273.今後について相談して
「で、これからどうする?」
テルマ・オルビスタコロニーの運営がいかにクソなのかはよく分かったが、このままでは何も解決しない。
借金は間違いなく存在するし、三日後までにそれを支払わなければこの宿は奴らの物になってしまう。
なんならケイトさんは失意のあまり自殺しそうな勢い、流石に世話になった人が死ぬのを見逃すわけにもいかないのだが、生きる希望を失っているのもまた事実。
生きていれば何とかなるなんて言う気休めを言うつもりはない。
彼女にとって生きる希望であった旦那はもうこの世にはおらず、守るべき宿も風前の灯火。
だが、守ろうにも資金は無く客は来ないまま。
こんなにもいい宿なのに運営が意図的に客を奪っているせいでこんなことになっている。
本来ならもっとたくさんの客に恵まれ、このエントランスも大勢の人でにぎわっているはず。
お湯を運ぶパイプラインの一番手前にあるここは常に大量の湯を使えるわけだし、建物だって趣があって派手な宿が嫌いな人には違いなく受けるだろう。
何なら少し高めに設定しても十分客は来る、それだけのポテンシャルがある。
それをダメにしたのは間違いなく運営であり、あの地上げ屋達。
相談役で金をせしめるだけで飽き足らず、自分達の私利私欲のために人の物を奪うなど許されていい物じゃない。
「コロニー運営のサーバーをクラッシュさせましょう。そうすればすべてがリセットされます」
「はいアウト」
「何故ですか」
「そんなことしたら俺達みたいにバカンスを楽しみに来ている人に迷惑がかかるだろ。悪いのは運営であって客じゃない、そこに迷惑をかけるのはアウトだ」
「でも悠長なことはしてられないわよ。あと三日もすればまた地上げ屋が来るわけだし、その時までにお金を用意しないといけないのよ?またギャンブルでもするの?」
「それも考えたがあまりにも運要素が強すぎる。もっとこう、正攻法で奴らを見返さないと意味がない」
アリスとテネスの出した案はとりあえず却下、俺が金を貸すのは簡単なんだがそれでは何の解決にもならない。
仮に今回は無事に終わっても客を呼ばなければまた資金が尽きて結局同じことになってしまう。
今のケイトさんを生かせるのはこの宿を残す事だけ、問題はどうやって客を呼ぶのかという話だ。
普通のやり方では周りの宿のように地上げ屋に潰されるだけ、ならばもっと正攻法でかつ奴らが太刀打ちできないような方法でやらなければ意味がない。
「正攻法って具体的に何するつもりなん?」
「それがわかれば苦労しないっての」
「運営が手を出せないとなると、国の機関かもしくは軍の管轄ぐらいじゃないと無理じゃないですか?」
「でも宇宙軍なんてこのあたりにはいませんよね」
「・・・検索しましたが宇宙軍の存在は確認できませんでした。客の中に一部軍人がいますが、我々の知る人物ではありません」
「まぁそう上手くはいかないよなぁ」
例えば国の偉い人がここを買って、代わりにケイトさんが運営するとかなら手を出しにくいのではないだろうか。
とはいえ偉い人の知り合いはライエル男爵ぐらいなもので、ここと向こうじゃあまりにも距離が遠すぎる。
名前だけ貸してくれって言う事は出来るだろうけど、結局金が生まれなければ意味はないわけで。
「正攻法と言えばこのまま宿を運営することですよね。借金を返し、生活ができるぐらいにお客様が来たらいいわけですから」
「イブさんの言う事が1番の王道。問題はそれを邪魔するものがあまりにも多いって事だ。どうやって客を呼ぶのか、どうやって地上げ屋の妨害を回避するか、あいつらのことだからパイプラインの故障とか言って温泉自体を止めかねないぞ」
「そんなことしたらここ以外の宿も困るわよね?」
「さっきハッキングした結果を見る限りそれぐらいの事をしてでも買いたいって感じだろ」
「そしてそこから生まれた損失をこちらにふっかけてくる、十分ありえる話です」
俺たちの相手はそれだけめんどくさい相手だということだ。
合法かつ確実な方法を模索するもなかなかいい案が浮かばない。
アリスとテネスが思いつくのは過激な方法ばかりで役に立たないし、全く困ったもんだ。
「もういいわ」
「いや、よくない。だって死ぬ気だろ?」
「もういいの、あの人が帰って来ないんじゃここを守る意味もないし。正直楽になりたいのよ」
「ダメです!死んじゃったら旦那さんの意思はどうなるんですか」
「そんなこと言ったって私にはもう何も残ってないんだもの!もうダメなの、体だってもうボロボロだし、生きている意味なんて・・・」
悲観している人間に何を言っても伝わらない。
それは俺の経験から導き出された答えでもある。
こたとえ上辺の言葉でその場を収めたとしても目を逸らしたらよからぬことをする。
昔の友人がまさにこんな感じだった。
幸いそいつは別の生きがいを見つけてどうにかなったが、今の彼女にそれを見つけろというのも酷だろう。
かと言って知ってしまった以上スルーするわけにもいかないわけで。
全く、今回もまた面倒なことに巻き込まれたもんだ。
リリットさんといいケイトさんといい、全てはここの運営が腐っているせい。
アリスの言うようにクラッシュさせて1からやり直しさせた方がいい気もするけど、その責任を取ることができないやつがやっていいことじゃない。
じゃあどうするか。
「よし、風呂に行くぞ!」
「はい?キャプテン何言うてるん?」
「それから美味い物食って明日はプールだ。アリス、ケイトさん用の水着を頼む、本人が選んでくれたらそれでいいが無理ならスキャンしてサイズを把握、それはできるだろ?」
「もちろんです」
「でもこんな時に温泉やプールだなんて、時間ないんですよね」
ローラさんの指摘はもっともだ。
あと三日で奴らが来るのに呑気に風呂だのプールだの言っている場合じゃない。
場合じゃないが今のテンションでどうにかなるもんでもない。
「時間はない。時間はないがこんな状況で考え事したっていい案が浮かぶわけもない。今必要なのは温泉で体と心を癒してそれから美味いものを食べる、そして寝る。少し元気になったら嫌なことを忘れて遊ぶ。心と体の休息なくしていい仕事はできない、ってのが俺の持論だ。今に限っては異論を認めない、これはキャプテン命令だ」
「なるほど、命令なら従うしかないわね」
「テネスは今からこの人数で入れる最高の店を探してくれ」
「予算は?」
「糸目は付けないと言いたいところだが、一人五万まででよろしく」
「そんなケチくさいこと言ってないで10万ぐらい出しなさいよ」
いや十万って高すぎだろ、別に高いから美味いってもんじゃないんだぞ?
と、言ってやりたいところだが啖呵を切った手前そんなカッコ悪いことも言えないわけで。
「イブさんとミニマさんはケイトさんのフォローをよろしく。ローラさんは風呂に入りながらでいいからアリスと一緒にケイトさんの水着を選んでくれ。常識の範囲で頼むぞ」
「そう言うことなら、わかりました」
「悪いがケイトさんには俺たちと一緒に行動してもらうぞ。そうなると部屋は・・・」
「私の部屋を使ってください、私はマスターの部屋に移ります」
「おい」
「何か?」
「・・・なんでもない」
俺が言い出しっぺなので文句を言えるわけもなく、それでもこの人を助けるためにはこうするしかないんだと自分で自分に言い聞かせる。
これも乗りかかった船、まずは風呂に入って心を落ち着かせそれから色々と考えよう。
まずはそこからだ。




