270.きわどい物をいくつも見せられて
「これなんてどうでしょう」
「却下で」
「ではこれは?」
「それも却下」
「マスター、もう少しまともに選んでもらわないと困ります」
紐にしか見えない水着を服の上から当てたアリスが不満げな顔で抗議してくる。
昼食を終え二度目の買い物に出た俺達だったが、到着した水着売り場は想像以上にきわどい場所だった。
なんだろう、下着売り場の方がまだマシな気がする。
これは本当に水着なのか?
それならいっそなにも来ていないほうがすがすがしいと思うんだが、それはそれで問題あるしなぁ。
「まともにして欲しいのはこっちの方だ。公共の場で着る水着だぞ、なんで湯浴み着よりもきわどいんだよ」
「ですが、実際のこうやって市販されているものですから公共の場で耐えうるものだと思いますが?」
「その中でもきわどいのを選び過ぎなんだっての。まったく、もう少し布面積を増やせ」
「それならこういうのはどうですか?」
「そうそうローラさんが言うような・・・って、おい!」
このタイミングでローラさんが持ってきたのは、謎な紐がいくつも交差した水着。
下半身の程よい肉付きをカバーするパレオがあるとはいえその隙間から見える部分がなんとも扇情的な上に、胸を覆う部分は紐のせいで谷間が強調される感じで間違いなく男性の目をくぎ付けにすることだろう。
「似合いますか?」
「似合うかどうかで言えば似合う。色合いも濃紺で大人っぽいしローラさんの肌によく合うだろう。だがきわどすぎないか?」
「誘いたい人は一人だけですから、それ以外の人の目などどうでもいい話です」
「とはいえよからぬ奴らが寄って来ても面倒だからパレオは外さないでくれよ」
「水から上がった時に張り付く感じがお好きだなんて、トウマさんも大胆ですね」
「いやいや、そういうのじゃないから!」
くそ、まさかそんなトラップが仕掛けられているとは思わなかった。
陸にいる時は程よく足を隠してくれるので良い感じだが、確かに水にぬれるとぴったりするのでよりボディラインが強調されてしまう。
うーむ、それもまた乙なものだが・・・いやいや、そんな目で見たらまずいだろう。
ダメだ、このままだと延々こんなのを見せつけられる。
水着を体に当てつつ見せつけてくる二人から離れて別の売り場へ、この辺は比較的おとなしいワンピースタイプが置かれているようだ。
まぁその奥には競泳用っぽいきわどい物も置かれているけど、リゾートに来て流石にあれはないだろう。
っていうか全般的にきわどく見えるのは素肌の上に身につける水着からだろうか。
なんていうか下着よりもヤバげな感じに見えるんだが、これは俺の感覚がおかしいのか?
「あれ、キャプテンやんか。どうしたん?」
さてどうしたもんかと思っていると、後ろからやってきたミニマさんに声をかけられた。
彼女もまた水着を物色中、とはいえあの二人の様にきわどい物ではなく一般的な奴を探しているようだ。
「アリス達から逃げてきた。どうだ、気に入ったのはあったか?」
「本当はお姉様とお揃いにしたかったんやけど、正直今日ほど自分のスタイルの無さを恨んだことは無いで」
「普段から鍛えているから余計だろうな」
「それならって普通ので探してくれてるんやけど、でもあの奥やつが無茶苦茶似合ってたんや。うぅ、自分の腹肉が憎い」
「それは俺も同じだ。マジで35超えたら一気に来るからな、気をつけろよ」
「そういう怖いこと言うのやめてくれへんかなぁ」
「事実だから仕方ない」
俺と違ってミニマさんはまだまだ若いんだしそんなこと気にしなくていいと思うけど、女性は女性にしかわからない悩みがあるんだろう。
彼女はそのまま別の水着を探しに売り場を移動、流石に男一人でここにいるのはまずいのでさっさと移動しようと思っていたら、競泳用水着売り場付近のフィッティングルームからイブさんが顔を出しているのに気が付いた。
