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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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292.未来に繋ぐ買い物をして

「待たせたな」


急ぎ宿に戻り、応接室を借りて例の男と対峙する。


最初こそいがみ合っていた関係だが、なんだかんだ親しくなってしまったのは苦労人なのがわかるからだろうか。


なんにせよ何か情報を持ってきてくれたのは間違いない、果たしてどんな答えが聞けるのだろうか。


「戻って来たばかりなのは知っていたんだが、早い方がいいと思ってな」


「こちらとしてもその方がありがたい、ここにはあと一カ月もいないからそれまでに諸々終わらせたいんだ」


「まったく、この俺が二重スパイみたいなことをさせられると思っていなかったが・・・お前相手じゃ仕方がないか」


「別にスパイなんかじゃないさ、俺は善意でそっちを助けてやろうと思っているだけだが?」


「へっ善意ねぇ・・・買い叩くの間違いだろ?」


地上げ屋のセリフじゃないなと思いながらも口に出すのはやめておく。


その立場になってはじめてわかることもあるだろう、今後この人がどう思うかは本人次第だが少なくとも自分より上の奴がいるってことは分かってもらえたに違いない。


とりあえず向こうが持ってきてくれた情報をアリスと共に聞き、今後について話し合う事に。


流石に俺一人で決める案件でもないのでしっかりとみんなの意見も聞いておくべきだろう。


「と、いうわけで地上げ屋のオッサンからこの一帯の物件がどうなるのかについて調べてもらった。結論から言えば宿の買収に失敗したことにより大きな宿を作る計画は破綻、再利用できるようなエリアでもないから最終的に放出する動きが出ているらしい」


「ということは、横の宿などをまた売り出すってことですか?」


「まぁそうなるな。向こうからすればせっかく高い金を払って買い上げたのに安価に売り出さなければならずかなりの大損になるわけだが、在庫を抱えたままの方が損失が大きいと判断しての事なんだろう。運営内でもかなりもめたらしいが、結局は軍相手にはどうしようもないという結論らしい」


「まさかマスターがそんなことを調べているとは思っていませんでしたが、確かに競売にかける準備が始まっていますね。このエリアだけで言えば6件。狙うのはどこですか?」


「そりゃ隣接する横二つだろう。値段しだいでは両方・・・と思ったんだが、運営を考えるとどちらか一方しか無理だな」


離れのリビングにケイトさんにも集まってもらい、大きなモニターに競売データを表示してもらう。


なんでまだ非公開のデータが見れるのかって?


そこはほら、アリスだから。


「ケイトさんはどう思いますか?」


「え、私?」


「今回の購入は軍の単年契約に対応するためですから。当初の予定では別法人として翌年に軍と契約をしてケイトさんに運営を依頼するという予定でしたが、所在地が同じだとか文句を言われるのを避けるためにあえて購入を検討しています。もちろん私達はここを離れますので運営はお任せすることになりますが、ようはもう一軒宿が増えるという事ですね」


「宿を買うって・・・そんな簡単にできるもんなん?」


「買うだけで言えば出来る。が、ノウハウが無きゃ結局失敗するからケイトさんにお願いするのさ」


どんな仕事も素人が手を出していいもんじゃない、熟練者がやるからこそ成功するのであってノウハウもないやつがやっても失敗するのは目に見えている。


だからケイトさんにお願いするわけだが、離れた所だと色々と不便なので横の宿を購入するというわけだな。


因みに映し出されている資料を見る限り、右の宿は3000万ヴェイルで左は5000万ヴェイル。


値段だけで言えば右なのだが施設の老朽化具合を考えると色々と補修が必要な感じではある。


それならば左の宿の方がパイプに近く、更には比較的新しいので客を入れるには十分だろう。


「私は右の方が好きですね」


「ほぉ、その心は?」


「値段も安いですし、あまり綺麗すぎるとこの宿の雰囲気を合わない気がして」


「なるほど、確かに一理ある」


ローラさん的には右、確かにこの宿の少し不便な感じは右の宿にも通ずるものがある。


でもなぁ、外観だけ見るとかなりくたびれた感じはあるしパイプラインから少し遠いから湯量がちょっと気になるんだよなぁ。


「私は左ですね。後々の事を考えると、こっちの方が宿に近いので別館と言う形でも運営できるんじゃないでしょうか。比較的綺麗ですしこっちは雰囲気を、向こうは効率を楽しむ感じでシンプルな宿泊を希望するひとには合うかもしれません」


