。宙賊と戦うことが義務付けられているだけに弾薬不足は命取りだからな。まぁそのご相伴に預かれたおかげでうちの安く補充ができたわけだが」
「でもあれやね、長いこと休んでたせいで体がついていかなさそうやわ」
「それはわかる。しばらくはのんびりと目的地まで飛んでいきたいところなんだが・・・そこんとこどうなんだ完全復帰のアリス先生」
全員の視線を浴び、満足げな顔をしたアリスがメインモニターを表示させる。
ウイルス問題も無事解決、今後は今まで通りの活躍を期待されているわけだが、正直しばらくはゆっくりしたいので下手なことに巻き込まれないようにしたい。
「まず残念なお知らせをするとそれは難しいでしょう。ナディア中佐が出発してから二日、こちらの映像にあるように宇宙軍に発見されるのを恐れた宙賊たちはこちらの宙域に移動しているはずです」
そう言いながらメインモニターに複数の赤い光点が表示される。
青い光点が中心から右に移動、それから逃げるように赤い方が左側へと移動していくのがわかる。
それにより今までまばらだった左側に赤い方が集中、大混雑の様相を見せている。
そして少し遅れて別の青いのが中央から出発、僅か12時間後には無数の赤い光点に囲まれてしまった。
「12時間、あっという間ですね」
「わざわざ左に行かないで中佐を追いかけるように移動するのはダメなのか?」
「勿論それでも構いませんが、目的地へ大きく迂回することになりますし、正直儲かるような物資もありません。その点左に行けば大量の討伐報酬が獲得できるほか、中型の産業コロニーが点在していますので輸送の仕事には困らないでしょう。辺境へのルートもこちらが近いですし、わざわざ遠回りをする理由がありません」
「まぁ普通は逃げる方を選ぶでしょうけど、私達がそれを恐れる理由がある?」
「弾薬は満載、ナディア中佐から逃げるような腰抜けを恐れる必要はないですね」
「腰抜けって、言うなぁ」
「邪魔をするデブリもありませんし、ノクティルカには手前で待機してもらってソルアレスだけで行けば十分勝機はあると思います。たっぷりお休みさせてもらいましたから、大暴れして勘を取り戻さないと」
「という感じで皆様やる気十分です。ソルアレス、テネブリス、そして大型ドローン三機とこちらの戦力は十分ですから恐れる必要はありません。もちろんマスターにもしっかりと働いていただきますよ、ご自慢の操縦技術でノクティルカに鹵獲品を運んでください」
色々と含みを感じてしまうがそこはあえてスルー、しっかり休養した女性陣は、血に飢えた獣の如く獲物に喰らいつく気が満々のようだ。
普通の輸送業者であれば出来るだけ危険を避けて行動するものだが、残念ながら俺達はその逆を行くタイプなのでガッツリ危険な方へと向かう事が決定した。
向こうも獲物が来たと思ったらまさかこんなのが出てくるとは思わないだろう。
カイロスさん達のような練度の高い宙賊ならともかく烏合の衆が相手となると恐れるものは何もない。
こりゃ鹵獲品で大儲けできそうだなと思ってしまう自分もいるので困ったものだ。
「それじゃあ明日の出発で各自準備をよろしく。で、向こうに飛んで何があるんだ?」
「え?」
「いや、辺境に向かうルートなんだろうけどずっと何もないわけじゃないだろ?途中にあるコロニーと言うか目的地みたいなのはないのか?」
「えーっと・・・そうですね、ちょっとお待ちください」
「お待ちください?」
「簡単に言えば宙賊と戦う事しか考えてなかったから目的地が決まってないってことよ」
まさかの戦闘ありきとかどれだけ血に飢えてるんだようちのヒューマノイドは。
イブさん達も目標そっちのけで戦う事に夢中みたいだし、全く困ったもんだ。
「鹵獲した品だって売らなきゃならないんだ、ある程度デカい所に向かわないとどうにもならないぞ」
「それはそうなんですが、辺境に行けば行くほどまともなコロニーが少ないものですから」
「ふむ、確かにそれは分かる。が、無くはないだろ」
「では候補となるコロニーを映しますので適当に選んでください」
「適当ってお前なぁ」
まったく、全部丸投げかよ。
彼女達の頭の中は宙賊をどう倒すかでいっぱいの様子、そりゃ久々の旅だしテンションが上がるのは分かるけど、目的を忘れて貰っちゃ困るんだけどなぁ。
そんなことを思いながらメインモニターに移されたコロニーを順番に確認する。
アリスの話に合ったように大きさは中程度、ものすごい産業が進んでいるとかそういうわけではなさそうだ。
どっちかっていうと居住コロニー兼補給用コロニーと言う感じ、確かに行った所で特に実入りがいいような感じではないのだが・・・。
「なぁ、このコロニーだけなんで危険マークがついているんだ?」
表示された五つのコロニーのうち、一つにだけ要注意・・・というかあからさまに危険と言う感じの髑髏のマークがついている。
見た感じは他のコロニーと変わった様子はない、しいて言えば他よりも比較的交通の便が良く商店が多い感じではある。
という事は鹵獲した商品を売るのに適しているという事、にも拘らずそこを危険にするという事は何か特別な場所なのだろう。
「そこは宙賊の基地ですね」
「ん?」
「正確に言えば宙賊を相手にした商売人が集まる特殊なコロニーです。一般人が行けばただカモにされるだけの危険な場所、麻薬、人身売買、違法パーツ、何でもござれの場所ですね」
「・・・マジか」
「そこに行きたいというのであれば止めはしませんが・・・いえ、アリかもしれません」
どこをどう考えてもアリじゃないだろと思いながらもそういうのには何か理由があるのだろう。
わざわざ宙賊のいる場所へ行って一体何をするのか、っていうかこれまで数多くの宙賊を倒し更に今から追加しようっていうのにそんな場所に行って大丈夫なのか心配になってしまう。
じゃあ行くなよという話ではあるのだが、この選択肢の中でどれが一番マシかと聞かれたら間違いなくここなんだよなぁ。
「アリな理由は?」
「盗品や鹵獲品を売るのにぴったりな事、珍しい物がたくさんある事、そして有名なガンスミスがいる事です」
「ガンスミス?」
「折角この間オークションで銃を落札したというのにそれを使わないなんてもったいないと思いませんか?」
思いもしなかった提案に全員の目が点になる。
そりゃあの銃を使ったイブさんはさぞかっこいいと思うけれども、使えるようにすることなんて本当にできるのだろうか。
っていうかそもそもそこに行って本当に大丈夫なのか?
相手は宙賊、俺達は一般人。
そこが一番不安なんだが・・・。