きょろきょろと辺りを見回していたイブさんだが、俺を見つけるなりパッと表情に花が咲く。
そして隙間から腕だけ出してこっちに来いと手招きしてくる。
嫌な予感しかしないが、見つかった以上行くしかない。
「トウマさん、意見を聞いてもいいですか?」
「俺でいいのか?ミニマさんじゃなくて?」
「彼女は何を着ても似合うしか言ってくれないので。個人的には似合うと思うんですけど折角なら男性の意見も聞きたくて」
「そういう事ならお安い御用・・・って、こっちもきわどいな」
「え、そうですか?」
「それ、食い込んでないんだよな」
「すこしは・・・でも可愛くないですか?」
フィッティングルームのカーテンが開き、その後ろから現れたのは競泳用水着を身に着けたイブさん。
全体的に白い印象ながら、ところどころに明るい花が散りばめられるように描かれていてイブさんの雰囲気によく合う感じだ。
だが、食い込みが中々にきわどく鼠径部を含めて肌が見えてしまっている。
くるりと回るとお尻周りの引き締まった感じがさらに際立っていた。
でも鍛えているからか不思議とエロい感じはあまりしない。
しっかし、なんでそろいもそろってそういうのを選ぶんだろうか。
というか、俺に見られてなんとも思わないのだろうか。
そりゃ船員と船長という明確な関係は存在するけれども・・・いや、これ以上は何も言うまい。
「可愛いと思うしよく似合う。とはいえ少し大胆じゃないか?」
「このぐらいの方が泳ぎやすいかなと思って。似合っているのならこれにしようと思います」
「俺が決めていいのか?」
「むしろ悩んでいたので決めてほしかったんです。折角ですし他のも見ますか?」
「いや、いい」
これ以上きわどいのを見せられるのは流石に困る。
というか俺だけ見たらミニマさんに何をされるかわからないので、とりあえず無難なところで納めておこう。
これで残りはテネスとリリットさんだけ、まぁこの二人はシンプルな感じにするだろうから俺が決める事もないはずだ。
まさか水着だけでここまでドギマギさせられるとは思わなかったが、本人たちがそれで喜ぶのであればなにもいうまい。
「あ、こんなところにいた」
「テネスか、自分はもう決めたのか?」
「二つに絞ったからどっちがいいか決めてもらおうと思ってたのよ」
「また俺が決めるのか。頼むから際どいのはやめてくれよ?」
「私がそんなの着ると思ってるの?」
「それもそうか」
「それはそれで傷つくんだけどまぁいいわ。こっちのやつとこっちだったらどっちがいいと思う?」
「そりゃこっち・・・ってなんだこれ」
「え!あ!違う!今のなし!」
デバイスを使った仮想試着をした画像を確認していたのだが、1枚目は無難な花柄ワンピース、2枚目はタンクトップにビキニっぽいのをつけたスポーティータイプ。
どちらも似合っていたが、せっかくならスポーティーなのも悪くない、そんなふうに思っていたところに3枚目が登場。
鮮やかな黄色のビキニを身につけたテネスがデバイス上で笑っていたように見えたんだが、一瞬のことで再度確認することは出来なかった。
ビキニと言いながらも覆う部分がかなり少ないマイクロビキニ、うーむ慎ましいスタイルだから逆に際立つというか際どいというか・・・。
「お前らもしかしてこれで競ってるのか?」
「今すぐ忘れなさい!なんならショックを与えて記憶野を焼いてもいいのよ!」
「俺を殺す気か!忘れた!さっぱり忘れた!」
「嘘を言うなぁぁぁぁ!」
なぜ俺がテネスの不注意で脳を焼かれなければならないのか。
激高するテネスに追いかけられながら、どうやってこの場から逃げられるのか必死に知恵を巡らせるのだった。




