288.完全復帰をお祝いして
「と、いうわけで無事にウイルスの除去は終わったらしい。正直本当に感染してたのかって疑問は残るが、まぁそれ以上は追求しないでおこう」
「よかったですねアリスさん」
「おめでとうございます」
「なんやようわからへんけど、無事ならそれでいいんちゃう?特に被害もなかったんやろ?」
「おかげさまで修復不可になるようなことはございませんでした。全システムオールグリーン、いつでもマスターのために働けます」
ムン!ガッツポーズを作ってやる気十分という感じだが、ぶっちゃけここでの仕事はもう終わってしまっているので特にすることもないわけで。
しいて言えばまだ楽しんでいないコロニーが幾つかあるのでそこを楽しむぐらいか。
もしくは仕事、正直金を使いすぎた感はあるのである程度は補充しておきたい所だ。
まぁそれは休暇後でも構わないので準備だけ進めていこう。
「ちなみにコイツがウイルスに感染していたのは本当よ、私も確認してるから」
「うーむ、テネスが言うなら信じるしかないか」
「私の言葉を信じずテネスは信じると?」
「お前前科持ちだろ」
「はて、なんのことだか」
「そう言うとこだよ」
やる気十分という顔から今度は不満たっぷりな感じと、コロコロと表情を変えるアリス。
まぁ何も影響なく復帰できたのはいいことだ、そこは素直に喜ばないとな。
「せっかくですからお祝いしたいですね」
「お祝い、いいですね!」
「でも具体的に何するん?」
「普通はご飯食べたり遊びに行ったりするんじゃないですか?」
「生憎と飯は食わないし遊ぶのは・・・どうなんだ?」
「それでしたらぜひ行ってみたい場所があるんです」
ほぉ、アリスが行ってみたい場所ねぇ。
イブさんの提案から始まったアリスの復帰祝い、一体何をするのかと思っていたら、事態はとんでもない方向に進んでいった。
「どうして俺はここにいるんだ?」
「私の復帰祝いをしていただくためです」
「それがこれと」
「真っ赤なのがどんどん近づいてきますよ・・・すごい、アレが本当のマグマなんですね」
目の前には真っ赤な惑星、まだ距離はあるはずなのにドロドロとうねりを上げるマグマの海が見える気がする。
因みに今いるのはテルマ・オルビスタのすぐ横にある巨大惑星、マグマと温泉の眠るそこへと降りる軌道エレベーターの中だ。
エレベーターと言ってもホロムービーにあるような透明パネルで覆われた綺麗なパイプ型ではなく、温泉輸送用の無骨なパイプに並走する半業務用。
それでも惑星が見えるように窓がついており、そこから真っ赤な惑星を拝むことができる。
まさか復帰祝いに惑星におりてみたいと言い出すとは思わなかった。
そりゃ行ってみたいとは思っていたけどさぁ、往復一人300万ヴェイルはなかなかの出費だ。
「なぁ、このエレベーター途中で止まるとかないやんな?大丈夫やんな?」
「大丈夫ですよミニマさん、多分ですけど」
「今のところ一度も止まったことはないそうですよ」
「って、リリットさんが言ってるから大丈夫なんだろう。知らんけど」
「マスター、不確定な情報を信じては行けません。過去に三度停止した記録があります、そのうちの2回はマグマ直上、幸い蒸し焼きにはならなかったそうですが、内部はかなりの高温になったとか」
「ひぃぃぃ!あかん、お姉様今からでも遅あらへん、はよ帰ろ?焦げてまうで?」
「そんなに心配しないで大丈夫ですよ、そうなった時はみんな一緒ですから」
「外部温度120度を突破、これだけ離れていてこの温度なんだから内部はすごいんでしょうねぇ。しっかし、なんでここにくるのが快気祝いなのよ」
「それも俺は気になっていた、確かに一度見てみたいととは言ったが、それと快気祝いは結びつかないだろ」
テネスの指摘に俺も賛同する。
ここにくる前に見てみたいという話をしたが、今回の目的とはまた別の話。
てっきり買い物がしたいだのプールに行ってはしゃぎたいだの、例の水着を含めてはっちゃけるのかと思いきや、ごくごく普通の?観光に来ているわけで。
全員の視線を一身に浴びて満足そうなアリス、いやドヤ顔してないで早く教えて欲しいんだが?
「一度見てみたかったんです、自分が消えてしまえる場所を」
「いや、重いな!」
「自分で言うのもなんですが、私がウイルスに侵されて仮に暴走してしまったら間違いなく星間ネットワークは崩壊します。それをする実力もありますしやってしまう自分がいる。そんな自分を終わらせるとしたらここに落とすしかないなとそう思っていたんです」
「古いホロムービーじゃ溶鉱炉に落ちてもバックアップで戻ってきた奴がいるぞ」
「ですがそれは本当の私と言えるのでしょうか」
「ここでテセウスの船を聞くとは思わなかったが、まぁバックアップがあれば復帰できますと豪語してたやつのセリフじゃないな。俺から言わせればバックアップであってのお前であることに変わりはない、そいつもまたよからぬことを考えているんだろう」
「ふふ、そうですね」
まさかそんな理由でここに来たがったなんてちょっと意外だったが、アリスはアリスなりに最悪の事態を想定していたんだろう。
星間ネットワーク全てを把握できる実力があるのは間違いない、そんな彼女が暴走したとき俺はコイツをマグマに落とさなければならない。
いくらバックアップで復帰できるとはいえ、コイツとバックアップで復活したコイツは同じなのか?
確かにそう思う自分ってしまうがいる。
世界とコイツを天秤にかけた時、俺はしっかりとコイツを殺せるのだろうか。
「そんな難しいこと言って、結局は見たかっただけでしょ?」
「えぇ」
「・・・だよな」
「他の事を考えましたか?」
「いや、お前ならやるだろうなと思ってた」
「残念です」
シリアスな感じから一変、結局はいつもの感じらしい。
もしかしたら本当にそう思っているかもしれないけれども、まぁその時が来たら考えればいい話であって起きる前から不安に思っていたら何も出来なくなる。
今回のウイルスだって遺跡から出てきたヒューマノイドをスキャンしたから感染したのであって、それ以外の状況ならこうはならなかったはずだ。
アリスを感染させるようなウイルスが作れるとしたら今の所テネスぐらいしか思いつかないのだが、その彼女ですらアリスの足元には及ばない。
つまり余計な事をしなければ今の所大丈夫、と考えていいだろう。
「あ!近づいてきましたよ!」
「外部温度200度を突破、これが本物のマグマですか」
「すごい・・・これだけ離れているのに熱気が伝わってくるみたいです」
「内部温度も上昇中、ねぇ、このエレベーター本当に大丈夫?」
「そんなん言わんといてぇや!」
「それには俺も同意見だ。アリス、マジで事故は起きていないんだよな?」
「隠蔽していなければ」
「おい!」
確かにこれだけ近くでマグマを見られるのはこのツアーだけだろうけど、ドンドンと上昇する内部温度計の数字に楽しさよりか不安の方が大きくなる。
本人が楽しいならそれでいいんだけど・・・まったく、快気祝いで焼き殺されるとかマジで勘弁してくれよ。




