258.デブリ群を突破して
スペースデブリ。
通常は隕石のかけらなんかで形成されるものだが、結構な頻度で宇宙船の破片や廃棄された本当のゴミ等で形成されいる厄介者。
惑星等の重力圏だとかなりの速度で周りを飛んでいることが多く、人類が宇宙に出てすぐの頃は装甲も甘くよくぶつかって船が破壊されるなんてこともしばしばあったそうだ。
最近ではシールドもあるしそう言ったことはなくなってきたけれど、デブリは今でも存在して俺達を悩ませている。
「かなり広範囲だな」
「この辺は惑星の重力圏からも外れてるし、一度滞留した物同士が引き合ってこれを形成したんでしょうね。そこまでやばいものはないと思うけど、稀に宙賊が隠れていたりするからレーダーから目を離さないでよ」
「こんなところにいるのか?」
「私達みたいなのを狙う残念な奴らが稀にいるのよ。ハイパーレーンがあるにも拘らず一般航路を使うなんてよっぽど急いでるか訳ありなやつばっかりだから、そこを狙ってくるってわけ」
なるほどなぁ。
言いたいことはわかるけれども、確率はかなり低い。
いつくるかもわからない宇宙船をこの中で待つのは中々大変だと思うんだがなぁ。
「今のところは問題なし.面白そうなものも転がってなさそうだ」
「面白そうって何よ」
「勝手に捨てられたコンテナとかそんな感じか?」
「私みたいなのがそう簡単に転がってると思わないでよね」
テネブリスもテネスもどちらもこういう場所で拾ってきたのでもしかして、と思ったのだがそんなにポンポン拾えるわけもなく。
人工物の反応はたくさんあるけれど99%はゴミ、残りの1%に宙賊とかが含まれるわけだがそれらをゴミと呼ばないのにはなんとも違和感がある。
「ん?」
「どうしたの?何かいた?」
「いたというかあったというか、これってなんだと思う?」
宙域MAPに表示されていたのは人工物の反応。
複数の隕石がくっついている大きめのデブリに隠れるようにそれはあった。
マップ上の大きさで言えば大型ドローンぐらいあるだろうか。
隠れるというか隠されているというか、なんとも変な感じだ。
「大きさ的に人間と同じぐらいありそうね」
「そう思うよな」
「でもなんで隠されているのかしら」
「そりゃ証拠隠滅する為だろ。宙賊に殺されたか、はたまた仲間に殺されたか。なんにせよ普通の状態であんなところにいるはずないだろ」
「で、どうするの?」
「どうするって言われてもなぁ・・・」
ミニマさんみたいに生きている人だったら助ける義務があるけれど、死人となれば話が別だ。
殺されたにせよ漂流したにせよ、見つけてしまった以上放置するのは目覚めが悪い。
とりあえず様子を見るだけ見てそれからどうするか考えたらいいだろう。
「ドローン出すぞ、サポート頼む」
「了解、ドローンの力じゃ人間なんて簡単に真っ二つになるからくれぐれも気を付けてよね」
「わかってるっての」
赤の他人とはいえ死体をもてあそぶようなことはしたくない。
キャプテンシート横に置かれていたヘッドセットを装着して電源を起動、しばらくするとカーゴ内の映像が映し出された。
「ドローン起動完了、各部異常なし」
「近くまで移動してからハッチを開くからそれまでちょっと待ってなさい」
「はいよ、了解」
とりあえずローラさん達にも状況を伝え、ゆっくりと先行してもらう事にした。
デブリをシールドでかき分けながら近くまで移動する。
「ハッチ解放、いつでもいいわよ」
「そんじゃま確認しに行きますか」
手元のコントローラーを操作してカーゴ内を移動、解放されたハッチから外へ飛び出しデブリの間を縫うようにして先程発見したブツのそばに移動する。
近くで見るとより違和感を感じる隕石がくっついたようなデブリ、正面から見る限りでは何もないけれど後ろ側に回るとすぐに違和感の正体が判明した。
