287.当初の目的を思い出して
大勢の軍人達が出入りする本館とは違って俺達の泊まる離れは静かなもので、これまでのドタバタ騒ぎがウソのように静まり返っていた。
それもそのはず、離れにいるのは俺とアリスだけ。
うちの三人はまた買い物へ行くそうで、リリットさんも一応相談役としてそれに付き添うんだとか。
ケイトさんは勿論宿の方で大忙し、ただし今までと違って従業員がたくさんいるので一人で無茶をする心配はないだろう。
あれからコロニー運営や地上げ屋が何かしてくる気配もなし、全ては丸くおさまったと思って良いのだろうか。
「はぁ、やっぱり温泉はいいなぁ」
「そうですねぇ」
誰もいないのをいいことにのんびりと中庭の露天風呂に入りため息をつく。
見上げれば満天の星空・・・風の映像がコロニーの天井に投影されている。
残念ながらこの辺りはコロニーの外壁付近なこともあり見上げても宇宙が見えるということはない。
だがそれでは風情がないということで運営が映像を流しているのだとか。
まぁ映像だろうがなんだろうがそういう風に見えれば文句はない。
体の芯から温まる温泉の熱に全身の筋肉がほぐれていくのがわかる。
「なぁ」
「なんでしょうか」
「ヒューマノイドにとって温泉の良さってなんなんだ?表面温度の報告が無数に流れてくるって話はテネスから聞いたが、それとは違うのか?」
「それはおそらくジャグジーの話ですね。温泉の場合はもっとこうじんわり外皮温度が上がってくるのを眺める良さがあります」
「楽しいのか?」
「楽しいですね。本来我々はもっと高温下でも活動できるようになっていますが、ここまで中途半端だと冷却機能が作動するかしないかの瀬戸際なので、自立プログラムが判断に迷っている感じが愛おしく感じます」
人間には全くわからない楽しさが彼女にはあるのだろう。
例の超絶際どい湯浴み着を身に纏い、気持ちよさそうに自分の腕に温泉をかけるアリス。
これまでに何度か裸を見たことはあるけれども、それとはまた違う色っぽさがある。
っていうかヒューマノイドの肌も赤くなるんだな、その辺が妙にリアルすぎて余計にそう見えてしまうのかもしれない。
「もっとじっくり見てくださっても構いませんよ?」
「それは遠慮しとく」
「まったく、これだからチキン野郎は」
「なんだって?」
「ヘタレだと申しただけです。これまでに何度もマスターの前に裸体を晒してきたというのに全く反応せず、今日だって性癖にバッチリ当てはめているのにこの様です。そりゃあセクサロイドとしての機能は一時的に失っていますが、揉むだけでも楽しいと思うんですけどねぇ」
そう言いながら自分の胸を下から持ち上げて両手で揉み始める。
イブさんほどの大きさではないものの、指の隙間からこぼれるぐらいの大きさはある。
美少女が自分で胸を揉む様は明らかにアウト、それでもそういう気分にならないのは・・・なんでなんだろうなぁ。
「因みに揉むとどうなるんだ?」
「外皮圧力数値が上昇、内部素材の加圧数値が上がり一定以上になるとエラーを吐き出します。危険領域まで行くと警告が発せられ、防衛機能として微弱の電流が流れることになっています。温泉の成分からすると伝達率はかなり良さそうなのでマスターもいい感じに感電を・・・」
「それのどこが微弱なんだよ!」
「大丈夫ですよ、マスターが揉まれる時には制御機能をオフにしますので好きなように揉み潰してくだされば。最大で250kgまでの力には耐えられるようになっています、ちぎれる心配はありませんが先端部はセンサーの兼ね合いでデリケートですから・・・ん、優しくしてくださいね?」
「わざとらしい声出すんじゃないっての」
艶めかしい声が聞こえてきたがスルー、それで俺の心の平穏は保たれる。
「これで機能が生きていれば押し倒してしまうこともできましたのに・・・残念です」
「どこの世界に主人を押し倒すヒューマノイドがいるんだよ」
「ここにおりますが?それに、そういうプレイを求める人はそれなりの数いますし、セクサロイドの6割にはそういう機能がインストールされています。世の男性はなぜこうも草食なのか」
「草食?」
「古い言葉でそういうことに興味がないということです。まったくそこにぶら下がっているのは飾りですか?こんな美少女にお世話されているのですから、一回ぐらい男らしい所を見せてください」
「そりゃそういう気分になることもあるが、お前は今ウイルスに侵されてるんだろ?」
「え?あぁ、そういえばそうでしたね」
いや、そういえばってどういうことだよ。
あの遺跡で貰ってきたウイルスのせいでセクサロイド機能の他バックアップができなくなっている、だからここで休んで行こうっていう話だったんじゃないのか?
