268.面白い物を買付けて
「ほぉ、ここは土産物が多いのか」
「折角来たわけですし、まずはどんなものがあるか見て回るのも乙なものかと」
「土産なんだし来て早々見るものじゃないと勝手に思い込んでいたが、誰に土産を渡すんだって話だよなぁ」
「自分達では?」
「まぁ確かに?」
土産とは本来友人などに渡すもの、でも放浪の旅をしている俺達にとって渡す相手に会うことはまずないことだ。
となるとアリスの言うように自分達に渡すのが購入する言い訳になるわけだが・・・。
折角だし今日の夜に食べるお菓子でも買って帰るか。
「マスター、あのお饅頭が美味しいそうです」
「お、いいな」
「マスター、あっちで卵がゆで上がっているみたいですよ」
「卵?」
「なんでもマグマの熱で温泉を沸騰させているのだとか」
「・・・ここまで熱が来るのか?」
「それは言わないお約束ですよ」
いや、それは誇大広告と言うか偽装広告と言うか・・・まぁ命に係わるわけじゃないしいいんだけどさぁ。
そんな感じで土産屋を物色してるとあっという間に両手がパンパンになってしまった。
うーむ、まさかこんなに買う事になるとはなぁ。
これも全部アリスがよさげな物を勧めてくるせいだが、俺の好みを知り尽くしているだけにそれにあらがえない自分が悔しい。
「おやおや、随分と買いなさったなぁ。おや?相談役の姿が見えないようだけど・・・」
その時だ、突然後ろから年配の男性に話しかけられた。
親切で話しかけてく来たような感じだが・・・気を抜いてはいけない。
「その方でしたら今は仲間と一緒に行動してもらっています。私達は別行動なので」
「おや、そうだったのかい。わたしゃてっきり仕事をしていないのかと思ったよ」
「なんでそう思うんだ?」
「最近の若い子はすぐにさぼろうとするからねぇ。こんなにたくさん買い物してくれるお客様なのに・・・おっと、年を取ると愚痴が増えていけない。荷物が大変なら宿に送ることもできるからいつでもいうんだよ」
「アドバイスに感謝する。アリス、いくぞ」
「畏まりました」
このぐらいならまだ持てるし、後で湯浴み着を取りに戻らないといけないのでここで時間を取られている場合じゃない。
その男性から急ぎ距離を取り、近くのベンチに腰掛ける。
「あの爺さんもコロニー関係者か?」
「インプラントデータを見る限りではそのようです」
「これで、相談役がいないとか言うと変なことになるわけだな」
「恐らくは」
「俺達からすれば親切に聞こえるが相談役からすれば密告になる、ほんと嫌なシステムだ」
「我々がここで買い物をしていなかったら、それはそれで言われるんだと思いますよ」
「つまり今の買い物は?」
「いえ、それはマスターが好きそうだと思っただけです」
リリットさんの為とかそういうのかと思ったが、こいつがそんなことするはずなかったな。
その後もアリス相談役に言われるがままあれやこれやと土産物を買い求め、予定の時間を少し遅れて湯浴み着を回収しに店へと戻った。
「たった二時間の間に随分と買ったね」
「面白そうなものが多かったんでな。そこで買ったんだが、食うか?」
「いいのかい?」
「急ぎで作ってもらったしな」
「それじゃあ遠慮なく」
さっき買った偽装温泉卵を食べつつ出来上がった商品の説明を聞く。
今回作ったのはアリス用二着とテネス用二着、一つは一般的な物でひとのいるところで使っても問題なし。
もう一つはアリスチョイスによる中々にきわどいやつだ。
テネスのは何かのコスチュームだろうか、可愛らしいフリルがたくさんついているけれどもアリスのはなんていうか・・・紐だな。
「マジでこれを着て入るのか?」
「安心してください、履いてますよ」
「いや、履くとかいうレベルじゃないだろ。そりゃ風呂は裸の付き合いだなんていうホロムービーもあるけどさぁ」
「ならいいじゃありませんか」
そりゃあの狭い船に乗っていれば偶然アリスの裸を見てしまうこともあったけれども、裸同士で風呂に入るなんてことは一度もない。
