261.温泉宿に到着して
管制で言われた通り業者用ハンガーにノクティルカを接岸、その後ろにソルアレスをつける。
業務用ハンガーなので周りに客はおらず、むしろこっちの方がせかされることもないのでゆっくりできるかもしれない。
「アリス、大丈夫か?」
「別に体にトラブルを抱えているわけではありませんので大丈夫です」
「因みに進捗は?」
「5%と言う所でしょうか」
「お、進んだじゃないか。まぁ時間はあるし、ゆっくりやってくれ」
「はぁ、ほんと甘いんだから」
「仕方ないだろ、俺の相棒なんだから」
こうやって宇宙を旅できているのもアリスのおかげ、もちろんテネスの助力にもノクティルカに乗っている三人にも感謝しているけれど、なんだかんだアリスがいるからこそここまで来れた感はある。
ここでそれに報いておかないと後々言われそうな感じがあるから・・・というのは内緒だ。
しばらくしてノクティルカに乗っていた三人も下船、大きく伸びをしながらこちらへ向かってきた。
「みんなご苦労さん、迎えが来るらしいからここでしばらく待機だ」
「了解です」
「疲れてないか?」
「温泉に入ればすぐに元通りになるぐらいでしょうか」
「そりゃ何より・・・って、来たな」
ハッチに並んで待機していると奥の方から小走りで走ってくる人影を発見した。
「遅いな」
「一応全力疾走っぽい格好はしていますよ?」
「だとしたら余計に遅いだろ」
一応本人は全力疾走してます感を出しているけれど、待てどくらせど近づいてくる様子はない。
こちらから向かっていった方が早いんじゃないかと言う頃、ようやくその人が到着・・・したものの、息も絶え絶えと言う感じだったので結局それから本人が落ち着くまで待たなければならなかった。
「皆さまようこそテルマ・オルビスタへ。相談役を仰せつかりましたリリットです!」
「トウマだ。ここではそういうのが付くようになってるのか?」
「はい!コロニー到着後はグループに一人専属の相談役が付く決まりになっています。まだ入って間もない未熟者ですが、精一杯頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!」
そう言いながら元気よく頭を下げたのは、アリスよりも背の小さな女性。
身長は1m40ぐらいしかないんじゃないだろうか、
そりゃ走っても走っても到着しないわけだ。
背が低いだけでなく体格も少し大きめ、女性の前でこういうのは憚られるけれど俗にいうぽっちゃりと言う奴だろうか、愛嬌のある顔がまたそれを引き立てるというかなんというか・・・ともかく、ここではソレが付くらしい。
それならそうとお先に教えてくれたらよかったのにと思いながらも、まぁアリスのすることだからなぁ。
「よろしくお願いしますリリットさん。因みにどんなお仕事をされるんですか?」
「主にコロニーでの生活をサポートさせていただきます!お買い物とか、コロニー移動用の小型船の手配とか、皆さんが気持ちよく滞在できるようにお手伝いするのがお仕事です!」
「何でもしてくれるってのはすごいんやけど、それならいつ休むん?」
「皆様をお宿に送ってそれから近くの提携宿で休みます。あ!これが、連絡用のナンバーですので登録しておいてください!24時間いつでもどこでも駆けつけますから!」
「24時間?他の人もそうなのか?」
「と、聞いています」
「聞いています?」
「実はお客様に付くのは今日が初めてなんです。でもでも!皆様のお役に立てるよう全力で取り組みますのでどうか替えないでください!お願いします!」
表情をころころ変えつつ、最後は泣きそうになりながら頭を下げられてしまった。
うーむ、まさか新人をあてがわれるとは思っていなかった。
別に貴族でも常連でもないし、誰でも最初は新人だからそれは別に構わないんだけど・・・っていうかチェンジすることが出来るのか。
「アリス」
「これはテルマ・オルビスタ独自のシステムですので我々がどうにかできるものではありません。別に彼女を介さずに動くこともできますが、通した方が色々と融通が利きますのでお勧めはしません。因みにチェンジをしても代わりに来る人が優秀かどうかは運任せですね。誰が来るかはランダムですし、この仕事に誇りを持っている人もいれば、給与だけで選んでいる人もいます。そういう意味では彼女は当たりかと」
「私もそう思います。一生懸命ですし、そのままでいいんじゃないですか?」
「ふむ。イブさんは?」
「私もローラさんと同じです」
「ウチもお姉様と一緒や。適当な人に手を抜かれるぐらいなら一生懸命やってくれる子にお願いするほうがいいとおもうけどなぁ」
確かにミニマさんのいう事は一理ある。
このシステムがどういう風になっているかは知らないけれど、ローラさんが言うように一生懸命やってくれるのであれば彼女に任せたままでもいいだろう。
基本的にはゆっくりするつもりだし、何かして欲しいときに動いてもらえるのは正直助かる。
「と、いう事だからよろしく頼む。アリス、宿泊先のデータを送ってやってくれ」
「畏まりました。リリットさん、今送りましたので確認をお願いします」
「はい!」
元気に返事をした彼女は急ぎタブレットを開き情報を確認、何をするにも一生懸命で見ているこっちが思わず応援してしまいたくなるのは俺が年だからではないだろう。
「お宿の場所を確認しました!ご案内しますのでどうぞついてきてください!」
「よし、それじゃあここからは別行動だな」
「え、そうなんですか?てっきり皆様一緒に行動するのかと・・・」
「別件で仕事があってな。それが終わったら合流するからリリットさんは彼女達をよろしく頼む。宿の場所はこっちも把握しているし体は一つしかないんだからどっちかにつくしかないだろ?」
「そう・・・ですね!」
いきなりのイレギュラーな状況にどうしようと焦ったようだけど、案外思い切りがいいのかすんなりと受け入れてくれたようだ。
さて、それじゃあ俺達もやることをやってしまおう。
いつまでもあの手紙を持っているわけにもいかないし、嫌なことは先に終わらせるタイプなんだ。
リリットさんにと一緒に行く面々を見送り俺達もMAPを見ながら目的の場所へ、運よくこの第六コロニーにいるらしいのであちこちいかなくて済むのは助かるな。
「手紙を届ける相手ってのはどんな人なんだ?」
「ここで宿を経営しているみたいよ」
「へぇ、ここで経営できるってことはそれなりの金持ちか何かなのか」
「お金持ちかどうかは知らないけど、そこで旦那さんの事を待っているんじゃないかしら。失踪届も出てるし、戻るかもわからないご主人を待って働き続けるなんてけなげよねぇ」
「そしてその人に現実を突きつけるわけか。あー、やだやだ」
「なによ、自分で言い出したんでしょ?」
「そうなんだが・・・いや、今更の話だな」
いい加減覚悟を決めろ、俺。
皆が向かった道を途中で曲がり、いくつか路地を経由しながら奥へと進んでいく。
頭上を走る巨大なパイプが源泉を運んでいるというやつなんだろう、てっきり足元を通しているのかと思ったのだが、あえて上を通しているんだろうか。
それを辿りながら進むこと十分ほどで目的地に到着。
源泉の通る巨大なパイプの根元に佇む古びたお宿って、なんだか聞いたことがあるんだが・・・。
「え?」
「あれ?」
宿を見上げていると後ろから声が聞こえてくる。
慌てて後ろを振り向いたその先には、リリットさん率いるアリス達の姿があった。




