278.思わぬ展開に動揺して
ジャグジーを抜け、急ぎ最初の待ち合わせ場所へ。
そこには俺達を除く全員が集まっており、何やら物々しい雰囲気になっている。
その中心にいるのは顔面蒼白のまま横になるケイトさん、こりゃ何かあったな。
「状況は?」
「宿に仕掛けていたセキュリティが反応いたしましたので確認した所、例の連中が来たようです。すぐに通報しましたので特に何かされることもなく済んでおりますが、それを聞いたケイト様が動揺して気分を悪くされたようです」
「大丈夫、簡易スキャンの結果を見る限りでは特に問題はなさそうよ。一応医療用ポッドで確認してもらった方がいいだろうけどそこまで心配はないんじゃないかしら」
ひとまず命に別状はないようなので安心だが、それでも状況は何も変わってない。
問題は例の連中が一体何をしに来たのか、前の話じゃ来るのはまだ先のはずなので状況が変わったとかなんだろうか。
立ち退かないとただじゃ置かないみたいな雰囲気を出しているけれど、もうネタは上がっている。
もっともそれを運営に告発した所で向こうもグルなので何も解決できないのが厄介な所だ。
「とりあえず大事が無くて安心したんだが・・・これからどうする?」
「ケイトさんも心配ですし、少し早いですけど戻りますか?」
「ウチもそれがいいと思うけど」
「だが戻ったところであいつらがいるわけだろ?精神衛生上よろしくないことを考えると今すぐ戻るのはどうだろうなぁ。とりあえず休めるところに移動して俺達だけでも話を聞きに行くってのはどうだ?」
「その間どこでお待ちいただきますか?正直コロニー内は運営の管理下にありますから安心は出来なさそうです」
「それならソルアレスに来てもらうのはどうでしょうか。あそこなら医療用ポッドもありますし休める場所もありますよ」
流石ローラさん、ナイスアイデア。
なんにせよケイトさんをこのままここで寝かせるわけにはいかないので、プールを中止して急ぎ小型船を手配してもらってソルアレスへと移動する。
ケイトさんをローラさん達に任せて連絡用にテネスを待機させつつ、俺とイブさんそれとアリスの三人で現地へと向かう事にした。
宿の前には黒塗りの車が停車したまま、警備も周りで待機してくれているけれど特に何をするわけでもないので手を出せないという感じの様だ。
「さて、どうする?」
「どうするも何も正面突破以外ないかと。我々はあくまでも代理人、向こうの意見を聞いて帰るだけです。もっとも、何もしないわけにはいきませんので色々とつつく必要はあると思いますが、なんにせよまずは向こうの出方を見ていきましょう」
「それしかないか。荒事になった場合はイブさんに任せた」
「この感じだとそれはなさそうですけど、もしもの時はお任せください」
「そんじゃまいきますか!」
今回の目的はあくまでも情報収集、向こうがどういう出方をするのかを知ることが目的だ。
ゆっくりと歩いていくと車から見覚えのある連中が降りてきた。
「また貴方ですか」
「それはこっちのセリフだ。だが生憎と持ち主はいないぞ、あきらめて帰ったらどうだ」
「その代わりに貴方達が来たのでは?」
「別に代わりじゃないさ。怪しげな車が泊まっている宿の前にあるんで様子を見に来ただけだ。不法駐車は交通の妨げになるぞ」
「周りの宿は空っぽ、誰がここを通るというのです?」
「俺とか?」
「貴方とくだらない話をしに来たのではありません。要件を言いますからさっさとあの女に伝えなさい」
年の割に随分と気が短い・・・いや、老い先短いからせっかちなのか?
なんにせよ俺と話をしてくれる感じではないので致し方なく黙ることにした。
「事情が変わり支払日が変更になりました。明日の18時までに4000万ヴェイルを支払わない場合はこの宿を差し押さえます。もちろんコロニー運営の許可は取得済みの案件です、いい加減帰るかもわからない主人を待つのはやめなさい」
「伝えるのはそれだけか?」
「えぇ、一字一句間違えないようにお願いしますよ」
「アリス、中身を確認してくれ」
差し出されたのは一枚のデータチップ、それをアリスが受け取ると即座に解析が始まった。
ウイルスに侵されていてもこれぐらいの事はすぐにできる、受け取って数秒でアリスがそれを俺に渡してきた。
「コロニー運営の公認電子サインが押されています、間違いありません」
「確かに渡しましたよ。貴方方も余計な事に首を突っ込まないで大人しくバカンスを楽しんだらどうですか?希望があればもっと素晴らしい宿を用意しますよ」
「生憎と俺はここのお湯を気に入ってるんでね。アンタらもコロニーに言われて地上げ屋なんてやってるんだろ?大変だよな」
「さぁ、何のことだか」
「帰ったらおたくのボスに伝えてくれ、バカンスを邪魔するなってな」
俺とにらみ合った後、初老の男性は満足そうに笑い、部下を引き連れて黒塗りの車へと乗って去っていった。
うーむ、てっきりもっと何かしてくるのかと思ったが随分とあっさり引き下がったな。
「すんなり帰りましたね」
「だな。しかも伝えてきたのが支払日の一日前倒し程度。もっとこう強力な方法で来るのかと思ったんだが・・・ちょっと拍子抜けだ」
「とはいえ明日までの4000万ですから普通の人は払えませんよね」
「まぁそうだな」
「支払ったところで彼らが運営を妨害し続けるのであれば再び借金するしかありません。そしていずれは首が回らなくなり、手放すことになるでしょう」
「つまり根本を解決しないとどうにもならないってことか。でもなぁ、運営が相手となるとよっぽどの権力を使わなきゃならないんだが・・・なかなかなぁ」
この件に関しては色々と健闘を続けているけれども、正直これ!という妙案が浮かんでいない。
正直金に関しては俺達が立て替えればいいだけなのでそこまでの問題じゃないけれども、その先が見えない以上建て替えるメリットがない。
正直ケイトさんとはここで知り合っただけの仲、確かに可哀そうだとは思うが慈善事業をしているわけではないのでタダで金を渡すのはちょっと違う。
出すからにはそれなりのリターンがあってこそ、でも現状では宿で金を稼いで返済に充てるなんて言う事は出来そうもないんだよなぁ。
「とりあえず戻りますか」
「だな、ここにいても始まらないし今後について考える必要がある。まぁ、それが一番難題なんだけど・・・」
「大丈夫ですよ、きっといい案が浮かびます」
「だといいんだが」
ここにいても始まらない。
とりあえずソルアレスへと戻る前に全員分の食事や飲み物を買っていくことに。
プールってのは随分と腹が減る場所らしい、ただゆっくりしているだけなのになぜこんなに空腹なのかはわからないけれど、気づけばとんでもない量をテイクアウトしていた。
まぁ人数はいるから全員で食べれば何とかなるだろうけど・・・。
両手いっぱいに料理をぶら下げてソルアレスへと凱旋、さぞ腹を空かせて待っているだろうと思いキッチンへと向かったその時だ。
「もう駄目よ、あの人も家も失ってどうやって生きていけばいいの?こんなの、死んだほうがましじゃない」
扉を挟んだ向こうからケイトさんの悲壮な声が聞こえてくる。
やれやれ、まずはこっちをどうにかする方が先決か。
ため息をつきたくなる気持ちをぐっと抑えながら、扉の向こうへと足を踏み入れたのだった。




