263.突然横から話しかけられて
ひとまずやらなければならない仕事はこれにて終了。
まぁ、宿に戻ったらまたあの人と顔を合わすことになるんだろうけど、少なくとも手紙と指輪を渡すという遺体の主との約束は果たした。
残された者がこの先何をするかはわからないけれど・・・まぁ、それは俺の知ったこっちゃない。
逃げるように宿を後にして大きく息を吐く。
「はぁ、終わった終わった」
「別にアンタがそこまで思いつめる必要はないんじゃないの?」
「もちろんわかってるんだが、年を取ると色々と考えるようになるんだよ」
「人間って不便ね」
「そういう生き物なのさ。さて、それじゃあ一週間分の必需品を買いに行くか」
「それなら向こうにお店があるみたいよ。本当は別コロニーに大きなショッピングモールがあるみたいだけど、日用品程度ならそこでいいんじゃない?」
「そうだな、上等なものが欲しいわけじゃないし適当に買って帰るとしよう」
折角来たからにはそういうショッピングモールも見てみたいけど、ここに来た一番の目的は温泉と休息。
まずはそれを達成するために必要な物を買い揃えるとしよう。
最初に来た道を戻り途中から大通りへ、人通りはまばらながらも大通りと言うだけあってそれなりに店はあるようだ。
飲食店に雑貨屋、お土産なんかも置いてある。
いいねぇいいねぇ、こういう所をのんびり歩くのこそ温泉の醍醐味。
まぁ来たことは無いけれど何をするかは色々と予習済みだ。
さて、まずは簡単な物を買って・・・。
「あーーーー!!」
「ん?」
「なんでお買い物してるんですか!アレだけ呼んでくださいって言ったじゃないですかぁ!」
さぁ近くの店に、と思ったその時だ。
突然横の路地から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ゆっくりそちらを見るも誰もいない・・・じゃない、視線を落とすとそこにはリリットさんの姿があった。
「貴女、なんでここに?」
「それは皆さんから呼ばれるのを待ってたんです。会社からも、直ぐに行ける場所で待機しておけって、そしたらお二人の姿が見えたんですよ。私言いましたよね、遠慮しないで呼んでくださいって!」
「そうなんだが、自分で出来る事は自分でしようと思ってな」
「駄目です!皆さんはゆっくりしに来たんですから、そういう事は世話役に任せてくれたらいいんです!お買い物ですね?私が買ってきますからお二人は宿で休んでいてください!」
「休んでって言われてもなぁ」
何を買いに来たかも伝えていないのに、一体彼女は何を買うつもりなんだろうか。
鬼の形相とまではいわないけれど買い物に出てこんなに怒られるとは思っていなかった。
これではまるで買い物に出したくないみたいに見えてしまう、っていうかもしかして通りに人がいないのもそれが理由なのか?
「ねぇ、何をそんなに怯えてるの?」
「お、怯えてなんてないですよ?」
「まるで仕事・・・違うわね、会社を怖がってるみたい。もしかして私達を世話しないと何か罰則でもあるのかしら?」
「それは・・・」
「ふむ、とりあえずここじゃ目立つし店に入ろう。買い物に付き合ってもらった、っていう体なら問題ないんだろ?」
ふと反対側の路地から誰かがこちらを見ているのに気が付いた。
俺の視線に気づきテネスも何かを察したんだろう、とりあえず目線で調べるように合図を出すと小さく頷く。
リリットさんは必死に取り繕っているけれど一緒に買い物に出たのであれば何も問題はない、その視線の主から隠れるように俺達は近くの商店へと入っていった。
「いらっしゃい、何をお探しで?」
中から出てきたのは初老に近い男性、初めて来た客にも拘わらずにこやかに相手をしてくれたがその目線が彼女の方に向いたのを俺は見逃さなかった。
何だよこのコロニー、店も何かあるのか?
「宿に一週間程滞在するんだが、それに必要な日用品を探してる。後は簡単な食べ物と飲み物だな、値段は気にしないから適当に見繕ってくれ。人数は6人分、それと世話役の彼女と打ち合わせをしたいからどこか場所を貸してもらえないか?」
「それなら店の奥を使うといい、しっかりな」
「は、はい!」
突然の乗客に初老の男性の目がきらりと輝く。
さて、とりあえず奥に移動して詳しい話を聞かせてもらうか。
商店の奥は休憩所のような作りになっており、生活感たっぷりという感じだった。
とりあえず扉を閉めてからすぐ近くの椅子に座る。
「テネス」
「今やってる。っと、ジャミングをかけたからこれで少しはごまかせるはずよ」
「まったく、こっちはのんびりしに来たってのに一体何なんだ?」
「私だって知らないわよ。でも、何かあるのは間違いないみたいだし本人から聞いたら?」
「それもそうだな。ってことだから、リリットさん世話役が何なのか詳しく教えてもらえないか?」
「でも・・・」
「テネスがジャミングをかけてるから会話も映像も外に漏れることは無い。大丈夫、俺達だってことを荒立てたくはないからここでの会話は秘密にすると約束しよう」
「・・・わかりました」
外に漏れることは無いという言葉に彼女も安心したのか、ホッとしたように息を吐いた。
それから彼女のペースで何が起きているのかを聞かせてもらったのだが・・・なんだろう、折角のリゾート惑星なのに実際はとんでもない場所のようだ。
アリスの奴、それをわかってここに連れてきたのか?
「なるほどね、表向きは世話役として色々と世話を焼きながら実際は客にあれこれ買物させてお金を落とさせたいわけ。やることがせこいわねぇ」
「私もこんな会社だとは知らなかったんです。最初は来てもらった人に満足して帰ってもらいましょうって聞いて頑張ろう!って思っていたんですけど、実際はノルマとかがあってそれが出来ないとすごい怒られるんです。私は今回が初めての世話役なんですけど、先に行った子はものすごい怒られてて・・・」
「辞めようと思わなかったのか?」
「それも考えたんですけど、出ていくにはすっごいお金がかかるんです。ここに来るために貯金も全部使っちゃって、それを稼いだら出ていけるんですけど・・・ここに来た以上にお金を稼げるって聞いて来たのに、まさかこんなことになるなんて」
「世の中上手い話は無いってことだ。まったく、こっちはただのんびり温泉に浸かりたいだけだってのに、全部が胡散臭く見えてきた」
何も知らなければ今頃気持ちよく温泉に入れたことだろう。
だが、その裏ではリリットさんは上司に詰められ泣きながら俺達の連絡を待っていたに違いない。
そしてそんな人がここに来た客の数だけいるわけで。
リゾートコロニーなんて聞いていたけど、飛んだ詐欺コロニーじゃねぇか。
「温泉惑星になんでショッピングモールがあるのかと思ってたら、それが理由だったわけね」
「みなさん温泉に入って心が落ち着くと気が大きくなるから、褒めて色々買わせろっていわれるんです。お金持ちにつけた人はいいですけど、そうじゃない人にあたったらあれこれ勧めるのが大変だって言ってました。でも、凄い人は一晩で10万ヴェイルぐらい稼げるから、みんなそれを目指してがんばれって」
「貴女、借金があるわけじゃないのよね?」
「もちろんです!私はただ学費を稼ぎたいだけでここに来たんです」
「学生だったのか」
「それがこんなことになるなんて・・・本当にどうしたらいいのかなぁ」
俺達にすべて吐き出してホッとしたのか急にボロボロと涙を流すリリットさん。
泣きたいのはこっちの方だとテネスと顔を見合わせ、本日何度目かの盛大なため息をつくのだった。




