267.温泉用の水着を手配して
「はぁ、気持ちよかった」
「喜んでいただけたようで何よりです」
アリスに連れてきてもらった足湯は想像以上に気持ちがよかった。
足元はポッカポカ、そのあと運ばれて来た食事とデザートがまた格別で結局時間いっぱいまで居座ってしまった。
年を取るとこういうのが好きになるというけれど、その気持ちがわかった気がする。
昔は暑くなったらすぐに出て終わり!って言うのがほとんどだったけれど、最近ではゆっくりじっくり入るのも悪くないと思っている。
もちろんシャワーだけで済ませることも多いけれど、ソルアレスが大きくなったことで湯船も拡充され各自交替で入れるようになったのはりがたい。
再生機のおかげで常に新鮮なお湯に浸かれるので、あとは時間さえ間違えなければ問題は起きないはずだ。
前に俺の時間にローラさんが入ってきたときはどうしようかと思ったが、あれは本気で間違えたんだろうか。
鍵をかけてない自分が悪いんだけど・・・まぁ、未遂だったので気にしないでおこう。
そうしよう。
「で、次はどこに連れて行ってくれるんだ?」
「もちろん良い所です、期待してください」
「ここがよかっただけに期待したい所なんだが、素直にできないのはなんでだろうなぁ」
「なんででしょうねぇ」
「自分の心に聞いてみたらどうだ?」
「ヒューマノイドに心はありませんが・・・。データベースにアクセスしてみましたが答えは見つかりませんでした」
何が『見つかりませんでした』だよ、今までのこと考えたらすぐに答えが出るじゃないか。
そんなやり取りをしながら高速エスカレーターを使用して隣のコロニーへ。
透明なチューブの向こうは真空の世界、にも拘らず何の恐怖もなく移動できるのは本当にありがたいことだ。
大昔はわざわざ宇宙服を着て移動していたっていうんだから不便なもんだよなぁ。
「ここか?」
「はい、ここです」
「・・・帰る」
「何故です?一緒に入るという約束でしたよね」
「約束はしていない。っていうか、それを買うのはみんなと一緒だろ?」
「それは水着ですよね?ショッピングモールに行って買うのは明日の話、ここは普通の商用コロニーですから問題ないはずです」
やってきたのは小さな商店が並ぶコロニーの一角、古ぼけた店の周りにはヒューマノイド用のどきつい衣装などが並べられ、思わず目をそらしたくなってしまう。
いや、電源も入っていない休止状態のマネキン扱いなので問題ないと言えば問題ない、でも流石にこれを表に出してってのは商売上どうかと思うけどなぁ。
「今日買いに来たのはヒューマノイド用の温泉着です。普通の水やお湯と違って温泉には特殊な成分が多く通常の水着では万が一という事がありますから、入浴する場合にはこちらを着用することが義務付けられています。個人的には無くてもかまわないのですが、もしもという事がありますので」
「確かに、もしもでウイルスに感染しているしな」
「それは言わないお約束です。なんにせよ、これを着ないことには温泉に浸かることはできません。ですが、折角着るのですから普通とは違う物が欲しいと思いませんか?」
「思わんなぁ」
「まったく、これだからマスターは」
すぐに蔑んでくるアリスを無視しつつ、改めて飾られている衣装に目を向ける。
どこからどう見ても下着、いやそれ以上に卑猥なように見えるのは気のせいだろうか。
胸の部分なんて覆うはずの部分が半分以上ないし、下も布と言うか紐?
それでいて水が入らないようにフィルムというか透明な膜のようなものでボディを覆うらしい。
それがまたぴったりとしていてなんとも扇情的な感じを醸し出している。
そんなエロい奴だけとおもいきや、何かのコスチューム的な物もあるしボディースーツ的な物もある。
これを好きな人もいる・・・のか?