色々ありすぎていまの今まですっかり忘れていたが、そういう話だったよな?
「アリス」
「なんでしょう、そんなに怖い顔をして。まさかやっとこの湯浴み着の効果が出ましたか?」
「出てないっての。どういうことか説明してくれるよな?今までの話は全部ウソだったのか?」
「嘘ではございません、ウイルスに汚染されたのは事実です。ですが、つい昨日ウイルスの解析に成功しましたので対策プログラムを作成、現在進行形で駆除を開始しております。それもこれも全てはここにきてゆっくりしたおかげですね」
「本当かよ」
「嘘ではありません」
真剣な目でそう言い切るアリスだが、本当にそれを信じていいかについてはなんとも言えない。
コイツの場合俺の為と言いながら好き勝手やってきた前例があるからなぁ、もちろん本当に昨日解析が終わってプログラムを作った可能性もあるけれど・・・。
「ちなみについさっきセクサロイド機能が回復、今すぐご使用いただけますが如何ですか?」
そう言いながら今度は獲物を狩る肉食獣のような目をしながらゆっくりとこちらに近づいてくる。
前傾姿勢になっているのにほどほどの膨らみが重力に負けず綺麗な形を保ち、先端部まで精巧に再現されたソレは引っぱってくれと言わんばかりに主張している。
表情もまた妖艶な感じになっているし・・・。
「だが断る」
「全く、そんなんだからローラ様にも手を出せないんです。私と違って人間の女性には旬があるんですから、いい加減そういう態度を取るのはやめたほうがいいですよ」
「手を出すってお前一体どこまで見て・・・」
「おや、見られては困るようなことをされていたんですか?」
しまった、と思った時にはもう遅い。
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら俺に近づきそのまま横に腰掛ける。
「黙秘権を行使する」
「仕方がない人ですね。ですが先ほども申しましたようにあまりお待たせしないほうがいいですよ」
「わかってるんだがなぁ」
「マスターは何が気になるんですか?」
「気になるっていうかなんというか。俺なんて嫁に捨てられるような残念な男だし、ローラさんには釣り合わないというか・・・」
「はぁ、そんなくだらないことで悩んでいるんですか」
「くだらないって言ってくれるな、俺にとっては大きな問題なんだよ」
アリスからすればどうでもいい話かもしれないが、元嫁との件はそれなりに心に来ている。
宇宙に出て俺は自由に生きるんだ!と宣言し、それなりに自由にやらせてもらっているけれども色恋ともなるとどうしても気後れしてしまうんだよなぁ。
「マスターにとっては大きく見えているだけで、案外ちっぽけな物だと思います。お待たせしているのは事実ですし、仮にそうなってもそれを気にする人はこの船にはおりませんよ。むしろ早くそうなっていただいた方がこちらとしても色々と動きやすいのでさっさと食べちゃってください」
「食べちゃってってお前なぁ」
「何なら今から予行演習しておきますか?一度体験すると二度と他の方で満足できなくなるかもしれませんがスッキリできますよ?」
「だが断る」
なんにせよアリスのウイルス問題も無事に解決しそうなので、いよいよここにいる理由が無くなって来た。
テルマ・オルビスタでの生活もあとわずか。
出発前に色々と楽しんでおかないとなぁ。




