264.とりあえず部屋まで連れて帰って
「待たせたな、6人分で3万ヴェイルだ・・・って、どうしたそんなに泣いて!」
しばらくしてやっと彼女が泣き止んだ頃、扉が開き大量の荷物を手にした主人が部屋にやってきた。
が、目の前で泣くリリットさんを見て思わず大きな声になる。
ヤバイ、このままじゃ俺が泣かせたみたいになってしまう。
折角のんびりしに来たのに速攻でコロニーの人間に目を付けられるとか、そんなめんどくさい事態だけは避けなければ。
「ごめんなさい、初仕事でこんなによくしてもらえたのが嬉しくて・・・」
「そうかそうか。よかったなぁ、良い人に恵まれて」
「それが一週間分か?随分と少ないように見えるが」
「このコロニーじゃ上げ膳据え膳が基本だろ?あまり準備した所で余るのがおち、もし足りなくなったらまた買いにくればいい」
「それもそうか。それじゃあ商品の明細は彼女に転送しておいてくれ。テネス、支払いを頼む」
「りょうか~い」
リリットさんの機転のおかげで何とかこの場は収まった。
危なく俺が新人の女の子を泣かせたヤバイ客と言う烙印を押される所だったが、最悪の事態は回避できたようだ。
それよりも気になるのは手配してもらった買い物の高さ。
荷物の割に値段が高いように見えるけれども、おそらくそれも運営によってコントロールされているんだろう。
ここはリゾートコロニーと言う皮を被った搾取コロニー、いかに宿泊客から金を巻き上げるかを考えて運営されている。
もちろんここの主人もその一味。
いや、ここだけでなくすべての店でと考えた方がいいのかもしれない。
そしてリリットさんのような世話役はそれに巻き込まれ、善意と良心そしてコロニー運営との板挟みに合い心を病んでいくのだろう。
まぁ、金を稼ぐことが大好きで頑張っている!っていう子もいるんだろうけど、リリットさんのように学費を稼ぎに来ているだけの子からすればこのシステムは非常にストレスになるだろうなぁ。
やりがい搾取と言うか、騙しと言うか。
あぁ、のんびりしたかっただけなのに初日からこんなブラックな世界を知りたくなかったなぁ。
「まいどどうも!」
とりあえず目的は達したのでさっさと宿に戻るとしよう。
本当はここで彼女と別れてもよかったんだが、あんな話を聞いてそのまま帰らせるというのは酷というものだろう。
じゃあどうするんだよ、と聞かれた所で答えは出ないがとりあえず宿まで一緒に帰ることにした。
最初はリリットさんが全て持つつもりでいたみたいだけど、少ないとはいえ六人分をあの小さな体に持たせるのは不可能に近いので、横から奪うようにして荷物を回収する。
「あの、やっぱり私持ちます!」
「それ以上持って荷物が痛んでも困る。テネス、ルートは?」
「今やってるからちょっと待ちなさい・・・っと、まっすぐ行くと別の人がいるからこっちを経由しましょ。監視カメラはハッキング済み、っていうかアイツが先回りしているみたいね」
「アリスが?」
「アンタがこれから何をするかお見通しってことよ。全く、ここがどんな場所かわかってるなら最初から言いなさいよね」
「それは俺も同意見だ。まぁいい、とりあえず宿に戻ろう」
テネスの言うようにアリスの事だからこの惑星のからくりとかも理解したうえで、ここを選んだんだろう。
あくまでも俺達の目的は旅の疲れを癒す事、そこに相談役の役目や苦労など関係ない。
俺達が・・・いや、俺がゆっくりできればそれでいいと思っているんだろうなぁ。
監視カメラをハッキングしているのもリリットさんが運営に怒られないようにするためではなく、俺が動きやすいようにするためだ。
路地を抜け、域に通ったのと違うルートで無事に宿へと到着。
さっきの話を聞いていなかったらここで荷物を回収して彼女にはお引き取りいただくところなのだが、流石にこのまま放りだすこともできないのでそのまま部屋まで来てもらうことにした。
扉を開きカウンターの方を見るも、女主人の姿は無い。
まぁ旦那を無くしてすぐだ、今はそっとしておこう。
「ただいま」
「お帰りなさいませ!って、あれ?リリットさん?」
「どうしてここに?」
「理由は後で説明するが、とりあえず訳あってここまで来てもらった。リリットさんとりあえず荷物は机の上においてくれ」
「わかりました」
部屋に戻るとリビング代わりの部屋にアリス以外の三人が勢揃いしていた。