幸いあのウイルスのせいでセクサロイドとしての機能は停止しているようだけど、それでも見た目的な・・・って今更か。
「それじゃあ支払いは四枚合わせて18万ヴェイルになるんだけど・・・そういえば相談役は?」
「訳あって別行動だ。変な事を聞くが、これも相談役の成績になるのか?」
「んー、一応うちも報告を義務付けられているからつけろと言われたら付けるけど・・・、あれって後でコロニーから請求されるんだよね」
「何をですか?」
「相談役に支払う報酬の一割は店負担なんだ。そりゃ彼らがお客をつれてきてくれたからってのもあるけど、今回は全く関係ないわけだし・・・」
ふむ、つまりバックマージンを支払わなければならないという事か。
今回みたいに予約できた客であればまるまる店の儲けになるはずだけど、ここでそれをお願いすると関係なく収入が減る、そりゃやりたくないわけだ。
「その分は俺達が負担するから報告してくれないか?」
「え、君達が?」
「色々あるんだよ」
「うちはそれでも構わないけど、随分と気に入っているんだね」
「そういう事にしておいてくれ」
「それじゃあ全部で20万ヴェイルだよ」
「私が支払いますので端末をお願いします」
なるほど、さっき土産物屋で買い物した時に随分と機嫌がよさそうだったのは相談役に支払う分を引かれなくて済むからだったのか。
てっきり大量に購入しているからだと思っていたけれど、なんだろうコロニーの闇を感じるなぁ。
「さて、買う物も買ったしそろそろ戻るか」
「そうですね、皆さんもそろそろ戻ってくるとテネスから連絡がありました」
「向こうも色々買ってるんだろうなぁ」
「聞きたいですか?」
「いや、いい。っていうか俺達だけで彼女の学費分は稼げているんじゃないか?」
「相談役への支払いと言う名の徴収金が購入金額の一割、ですが実際に彼女達の手元に残るのはその半分と言われています。因みに購入分にも税金が課せられておりますので・・・言いたいことは分かりますね」
「ぼったくりかよ」
「それが現実です。まぁその分手厚いサービスを受けられるわけですから、何も知らなければとても楽しい場所でしょうね」
「ただし金がある人に限るってやつか」
購入金額に上乗せさせられているとなれば、気づかないうちに多く支払っていることになる。
加えて相談役にのせられてあれやこれやと買わされていたら・・・まぁ、ここに来る時点である程度の所得はあるんだろうけどそれでもお金を気にしながら温泉に入るのとそうでないのとは違うからなぁ。
これもまたコロニーの闇ってやつか。
そんなことを思いながら宿へと戻ると、ちょうど他のメンバーも戻ってきた所の様だ。
「わ!すごい量ですね!」
「アリスに言われるがまま買ってたらこんなことになった。しばらくは日持ちするものばかりだし、皆で色々食べ比べてみよう」
「ちょうどコロニーのお土産ランキングの話をしていたんです。さすがアリスさん、トップ5は全て制覇済みですね」
「お褒めにあずかり光栄です」
なるほど、こうやって褒められるために俺にあれこれ買わせたと。
まぁどれも美味しかったから別にいいんだけどさぁ。
っと、今のうちにアレを渡しておくか。
「それと、テネス」
「え、私?」
「皆で風呂に入るなら湯浴み着が必要だろ。買っておいたから後で確認してくれ。誤解のないように先に行っておくが、まともな方が俺。もう一つはアリスのチョイスだ、もう一度言うが俺じゃない」
「わかった、わかったからそんなに念押ししなくても大丈夫よ」
「そんなに言うなんてむしろ気になりますね」
「何を貰ったんですか?」
「俺は疲れたから部屋に戻る、飯の時間になったら起こしてくれ」
あれを目の前で広げられるのは流石にきつい。
後ろで聞こえる女性陣の黄色い声を聴きながら、買い物の疲れを取るべく自室のベッドに倒れこんだのだった。




