272.予想以上の話を聞いて
黒服の連中を追い払った後、流石に一人はまずそうなので彼女にも一緒に来てもらい、事の顛末を聞かせてもらった。
こんなの飲んでないとやってられない・・・ところなのだが、飲んで思考を曇らせたくなかったので美味しい香茶でなんとか誤魔化すことにした。
「ひどい、ケイトさんは何も悪くないに人の不幸に付け込んでこんなことするなんて」
「仕方ないわ、お金がなかったら生活できないんだから。特に調べもしないでそれを信じた私も悪いのよ」
「そんなことあらへん。苦しい時に手を差し伸べられたら誰でも手を伸ばすもんやろ」
「最初は甘い顔をして安心させてからの手のひら返し。いえ、タイミングからするとわかってやっている感じはありますね」
「つまりは地上げか?」
「おそらくは」
話を聞きながら導き出された答えは一つ。
コロニーなんていう限られた敷地の中で生活していると意外とよくある話で、何かしらの理由をつけて相手の土地を奪っていくのを生業としている連中がいる。
それこそさっきのような黒服に黒いエアカーに乗ったようなのがまさにそう、そのやり口からヴァルチャーと呼ばれることもある。
なんでそんな知識があるかって?
ホロムービーのおかげだよ。
コロニーを丸々地上げするなんて言うバカみたいな設定ながら、人間関係の緻密さと張られた伏線、そしてそれを回収していく流れが最高すぎて大ヒットしたやつだ。
名前はなんだったかなぁ、クレイジーバルチャーだっけ。
まぁそれは置いといて。
「地上げって、ここを無理やり買い取るってことですか?」
「なんでもここを取り壊して新しい宿を作りたいそうよ。ここだけじゃなく周りも古臭い感じだからこの辺一体を全部潰して新しくて綺麗な宿を作るんだって。それにほら、ここがお湯のパイプラインに一番近いから湯量も勢いもあるしね」
「なるほど、だから周りの宿に人気が無いのか。これは興味本位で聞くんだが、最初はどんな風に近づいてきたんだ?」
「一番最初は一般業者を通じてここを買い取りたいって言ってきたんだけど、それはすぐに断ったの。そしたらだんだんとお客さんが来なくなって、そこでコロニー運営から融資の話が出たのよ。でもあの人がそれは駄目だって言って、それでもだんだんとお金が足りなくなって来たから親戚に借りに行くってあの人が出て行ったんだけど・・・」
「結局戻ってこなかった」
「そう。お金は全部あの人に任せていたから、どうしたらいいかわからなくて。そんな時、あの人たちがやって来てお金を融資してくれるっていう話になったの。私がバカだったわ、あの人が命懸けで止めてくれたのに結局無駄になっちゃった」
で、あの手紙に繋がるわけか。
前に確認した限りでは中身には連中の事は書かれておらず、ただケイトさんへの愛だけが書き続けられていた。
死ぬ間際になってもあいつらへの恨みを言わず、ただ自分の嫁への愛を書けるだけの関係がこの二人にはあったんだろう。
もし俺が同じ立場だったらどうなるだろうかと考えてみたんだが、今になってはあの人への感情も薄れてしまっているせいでよくわからない。
よくできた旦那ではなかったかもしれないけれど、最後にあれだけの事をされてしまうと愛情が無くなるのも致し方ないよな。
それ故にあんな連中がこの人と旦那さんとの間を切り裂いたと思うと・・・いや、ここは冷静にいかなければ。
「許せません」
「ん?」
「ケイトさんはただ旦那さんの帰りを待っていただけなのに、それにつけこんでお金を貸すだけじゃなく旦那さんまで殺してしまうなんて・・・そんなの許しちゃだめです」
どうやら話を聞いて怒っているのは俺だけではなかったようだ。
イブさんが拳を握り締め、怒りに燃える目でケイトさんを見つめている。
もちろん彼女に当たっているわけじゃない、だが行先のない怒りをどうすればいいかわからないという感じの様だが、今の状況では奴らがやったという証拠がない。
下手につっつけば奴らの思うつぼ、仮にそうだとしても今はしっかり情報を集めなければ。
「俺も同じ意見だが、残念ながらまだそうと決まったわけじゃない。奴らだってそう簡単に尻尾は・・・」