「これ、張りぼてか?」
「何かから隠れるためにわざとって感じね」
「流石にここでかくれんぼをしていたとは思えないが、なんでこんなものがこんな場所に?」
「それは本人に聞いてみたら?」
「聞けたらよかったんだが、生憎と冷たくなっているみたいだ」
デブリだと思っていたのは金属製の張りぼてで、裏は接合部や骨組みが丸見えになっていた。
その裏側で何かから隠れるように身を小さくしている遺体を発見。
宇宙服を身に着けているので表情は分からないけれども、生体反応は一切ない。
そのまま掴むとさっき言ったように真っ二つにしそうなので、ひとまず張りぼてに載せたままソルアレスの近くまで移動、前のアリスじゃないがウイルスを持ち込ませるわけにもいかないので、そこで確認をすることにした。
宇宙服に着替えてカーゴから外に飛び出し張りぼてまで移動、遺体に軽く手を添えるとゆっくりとこちらの方を向いた。
「うーむ、随分と幸せそうな死に顔だな」
「この感じだと漂流して窒息死したとか餓死したとかそんな感じじゃなさそうね」
「お、手に何か持ってるぞ」
振り向いた遺体は俺と同い年ぐらいの男性、このような状況にもかかわらずその男はなんとも幸せそうに微笑んでいた。
酸素がないから腐敗できないとはいえ、これだけ綺麗に残っているとなるとそんなに時間は経っていないのかもしれない。
もしかして何かヒントになるものがあるんじゃないかと遺体を探っていると、両手で大事そうに何かを包んでいた。
「手紙かしら」
「ご丁寧に手書き、しかも劣化しないように小型カプセルに入っているあたり・・・こうなることを察してたのか?」
「死ぬのがわかっていて人間はこんな顔できるの?」
「残念ながら死んだことがないからわからんなぁ」
「まぁそれもそうね。とりあえず開封前に中身のスキャンと、ウイルスチェックをするから隔離用ボックスの中に入れてもらえる?」
「了解っと」
透明な小型カプセル以外にはめぼしい物は無し。
インプラントデータを確認できたので調べればどこのだれかすぐに判明するだろう。
とりあえずやることはやったのでソルアレスに戻り隔離用の個室で宇宙服を殺菌、それから空気を入れ替えてやっと宇宙服から解放される。
「はぁ久々の無重力作業は疲れるな」
「お疲れ様」
「例のカプセルはどんな感じだ?」
「特に有害な物は検出されなかったわ。どうする、開けちゃう?」
「確認のためには仕方ないだろ。それよりもどこの誰かわかったのか?」
「インプラントデータからするとテルマ・オルビスタに住む人物みたいね。あ!三ヶ月前に失踪届が出てるわよ」
「つまりそこで何かあったってわけか」
「犯罪歴は無し、税金の滞納もなく、どこにでもいる善良な一般市民っていう感じかしら」
そんなごく当たり前の生活をしているような人がなぜこんな所で見つかるのか。
借金で首が回らなくなったわけでもなく宙賊に追いかけられたわけでも無し、そもそもこんな何もないデブリ帯のど真ん中に船もなくどうやってきたんだろうか。
「残されたヒントはこのカプセルの中にあるわけか」
「謎が謎を呼ぶかもよ?」
「その時はその時だ。なんにせよ遺体を連れていくわけにもいかないからビーコンだけつけておいてくれ。身内はいるのか?」
「んーっと、あ!奥さんがいるみたいね。子供は無し」
「失踪届を出しているってことは喧嘩しているわけじゃないんだろう。どうせ行く場所は同じなんだ、届けてやるとするか」
デブリ帯を抜けるだけなのにとんでもない物を見つけてしまった。
果たしてこの人物はなぜあんなところで死んでいたのか。
そのヒントはカプセルの中にある・・・はずだ。




