286.思わぬやり方に驚かされて
突然こいつは何を言いだすんだろうか。
ウイルスで中身を侵されてしまいおかしくなってしまったのか?
そんな俺達の目線を一身に受けながら何故かドヤ顔のアリス。
いや、その顔はもういいから詳しく話せっての。
「アリスさん、どういうことですか?」
「言葉通りの意味です。来年は我々が軍の保養所を運営いたします」
「いや、運営いたしますってそんな場所どこにあるんだよ」
「あるではありませんか?」
「どこに?」
「ここに」
そう言いながら彼女が床を指さす。
床?
地面?
違う、ここか?
「もしかして、この宿ってことか?」
「その通りです」
「いや、この宿はケイトさんの物だし・・・って待てよ?もしかして契約者だけが俺達なのか」
「流石マスター、よく気づきましたね」
「確かにその方法なら複数年契約には当たらないが・・・それでいいのか?」
「単一企業による独占を防ぐ為の単年契約であって、世論が重要視するのは場所ではありません。つまり場所を運営する企業さえ替われば何の問題もないわけです」
なるほど、だからしきりにレオン大尉に確認をし続けたのか。
場所を変えろと言われるのであれば別の場所を用意しなければならない。
だが、レオン大尉はしきりに同一企業による複数年契約が問題なのだと言い続けた。
だからアリスは場所はそのままに契約先を替えるという荒業でそれを乗り越えようとしているわけだ。
「ごめんなさい、どういうことかよくわからないの。もっとわかりやすく教えてもらえるかしら」
「本年度はケイト様と宇宙軍が契約し宿を運営していただきます。来年度は我々が宇宙軍と契約をさせていただき宿の運営をケイト様に委託、つまり引き続き保養所として運営していただくという事です。その代わり我々は年間100万ヴェイルで業務を委託させていただきますが、その年の返済額は100万ヴェイル上乗せさせていただきますのでご了承ください」
「あぁ、なるほど!よくわかりました!もちろんその条件で大丈夫です!」
「まったく、よくまぁこんなこと思いつくわねぇ」
「今回の件で宇宙軍が気にしているのは世論への体裁ということがよくわかりました。まぁ税金で活動する以上世論を敵に回せません、ナディア中佐も大変ですね」
「何をするにも目を付けられるのにはもう慣れたわ。この間のルスク・ヴェガスだって遊びに行ったんじゃないかって物凄い言われたんだから。幸いにも豪華客船の所有者が事情を説明してくれたことでお咎めは無かったけど、それもあって彼が軍に配属されたってわけ」
そう言いながらナディア中佐がレオン大尉の方を見る。
今の話から察するにこの人は軍のアドバイザー的な立場で、宇宙軍がやろうとしていることを客観的に判断するんだろう。
だからこそ否定的な事も言うわけだが、アリスのこの突拍子もないやり方に彼がどう反論するのだろうか。
「確かにその方法であれば大きな問題はないでしょう。利用する我々からすれば誰が運営しようと全く関係はありませんし、貴女が言うように世論が気にするのは書面上の取引先だけ。それが個人だろうが傭兵だろうが関係はありません。そもそもこんな場所まで来て場所が変わったかを調べるような人もいませんから、騒ぎになることは無いでしょう。ですが、それが通用するのも数年だけです」
「と言いますと?」
「保養所という事でここを利用するとして、年間の利用者はどのぐらいと見込んでいますか?」
「そうですね、月間の稼働日を15日として1.3万人と言う所でしょうか。現在の宇宙軍の実働人数はざっと計算しても130万人程いますから問題ないと考えています」
「なるほど、ですがそれが間違いなんです」
やり方自体は否定しない、だがそのやり方では数年しか通用しない。
単純に宇宙軍に所属する人が一回だけ利用するとしても100年は稼働できるはずなんだが、それなのに数年だけというのはどういうことなのだろう。
「ふむ、その理由をお聞きしても?」
「確かに宇宙軍の実働ははそれぐらいかもしれませんが、実際に保養所を使うのはせいぜい5%。となると五年で一巡してしまうわけです。もちろんすべての人がリピートするわけではないでしょうし、実際同じ場所となるとリピート率は低下します。コロニーそのものを楽しみに来ている人であれば同じ場所でも問題ないでしょう、ですがそうでない人からすれば毎回同じ場所と言うのは飽きにつながり、結果的に利用者は尻すぼみ。今回の件で保養所と言う概念が出来たことで、他の企業も名乗りを上げるはずですからここよりもいい場所が出ればそこを利用せざるを得ません。よくて十年、最短で五年と言うのが私の見立てです」
「流石に5%は少なすぎませんか?」
「そもそも保養所などの福利厚生を知らない軍人が多いのが現状です。加えて軍務の内容から利用したくてもそれが叶わない、もしくは金銭的に利用できない人もいるでしょう。どちらかと言えばここは辺境寄りですから、行くのならばもっと近場でと考えるはずです」
「確かにそれは一理ありますね。ハイパーレーンなどを利用して二日で来訪できる距離にいる実働隊員は15万人ほど、そのうちの1割が利用したとしてもその計算が成り立ちます。ですがそれは実働のみです、その方の身内や関係者も含めればその人数は膨大になりますが」
「それでは福利厚生と言う名目が成り立ちません。何度も言いますが、これは税金です。身内はともかく関係者に公金を当て込むなどありえない話です」
「税金を利用するのは実働している方だけでいいと私も思っています。それ以外の人に関しては実費、ただし金額は定価の半額と言うのはどうですか?稼働日は月の半分で計算していますし、残りの半分を彼ら用に開放すれば本来利用できる人たちが利用できないという事は起こりません」
その後も白熱した議論が続き、取り残された俺達は途中で会話に入ることをあきらめ静かに香茶を楽しむことにした。
なんだろう、ナディア中佐相手だと物足りなかったけれどアリス相手だといくらでも議論が続くからレオン大尉も楽しくなっているのではないだろうか。
その証拠に最初は保養所についての話だったのにだんだんと話が大きくなり、今は軍の運営方法についての話になっている。
一介の大尉がそんなことを話してどうするんだと思ってしまうけれども、何にせよ楽しそうなのでそっとしておこう。
「あー、終わった終わった」
「お疲れ様」
「ケイトさんも大変だったな」
「私はただ話を聞いていただけだから」
「それに関しては俺も一緒だ。なんにせよ今後は軍の保養所として運営できるようになったから、奴らも下手な事は出来ないだろう。もちろんある程度の邪魔は想定されるが、運営を邪魔するほどではないはず。最悪連絡を貰えればアリスが何とかするはずだ。なんせ来年度の管理者は俺達だからな、俺達の邪魔をするというのなら容赦はしない」
まぁ容赦しないのはアリスだが、ともかくこれで宿関係の問題は解決したと考えていいだろう。
最初はどうなる事かと思ったが、結果としてプラスに働くことになったし借金返済後も継続して営業することで俺には毎年それなりの金額が入ってくることになる。
最初は借金返済したら終わりにしようと思ったのだが、ケイトさんがそれでは困るという事で支払額を半分にするものの継続して支払ってもらう事になった。
リリットさんも学費をしっかりと稼ぎ、万事解決。
まぁ、コロニー運営のやり方はそのままだが自分達の悪事を知られたことで何かしらの改善をしてくるだろう。
後は俺達もゆっくりして、目標の辺境へ・・・って、あれ?
何か忘れているような気がするんだが何だったっけ。