「シンプル?」


「温泉もいいですけど、プールとかコロニーそのものを楽しみたい人にとっては宿の雰囲気ってあまり関係ないと思うんです。もちろん温泉は売りですから、シャワーから温泉が出るとか大浴場があるだけでも喜ばれるとは思いますけど・・・」


「イブさんの考えも悪くはないな。あえて別の雰囲気にすることで用途を分ければ客もバッティングしないし、保養所契約をしてもそっちはここで継続して新しい所は新規客向けに開放。ふむ、悪くない」


「で、結局どうするのよ」


だからそれで困ってるんじゃないか。


正直この前の賠償金でどちらも買えてしまうので余計に悩ましい。


ローラさんのやり方もいい感じだし、イブさんのやり方も効率的。


とはいえ運営するのは俺じゃなくてケイトさんになるので、最後は本人に決めてもらうのが一番だろう。


これぞTHE丸投げってやつだ。


「ケイトさんはどっちがいい?」


「え、結局私が決めるの?」


「運営するのはケイトさんだからな。購入や改装の資金は俺が出すから、あくまでも経営の方をお願いしたい。誰を雇うのかはそっちの裁量でやってもらって構わないし、最初の費用はもちろんこっちが負担する。ケイトさんの実入りは利益の五割、アリス七割満室でいくらになる?」


「そうですね・・・左の宿として部屋数は100。保養所ではなくノーサービスのシンプルな宿として運営するのであれば一泊1000ヴェイル程ですから、そのうちの稼働率が七割として一日7万ヴェイル。利益率を三割とすれば一カ月で63万ヴェイルの利益となります。うち五割をケイト様となると・・・一カ月約32万ヴェイルですね」


「年間で380万、決して多くはないけど悪くはないんじゃない?」


言い換えれば俺の利益も年間380万、元を取るのにおよそ13年かかる計算になる。


うーむ、決して美味い商売ではないけれどそれで軍の保養所契約が維持できると思えばまぁ悪くはない。


運営の他うちが契約している間はケイトさんからも返済とは別に追加で100万ヴェイル貰えるのでそうトータルで考えればもう少し早く完済できるだろう。


後は利益を生み出すだけ、不労所得と考えれば十分すぎる額と言える。


因みに右の宿で計算すると、60室一泊1500ヴェイルで計算して稼働七割で月約28万、年間で336万の利益となる。


こっちは約9年で完済できるが、保守関係でそれなりにお金がかかりそうなのでトータルで考えればトントンと言ったところだろうか。


どちらを選んでも利益が出るのは十年後、とはいえ利益率はかなり低く見積もっているので実際はもう少し早く利益が出始めるはずだ。


ケイトさん的にもかなりの額が稼げるはずなので、将来を考えれば十分すぎる収入になる。


いずれはこの一帯を買い占めるなんてことも夢じゃない、旦那さんを無くしてこれから子供を一人で育てないといけないんだ、これぐらいの稼ぎがないと大変だろう。


「・・・じゃあ、左で」


「その心は?」


「宿から近い事と、保養所をここでつづけるのなら違う形態の方が何かと都合がいいと思って」


「なら決まりだな。アリス、競売に出たらすぐに先方に連絡をしてくれ。俺の名前を出してすぐに購入すると伝えれば話は早いだろ」


「畏まりました、直ぐに手配いたします」


これで軍関係の憂いもなくなった、後は諸々の準備を終えればこのコロニーともおさらばだ。


色々とあったけれどもある程度の進展はあったし、良い休暇になったと思えばいいだろう。


「ねぇ、これって5000万ヴェイルの買い物よね?そんな簡単に決めていいの?」


「トウマさんはいつもこんな感じですよ」


「せやね、ノクティルカを買う時もこんなんやったし」


「はぁ・・・私、とんでもない人と知り合いになっちゃったのね」


「別にそんなすごいやつじゃないぞ、どこにでもいる一般市民だ」


「一般市民が5000万ヴェイルをポンと出すことはありませんし、なんなら宇宙を放浪することもありませんが?」


「気のせいだって」


別に俺は特別でも何でもない。


どこにでもいる中年のオッサン、少々特殊なヒューマノイドと一緒なだけだ。


「って、それじゃ無理があるか」


「なんですか?」


「なんでもない」


不思議そうに首をかしげるアリスに向かって、俺は小さく首を横に振った。

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