机の上にはコロニーの資料、おそらくどこに行くか話し合っていたんだろう。
「アリスは?」
「アリスさんやったら自室にこもってるで」
「自室?」
「トウマさんの隣の部屋です。ごめんなさい、勝手に部屋割りしちゃいました」
「それはまぁいいんだが・・・とりあえず買ってきた荷物をみんなで分けてくれ。一週間分ってことで買って来たんだが足りないようなら追加も検討する」
「わかりました。わ!美味しそうなお菓子がありますよ!」
早速持ち帰った荷物を机に広げて盛り上がる女性陣、なぜリリットさんがここにいるのか聞きたいはずなのにそれをあえてスルーできるのが彼女達の凄い所だ。
今は純粋にこのコロニーをどう回るかで盛り上がっているけれど、現実を知るとまた変わるんだろうなぁ。
とりあえず彼女の世話を任せつつアリス用の部屋に移動する。
ノックを二回するも返事は無い、三回目のノックをしてから返事を待たず中へと入った。
「女性の部屋に勝手に入り込むなんてマナー違反ですよマスター」
「わかって返事をしないやつに言われたくないね」
「別に無視していたわけじゃありませんよ?ちょっと調べ物をしていただけです」
「相談役についてだろ?」
「その通り、さすが私のマスターです」
何故かドヤ顔をするアリスのおでこをデコピンして、とりあえず空いている椅子に座る。
アリスが座っているのはベットの端の方、本人的には横に座ってほしかったんだろうけどそうは問屋が卸さないわけで。
「で、どこまで知ってた?」
「なんのことですか?」
「このコロニーについてだよ。俺達みたいな善良な客を搾取するつもりなのは分かってたんだろ?」
「マスターが善良かどうかはさておき、もちろん知ったうえで選びました。旅の疲れを癒すのに温泉は必須、マスターが行きたがっていたのは理解していましたし皆様にも楽しんでいただけると確信してのチョイスです。まぁ相談役という面倒なシステムを採用してはいますけどそれを利用しなければいいだけですし、宿だってその影響を受けていない場所をチョイスしました。まぁ、それが例の遺体の奥様とは思いもしませんでしたが、結果としていい部屋に泊まれたわけですし問題ありませんよね?」
「確かに俺達に問題はない。だが、相談役がどうなるかとか考えなかったのか?」
「赤の他人について考えた所でマスターのプラスにはなりませんから。もっとも、マスターの事ですからこうやって連れて帰るだろうなと思い部屋数も増やしておいたわけですが」
「・・・そういう事か」
最初この離れに来た時に何で一人分部屋が多いのか不思議だったんだが、まさかリリットさんを受け入れる前提で話が進んでいるとは思わなかった。
俺の事はお見通しと言う感じのドヤ顔をするアリス、デコピンしてやりたい所なんだが距離が遠いので今は我慢しておこう。
今はな。
「ご理解いただけたようで何よりです」
「で、俺達が不在の間に何かわかったか?」
「この相談役システム、そしてこのコロニー運営の考え方が腐っているという事は分かりました」
「で?」
「結論から申しまして運営は無視してよろしいかと。リリット様自身も運営に雇われているだけで借金をしているわけではありませんし、単純にここで稼げるであろう金額を渡してしまえばコロニーを出ても契約上問題はありません。まぁ、コロニー滞在中は相談役を通したほうが色々と都合がいいのでひとまず彼女には今のまま過ごしていただき、運営からの連絡はこちらで全て受け持ちましょう」
「そんなことして大丈夫なのか?」
「何度も言いますが借金をしているわけではありませんので運営に怒られた所で問題はありません。自分のやり方でやった結果稼げなかった、ただそれだけです。それでもうるさく連絡はしてくるでしょうから、こちらでそれらしい文面を送っておきます。そうすることで彼女がこれ以上病むことは無いでしょうし、一緒に行動してもらいながら少しずつ元気になっていただければ連れてきたマスター自身も満足するはずです。せっかくここに来たんです、好きなように遊んでコロニーを満喫しようじゃありませんか」
確かに金稼ぎに来ただけで借金を返済しているわけじゃない。
稼ごうとした結果駄目でした、だから帰りますでも問題は無いわけか。
俺達が運営に振り回される必要はない、むしろこっちが運営を利用してコロニーを楽しんでやろうというアリスの大胆な提案に思わず唸らされてしまった。