いや、世の中には様々な性癖があるからそれに関しては何も言うまい。
「マスター好みの物もありますよ」
「ん?」
「こういうピッタリしたのお好きですよね?」
「・・・俺の性癖をオープンにするのはやめていただけるか?」
「オープンにはしておりません、聞いているだけです」
「黙秘する」
「まぁいいでしょう。奥もありますので中に入りますよ」
アリスが指さしたのはボディラインの出るような衣装、完全にピッタリと言う感じではないけれど程よく見えるのがまたいい感じ・・・ってそうじゃない。
さっさと店の中に入るアリスを追いかけると、中も・・・中々な感じだった。
「いらっしゃい」
「予約していたキャプテントウマです」
「あぁ聞いているよ、ヒューマノイド用の湯浴み着が欲しいんだって?」
「はい。私用の物をいくつかと、もう少し背の高い子用のをいくつかお願いします」
「ふむ、君が着るのかい?」
「はい。マスターの好みに合わせるのもいいのですが、やはり人様の前にも出ますので」
店の奥から顔を出したのは、まん丸いデータグラスデバイスを見につけた若い男性。
そいつはアリスを品定めするように見ると、二度大きく頷いた。
っていうか俺の名前で予約していたのかよ。
「その心がけはいいと思うよ。それじゃ採寸から始めるけど・・・ぶっちゃけ予算はどのぐらいかな?」
「そうですね、一着3万ヴェイルが相場でしょうか」
「一般的な物はそれぐらい。素材にこだわり出すと3~5万。デザインを完璧にオーダーすると十万ヴェイルはするかな」
「十万!?」
「それぐらい普通ですよ、マスター。ヒューマノイド用の湯浴み着は水が入らないように特別な素材で作られますし、この工房の物はより頑丈な素材で作られていますので安心して使用できます。それとも、外の適当な物を買って破れる方がよろしいですか?」
「そうはいってないが・・・。まぁいい、好きにしろ」
アリスが壊れる事を考えたら多少高くても金を惜しむものではない。
元々アリスがここにきて温泉に入りたいって言いだしたんだ、その願いをかなえるのもまた主人の仕事だろう。
そもそもの話はウイルスの除去、これで捗るとは思えないが、まぁいいか。
「それじゃあまずは採寸から、それから素材を決めてからのデザインだね」
「デザインはお任せします」
「いいのかい?」
「あくまでも外用ですので。マスター用は別で購入します」
「それはもう一人の分もかい?」
「そうですね、見た目はこのような感じです」
「ふむふむ、わかった。二時間で出来上がるからそれまで他所で時間を潰してきてくれるかな」
「かしこまりました。では、さっそく採寸をお願いします」
なんだかよくわからないがテネスの分も買う事になっているらしい。
そりゃアリスが入るのならテネスの分もいるだろうけど、服の好みとかもあるから本人なしで大丈夫だろうか。
そんな心配をよそにアリスはスキップをするかのような軽い足取りで店主と共に店の奥へと向かってしまった。
店の中に一人残され、致し方なく他の衣装を見て回る。
温泉に入るのにいったい何故ドレスを着る必要があるのか。
こっちは分厚いニット、確かにアリスに似合いそうな気もするがそもそも風呂で着るものではない。
でもなぁ、こっちのタイツはなかなか捨てがたいしなぁ。
「随分と真剣に見ていますね」
「ん?もう終わったのか?」
「もうと言いますが、15分ほど経ってますよ」
「マジか」
そんなことを考えていると、あっという間に時間が経っていたらしい。
まさか15分もこれを見ていたとは・・・。
「そんなに気に入ったのでしたら一緒に買いましょうか?」
「別にいい。それよりも決まったのか?」
「はい、良い物を作ってもらえそうです」
「それじゃあ出来上がりまで少し待っていてくれるかな」
「2時間か・・・次はどこに行く?」
「もちろん次も用意していますのでご安心を」
どうやら買い物はこれだけでは終わらないようだ。
アリスによるコロニーツアー第3弾、果たして次はどこに連れていかれるのやら。




