266.コロニー内を散策して
「「「「いってきま~す」」」」
翌日。
久々にゆっくりとした朝を迎え、眠たい目をこすりながら中央のリビングへと向かうとちょうどイブさん達が出発するところだった。
昨夜は楽しそうにコロニーについて打ち合わせをしていたので、どこかに行くんだろう。
別に保護者でもないので彼女達がどこに移行が俺の知るところではない、いい大人なんだから好きに楽しめばいいだろう。
一応ショッピングモールとプール、それと動物園は全員で行くことになっているのでそこ以外の場所に行くはずだ。
「きをつけてな」
「あの、いってきます」
「リリットさんも気をつけろよ。色々と迷惑をかけると思うがテネスが一緒だから困った時は彼女に聞くといい、あいつらをよろしくな」
「はい!」
元気いっぱいに返事をして彼女達を追いかけるようにリリットさんが離れを後にする。
途端に静かになる部屋、やれやれ飲み物を飲んだらもうひと眠りとしゃれこみますかね。
「おや、マスターはいかなかったんですか?」
「あの集団に俺が付いて行ってどうするんだよ」
「てっきりお支払いしてあげるのかと」
「俺は財布じゃないっての。買い物はまた別の日に行くんだし、俺みたいなオッサンがついていくよりかは女性同士の方が盛り上がるだろ。なんだかんだあの三人は仲いいし、リリットさんもテネスがいれば問題ないはずだ」
「それで、マスターは何を?」
「二度寝」
水を流し込み、さぁ二度寝をと思ったタイミングでアリスが部屋から出てきた。
いつもはキッチリとした服で過ごすことの多い彼女だが、ここではラフ・・・っていうか温泉でよく見るような服を着ている。
ホロ映像で見た感じでは、ユカタとかいう温泉地独特の衣装だったはずだ。
緩やかな服をひもで止めるだけのシンプルな感じ、緩むと色々大変なことになりそうだが温泉を巡るときはほとんどの人がこれを着て出歩くらしい。
しかも下はすぐ下着、もしくは何もつけてない人もいるんだとか。
うーむ、大丈夫なのか逆に不安になってくるな。
「日の高い時間の二度寝は最高だとよく聞きますが、そんなにいいものなのですか?」
「若い頃は最高だと思っていたが、ぶっちゃけ最近ではそうでもないな」
「にもかかわらず二度寝を?」
「明るいこの時間に寝ているという事実を満喫するのがいいんだよ。まぁ、暇になったら外出するつもりだけど・・・いや、誰もいないしそこの風呂に入るのもいいな」
そうだよ、折角露天風呂付の部屋なんだから誰もいないうちにそれを堪能するのも・・・。
「どうぞ、私の事は気にしないでください」
「いや、気にするだろ」
「そうですか?今はセクサロイドの機能を失ったただのヒューマノイドですよ?それに見られたところで何かが減るわけではありませんしいいじゃありませんか」
「それは普通男が言うやつじゃないか?」
「気のせいです」
男の・・・っていうかオッサンの裸を見て何が楽しいんだろうか。
見られるだけじゃ何も減らないってよく言うけれど、実際はメンタルが削れているので減っているのは間違いない。
それでもしつこく言ってくるので一度部屋に戻ったものの、目が冴えてしまったせいか二度寝することが出来ず渋々風呂に入ろと思って部屋を出たらアリスが露天風呂の前でスタンバイしていた。
てっきり彼女が入ると思ったのだがどうやらそういうわけではないらしい。
後ろから蹴飛ばすことも考えたけれど、それで故障されても困るのでグッと我慢することにした。
「別に気にされなくてもよかったのに」
「お前が気にしなくてもが気にするっての。っていうか外出して大丈夫なのか?」
「マスター一人では心配ですから」
「俺は子供かっての」
「大きな子供のようなものです。あ、そこを左へ」
「了解」
二度寝も出来ず、風呂にも入れずとなれば後は外出するしかすることがない。
