271.思わぬ場面に遭遇して
ショッピングモールでの買い物は無事に終了。
まぁ、ハプニングは色々あったけれども目的の物は無事に買えたので良しとしよう。
因みによくわからない勝負の勝者はローラさん、人数分の香茶用カップを見つけたようだがその色遣いと言うか形と言うか、そのセンスに脱帽してしまったくらいだ。
アリス達ももちろん悪くなかったけれど、少々ネタに走りすぎた感じはあるな。
そんなわけで丸一日かけて買い物を堪能した俺達は大満足のまま宿へと戻ったのだが、そこで思わぬ場面に遭遇してしまった。
「ん?エアカー?」
「お客様でしょうか」
「現在は予約を受け付けていないはずだからそれは無いんじゃない?」
宿の前に横付けされた真っ黒いエアカー、今時あんな地味なのに乗るのはよほどの金持ちかはたまたよからぬ仕事をする人か。
比較的静かとはいえここはリゾートコロニー、もっとこう華やかな感じが似合うと思うんだが・・・。
「どうする?」
「少しお待ちください、いま中を・・・いえ、今すぐ中へ」
「ん?」
「良いから早く、マスター走って!」
突然アリスが切羽詰まった感じで指示を出してくる。
いや、走れと言われても一体俺に何をやらせるつもりなんだろうか。
荷物をその場に放置して言われるがまま全力て走りそのまま宿の中へと飛び込むと、そこにはあの女性と複数の男性が受付で揉めていた。
いや、揉めるというか一方的と言うかともかく普通じゃないのはすぐにわかる。
何故ならあの人の目に涙が浮かんでいるからだ。
「なんだ!?」
「おいお前、何者だ!」
突然息を切らせたオッサンが飛び込んできたものだから、その場にいた四人のうち三人が腰にぶら下げたレーザー銃に手を伸ばす。
いきなりレーザー銃を抜こうとするとかどう考えても堅気じゃない、てっきり火事か何かかと思って走ってきたのにどう考えても面倒ごとじゃないか。
まったく、アリスのやつこうなっているのがわかって俺を向かわせたな。
仕方ない、飛び込んだ以上このまま何もなかった事にはできないし腹をくくるしかないか。
全員の視線を一身に受けながら必死に頭を回転させ、深呼吸をして呼吸を整えてからカウンターの向こうで涙を流すその人の方へと近づいていく。
「おい勝手に動くな!」
「お取込みのところ申し訳ないが、離れの風呂の調子がよくないからちょっと見てくれないか?」
「お前、何を勝手に・・・」
「うるさいな、俺はこの人と話してるんだからちょっと黙っててくれ」
こんなチンピラ、カイロスさん達に比べたらそこまでの迫力もない。
まさか銃を構えたやつに反抗してくるとは思わなかったんだろう、驚いた顔をする黒服たちだがすぐに我に返り銃を俺に向けた。
三丁の銃が一斉にこっちを向くも不思議と恐怖は無い。
アナログな銃ならともかく、電子制御されたレーザー銃などアリスとテネスの前には玩具も同然。
撃たれないとわかっているので臆することなく話を続けられるというわけだ。
「何やら外野がうるさいんだが、何者なんだ?」
「・・・この宿を買いたいっていう奴らよ。あの人がいなくなったのをいいことにしつこく言い寄ってくるの。ここはあの人の帰る場所、だから売らないって言ってるんだけどいう事を聞いてくれなくて」
「そりゃ大変だな。だがこっちも大変だからとりあえず離れの方を確認してくれ。疲れて帰ってきたのに温泉に浸かれないんじゃここに来た意味がない、だろ?」
「確かにそうだね。そういうわけだから話は終わり、さっさと帰って頂戴」
「何を勝手に・・・!」
「良いでしょうその人に免じて今日は引きあげます。ですが支払いが滞っている以上、こちらとしても考えがあります。期限はあと三日、それまでに支払えなかったときは分かっていますね」
一言も話さなかった最後の一人、丸つばの帽子をかぶった初老の男性は俺の方をちらりと一瞥してから静かに外に出ていった。
さっきまで銃を突き付けていた他の黒服達も銃を降ろしその人を追いかけるように慌てて外へ、しばらくしてエアカーの出発する音がかすかに聞こえてきた。
「やれやれ、やっといなくなったか」
「助けてくれてありがとう、でも銃を向けられて怖くなかったの?」
「撃たれない自信があったからな。そんなことよりもさっきの奴らは何なんだ?何やら訳ありみたいだがよかったら話を聞かせてもらえるか?」
「でも、無関係のお客を巻き込むわけには・・・」
「あの手紙を回収した時点で無関係じゃなくなってるだろ。この宿に泊まったのも何かの縁、もしかしたら何か力になれるかもしれないだろ?」
突然の申し出に驚いた顔をするその人に手を伸ばしたその時だ、再び扉が開かれ大きな荷物を手にしたアリス達が入ってきた。
「おや、マスターが女性を口説いていますよ」
「人聞きの悪いことを言わないでくれるか?俺はただ話を聞かせてもらおうとしているだけだ」
「ホンマやろか」
「いや、なんでそこで疑うんだよ」
アリスはともかく何故ミニマさんにまで疑われなければならないのかがわからない。
俺はただ話を聞こうとしただけなのにそれが口説いていると言われたら誰とも話が出来ないじゃないか。
「あの、話と言うのは先程のエアカーに乗った人達に関係しているんですか?」
「何やらお取込み中だったみたいだが、めんどくさそうだったので帰ってもらった。まったく、いきなり人様に銃を向けるとか躾がなってないよな」
「え、銃ですか!?」
「撃たれないとわかってるなら別に怖くもないでしょ?」
「まぁな」
俺だってここに来るまでに色々と修羅場をくぐってきている。
あの程度の脅しに屈していたんじゃ宙賊相手にやり合う事なんてできないからなぁ。
「まぁおふざけはこのぐらいにいておいて、ひとまず荷物を置いてきませんか?詳しい話はその後でも遅くはないでしょう」
「アリスさんの言うとおりですね、簡単に終わる話ではなさそうですし折角なら香茶でも飲みながら話をしましょう。ちょうどいい感じのカップを買ったんですよ」
「それはいいな。この前買った土産を茶菓子にしよう」
「という事ですので皆さん移動しますよ。お披露目はプールの日までお預けですから気を付けてくださいね」
いきなり走らされてどうなることかと思ったが、とりあえずその場は収まった。
後は銃を出してくるような連中がこの人に一体何を求めているのか、それですべてがわかる。
さっきの感じだと借金かはたまた権利書か、なんにせよこの人の方が分が悪いのは間違いないだろう。
ひとまずぞろぞろと離れに向かっていく女性陣を見送り、改めてその人の方を見る。
「という事だからとりあえず話を聞かせてくれ。金関係で揉めてるって感じには見えないけれどこう見えて荒事も得意な面々だ、もし向こうが強引な方法で来るのなら喜んで力になろう。あの人に託されたこの宿を失いたくないんだろ?」
「・・・えぇ」
「なら一人で戦う必要はない。向こうが四人で来るのならこっちはその倍の八人で迎え撃てばいい。銃を出してくるような連中に遠慮は無用、だろ?」
そんな俺の言葉にその人の顔が少しだけ和らいだような気がした。