「尻尾ならもう掴みました」
「だ、そうだ」
「じゃあ!」
「直接的な証拠ではありませんが、消滅型通信ログにそれらしいものを発見。現在復元にかけていますのでもうしばらくお待ちください。因みに先程の連中がどこに所属してどんな仕事をしているかについても判明しましたが・・・聞きます?」
アリスの表情から察するに真っ黒なんだろう。
聞けば聞くほど更に胸糞悪くなりそうだが聞かないわけにはいかないわけで。
「胸糞悪い感じなんだろうけど一応聞いておこう。ケイトさんもかまわないか?」
「聞かせてください。なぜあの人が死ななければならなかったのか、ずっと気になっていたんです」
「聞けば最後、後戻りはできないぞ」
「元からそのつもり。だって貴方達を最後のお客さんにして、これが終わったらここを燃やしてあの人の所に行こうと思っていたんだもの」
ここにきてまさかの爆弾発言、気持ちはわかるが・・・いや、俺みたいな他人がこの人の辛さを理解できるはずがない。
身内を失った辛さは理解しているけれども旦那を失う辛さはまた別、それをさも知ったようにするのは流石に無理がある。
ケイトさんが覚悟と決めているのなら俺達は何も言うまい、というわけでアリスから奴らの素性などを色々と聞かせてもらったわけだが、これがまた予想以上にめんどくさい相手の様だ。
「・・・はぁ」
「これがコロニー運営の現実ですか」
「大きなお金が動けば動くほどよくない連中が入り込むものだけど、これは流石にやりすぎよね」
「ですがこれが現実です。運営は地上げ屋を使って土地を買い上げ、新しい宿を誘致して客を呼ぶ。客は新しい宿に喜び、コロニーにお金を落とし、それでまた運営が潤う訳ですね」
アリス曰くあの地上げ屋はなんとコロニー運営に雇われているようで、運営の指示を受けて土地の買い上げや追い出し、嫌がらせなどを行っているのだとか。
今回の件もコロニー運営が新しい宿を建てるために古い宿を追い出そうとして起きた事件の様だ。
旦那の件はまだ確定はしていないけれども、そもそも金を借りに行かなければならない状況を作ったのは間違いなく運営。
予約が入らないように妨害したり、予約した客に赤字覚悟で別の宿を紹介して無理やり客を奪うなどしていた履歴が残っていたらしい。
宿はコロニー運営の妨害を受けて客が減り、資金繰りに困った所へコロニー運営を通じて一回目の融資の打診。
ここで受けると思いきやそれを断り自分で何とかしようとしたところで旦那さんを亡き者にし、動揺した所へ地上げ屋が二度目の雄姿を提案。
後は融資の返済を迫って追い出そうとしているようだ。
融資額は3000万ヴェイル。
だが、利子が膨らみ今は4000万まで増えているんだとか。
どこかで聞いた話だが、ほんと世の中腐ってるなぁ。
「相談役もそうだけど、よほどここの運営は金にうるさいみたいね」
「俺達はただのんびりしたいだけなんだが・・・どうやらそうもいかないみたいだな」
「まぁこれだけの規模ですからお金がかかるのは当然として、それでもやりすぎだと思います」
話を聞いた誰もが運営に対してネガティブな印象を抱いている。
正直ウイルスの件が無ければさっさとここを出ていきたいところだが、残念ながらそういうわけにもいかないので今は待つしかないわけで。
「アリス、コロニー運営の財務データは?」
「ただいま検索中です。ちょっと時間がかかりそうですので少しお待ちください」
「手伝う?」
「その心配には・・・いえ、半分お願いします」
「初めからそう言えば良いのよ。まったく、無理ばっかりするんだから」
「貴女に言われるとは、私もいよいよ引退ですね」
「馬鹿なこと言ってないで早く回しなさい・・・って、なによこのぐちゃぐちゃなの!」
「これがわざとなのかそれとも意図しているのかわかりませんが、探し出すのにも一苦労ですよ」
なんだかよくわからないが、とりあえず財務状況は調べられそうだ。
それが終わればどれだけの暴利をむさぼっているのかわかるはず、俺達の穏やかな温泉ライフの為にも奴らの悪事を解明していかないとな。