ベッドの上でゴロゴロしながらホロムービーを見ることも最高なのに、それをせずにアテもなく外出するなんてこの辺が貧乏性なんだろうなぁ。
ここに来たのはウイルス除去の為、ぶっちゃけここに来たから除去できるとは思っていないけど少なくともゆっくりとした時間を確保することはできる。
にも拘らず、こうして一緒に外出しているのは何故なんだろうか。
「で、これはどこに行こうとしているんだ?」
「特にここというわけではありませんが、折角ですのでコロニー内を散策しようかと」
「ふむ、それは悪くない考えだが・・・このコロニーで見るものはあまりないんじゃないか?」
「そうでもありませんよ。買い物する場所もありますし、美味しいお菓子を出してくれるお店もあるそうです」
「ほぉ」
「元々派手なコロニーではありませんが、ゆったりとした時間を過ごしたい客はここを利用するようですね・・・と、見えてきました」
アリスが案内してくれたのは一軒の家。
どこからどう見ても民家にしか見えないのだが、よく見ると足湯と書かれた札が飾ってある。
足湯はたしか、足首までお湯につかる奴だったと思うけれども・・・正直それで気持ちいいんだろうか。
宿と同じく手動の引き戸を開け中に入るとふんわりと不思議な香が鼻をくすぐる。
何だろうこの匂い、香茶ではなさそうだが煙のようなものから香っている感じがする。
ついつい夢中になって香りを嗅いでいると、店の奥から俺と同い年ぐらいの女性が出てきた。
先程の浴衣をもっとかっちりと着こなすとこんな風になるんだろうか、柄も綺麗だし如何にも温泉!という雰囲気が出ている。
「いらっしゃいませ、当店は初めてですか?」
「はい」
「ありがとうございます。当店は足湯に浸かりながら食事を楽しんでいただけるお店となっています、こちらがメニューになりますが如何しましょうか」
「マスターお腹は空いていますか?」
「まぁそれなりに」
「でしたらこちらのAコースをお願いします。食事はすぐで、デザートもつけてください」
「畏まりました。ではどうぞこちらへ」
女性の後ろをついていくと小部屋に通された。
個室のような感じではなく左右の衝立でプライベート空間を維持、正面は吹き抜けになっていて奥には先程の足湯?が流れている。
その手前には座るところがあり、ここに座りながら足湯を堪能しつつ食事を楽しむというのがこの店のコンセプトの様だ。
「五分後にまた参りますので、それまでごゆるりとお楽しみください」
先程の女性が出ていくと、アリスは躊躇することなく靴を脱ぎ椅子に座って足湯に浸かる。
それをまねするように俺も靴を脱いでから彼女の横に座った。
「おぉ!いい感じにあったかいぞ」
「水温は42度、少し高めですが足だけでしたらこれぐらいの方がいいのでしょう。因みに30分つかると全身の血行が良くなり、疲れが取れるそうです」
「確かに風呂で30分は疲れてしまうが、これなら何時間でもつかっていられそうだ」
全身で温泉に入ってしまうとついついのぼせてしまったりしそうなものだが、足だけならその心配もないし、それでいて体中が温かくなるのを感じる。
前言撤回、足湯は・・・最高だ。
しばらくして先程の女性が飲み物を手に戻ってきた。
「うちの足湯は血行促進の他にも体力回復にも効果があります。美味しい物を食べてしっかり温まり、体の疲れを癒してください。ではまた後で参ります、どうぞごゆっくり」
そして説明をするとすぐに出て行ってしまう。
なんとも忙しそうな感じ、それだけ人気があるという事なのだろう。
まさかの一件目からこのクオリティ、この感じだと食事の方も期待できるだろう。
果たして次は何を見せてもらえるのだろうか。
そんなことを考えながらしばし足湯を満喫するんだった。




