259.手紙の中身を大事にしまって
「・・・はぁ」
「なによ盛大なため息ついて」
「そりゃこんなの読んだらため息もつきたくなるだろ」
「ただの手紙でしょ?トラブルがあって死んじゃったのは仕方ないけど、本人の望み通り奥さんの所に運ぶんだからそれでいいじゃない」
例の遺体から回収した小型カプセル。
そこに入っていたのはテルマ・オルビスタにいるであろう奥様への愛を紡いだ手紙、それと指輪だった。
手紙にはこれまでの感謝と死んでしまう事へのお詫び、それと指輪について書かれていた。
いかに奥さんを愛していたのかがよくわかる内容に思わず感情移入してしまったぐらいだ。
最近歳のせいか涙脆いんだよなぁ。
この人はよっぽど奥さんのことが好きだったんだなと思う傍ら、そんな奥さんを残して死ぬというのに何故ここまで冷静なのだろうか。
普通は殴り書きになってこんな丁寧な文字で書いたりできないと思うんだけど、死ぬまでに時間があったのかはたまたその余裕があったのか。
今の所何故あそこにいたのか、なぜ死ななければならなかったのかという部分はさっぱりわからない。
調べればもしかしたらわかるかもしれないけれども、正直全く知らない赤の他人の為にそこまでする義理はないので、とりあえず手紙を届けるだけで十分だろう。
偶然行く場所が同じだったから届けるのであってそうでなければスルーする案件だからなぁ。
「そうなんだが・・・」
「面倒ごとにいちいち首を突っ込んでたらいつか死ぬわよ」
「それは自覚してる」
「ならいいわ。アリスもアンタらしいって褒めてるわよ。そりゃどうも、っていうか姿が見えないのはそんなにやばい状況なのか?」
「そんなの私が知るわけないでしょ。ヤバかったらヤバイって自分で言うだろうからそうじゃないってだけで察してあげなさいよ。この会話も上のカメラとマイクで確認できるんだし」
デブリ帯に入った頃からアリスの姿が見えなかったんだが、なるほど確かにその通りだ。
出てこれない理由はあるんだろうけど、わざわざそれを言う必要はないし何よりここは彼女の船、誰がどこで何をしているかまで手に取るようにわかっている。
「とりあえず奥さんのデータも入手しといたから、向こうに着いたら確認して」
「了解、って今じゃないのか?」
「未亡人になるとわかっている人のデータよ?それを渡してアンタがよからぬ事を考えたら困るじゃない」
「誰がするか!」
「わかんないわよ?人の弱みにつけこんであんなことやそんな事・・・するような男じゃなかったわね」
「褒められてるのか貶されてるのかどっちなんだよ」
「別にどっちでもいいじゃない。なんにせよデータは向こうに行ってから、この件は終わり!」
なんだか強制的に話を終えられてしまったが、これ以上蒸し返すとテネスの機嫌が悪くなるのでやめておこう。
「というわけで向こうに着いたら一瞬別行動になるから先に宿に向かってくれ」
「わかりました」
「宿はアリスが確保してるから案内は問題ないだろう。どのぐらい時間がかかるかわからないからとりあえず部屋で休むなり温泉に入るなり自由にしてもらって構わない。遅くはならないつもりだ」
その後、デブリ帯を先行するノクティルカに連絡を入れて事情を説明。
最初は驚いた顔をした三人だったが、内容を聞いて神妙な顔になる。
まぁ遺体を見つけたなんて言えばそうなるだろうけど、あんまり驚いた感じがないな。
こういうトラブルには慣れっこ、それこそ前にミニマさんを見つけたのも偶然だったし・・・なんだろう毎回こういうのに遭遇している気がしてきた。
「トウマさんは大丈夫ですか?」
「ん?」
「お姉様は一人で大丈夫かって聞いてるんやとおもうけど・・・」
「あぁ、そう言うことか。落とし物を届けるだけだし、まぁ問題ないだろう」
別に女性に泣かれるぐらいどうってことない。
知り合いでもないし、淡々と見つけた物を持ってきたと言えばいいだけの話だ。
心配してもらえるのはありがたいが、それぐらいで落ち込むようなことは無い。
・・・多分。
「私もついていくから大丈夫よ、下手な事にはならないわ」
「なんだよ下手な事って」
「そのまんまの意味だけど?」
「まったく、人を何だと思ってるんだ」
「確かに、トウマさんが行くとトラブルと言うか何か別の事が起きますね。まぁ、私もそうやって助けてもらったわけですけど」
「イブさんまで!え、もしかしてみんなそういう認識!?」
ここにきてまさかの裏切り、まさかテネスだけじゃなく他の女性陣もそういう認識なのか?
そうだとしたら結構ショックなんだが?
「イブさんもそうですし、私もトウマさんにそうやって助けてもらった口なので」
「そういえば私も一緒になるんかな?」
「わかった?これが現実よ?」
「わかりたかったようなわかりたくなかったような・・・。ともかく、今回はそういう事にならないって!」
「その根拠は?」
「ない!」
俺がトラブルを起こすならともかく向こうから来られたら俺にはどうしようもないわけで。
それを起こらないなんて無責任なことは言えるはずがない。
「これ、何か起きるわね」
「私もそう思います」
「ウチもや」
「その根拠は!?」
「トウマさんだからですよ」
いやいや、それは根拠にならないと思うんだけどなぁローラさん。
モニター越しにノクティルカの女性陣から憐みの目を向けられるというなんとも悲しい状況、一体俺が何をしたというんだろうか。
確かにあのタイミングで遺体を見つけた時点で説得力はないけれど、それでも狙ったわけじゃないしある種不可抗力的な部分はあると思う。
ともかく、拾った手紙と指輪を渡しに行くだけなんだから何も起きるはずがない。
起きないんだ!
多分。
「はぁ、急にテルマ・オルビスタに行きたくなくなってきた」
「ダメよ、アイツが許さないわ」
「アリスが?」
「だってアンタと一緒に入るのを・・・わかった、わかったからハッキングしないで!ウイルスがうつったらどうするのよ!」
突然横でテネスが頭を押さえて蹲る。
何事かと思ったら、どうやらアリスがちょっかいを出しているらしい。
そんなに楽しみにしているのなら行かない理由はないけれど、ヒューマノイドが一体何を楽しみにしているんだろうか。
そこだけがよくわからんなぁ。
「アリス、ちゃんと行くからそのぐらいにしとけ」
「あーもうびっくりした。ともかく、こう言う感じだからテルマ・オルビスタにはいくからね」
「へいへい。まぁ俺も温泉には入りたいしな」
「私達も楽しみにしているので途中で行かないなんてなしですよ」
「美人の湯!」
「わかったわかった、ちゃんと行くって」
ハイパーレーンじゃなくてこっちの航路を選んだ時点で行くのは確定しているんだ、ここまで来て引き返すわけにもいかないだろう。
あと1日飛べば目的のテルマ・オルビスタに到着。
火山惑星から直接吸い上げているとっておきの温泉と、複数のコンセプトで作られたリゾートコロニー。
まだまだアリスのウイルス除去は終わりそうもないので、しばらく滞在することになるのは間違いない。
果たして何が待っているのやら。




