256.コロニーを離れる準備をして
出発の準備を始めて二日。
未だアリスのウイルス除去は終わっていないものの、特に大きな問題もなく出発の準備は進んでいた。
ここで仕入れられる品物のほとんどは遺跡産の品物、これを仕入れると売買代金に応じたオークションでの落札義務が生じるのだが、前回の輸送業務の功績を認められ今回のみそれが免除されることとなった。
それならばと出来る限りの仕入れを行ったものの、残念ながらそんな頻繁に大量の遺跡物が出てくるはずもなくノクティルカの三分の一を満たす事しかできなかったが、まぁ道中で色々買い付けたり回収したりするだろうからこのぐらいの方がちょうどいいんだろう。
「よし、これで準備完了だな?」
「予定されていた品物は大方積み込みが完了しました。一部の高級遺跡物に関してはコロニーの許可が下りていないのでまだ到着していませんがそれも時間の問題かと」
「結構時間がかかるんだな」
「本来支払うはずのオークション分を免除することになりますから、色々と文句を言う人もいるそうです」
「めんどくさいやつもいるもんだ」
「仕方ないわよ、本来はいるはずの収入が無くなっちゃうんだから。最初は通常の遺跡物だけという話だったけどこれらは追加品だし、それが気に喰わないんじゃないかしら」
「そうは言うがゴドウィンさんたってのお願いを聞いたのはこっちなんだがなぁ。まぁ最終的に許可が下りるのであれば文句はないさ」
最初は安い遺跡物だけを仕入れるはずだったんだが、昨日急にゴドウィンさんがやって来て彼らが保管していた遺跡物を買い取ってくれと持ち掛けられた。
もちろんコロニーには報告している正規品だが、かなり貴重な物らしく世の中にはほとんど出回っていないらしい。
そんなレアものを手に入れる機会はこれを逃せばもうないだろう、という事で100万ヴェルという想定外の高い買い物をしたわけだが、どうもそれを良しとしなかったコロニー関係者がいるようでいちゃもんをつけてきたらしい。
まぁ気持ちはわからなくもないが、こっちはこのコロニーにかなり貢献したんだから多少目を瞑ってくれてもいいとおもうんだがなぁ。
「積み込み終わったで!」
「ご苦労さん。残りは小さな奴だし値段も値段なのでこっちで保管させてもらう。出港にはもう少しかかりそうだからゆっくりしてくれ」
「ってことは自由にしてええの?」
「クルーのプライベートを拘束するつもりはないさ。とはいえ、あまり危険な所にはいかないでくれよ」
「そんなへませぇへんから大丈夫や、それにお姉様も一緒やしな」
「イブさんが?」
「この間可愛い小物の店を見つけてん。前は時間がなかったから行かれへんかったけど、今からなら大丈夫やろ」
ふむ、まさかイブさんとここまで仲良くなるとは思っていなかったが、特に揉めている感じもないしイブさん自身が彼女を可愛がっている感じなので必要以上に干渉する理由は無い。
最初はどうなることかと思ったが、彼女自身もうちで自分の立ち位置をしっかり確立してくれているしそれが自信につながっているんじゃないかってのがアリスの分析だ。
「まぁ人込みに揉まれないようにな」
「は~い」
スキップをしながらコックピットを出ていくミニマさんを見送り、小さく息を吐く。
後は品物を受け取るだけ、ここを出ればまた新しい旅が始まるというのに今までで一番テンションの上がらない出航かもしれない。
正直アリス程の実力があればウイルスなんて受け付けないと思っていたのだが、流石のアンティークでも遺跡時代のブツには太刀打ちできなかったらしい。
幸い大きな問題は起きていないようだが、これが汚染系のウイルスだったら一体どうなってしまうのだろうか。
なんせ星間ネットワークをフルコピーできるような実力者だ、彼女が本気を出せば世界中のお金をかき集めることだって不可能じゃないし、なんならネットワークそのものをクラッシュさせることだってできてしまう。
そうなれば経済だけでなく生活そのものが大開拓時代に逆戻りしてしまうだろう。
ネットワークを使えない生活なんて考えたくもない、だがそれを引き起こせるのがこのアリスという女だ。
「なによ、大きなため息ついちゃって」
「ちょっと考え事をな」
「どうせアイツの事でしょ?大丈夫よ、隔離モードでウイルスと戦ってるからこれ以上侵食されることは無いわ。でも最初に奪われたのがバックアップとセクサロイドとしての能力でよかったわね」
「ちょうどそれを考えていたところだ。もし主要な部分をウイルスに乗っ取られていたらこの世界はどうなっていたんだろうなぁ」
「んー、とりあえずネットワークは全部使えなくなるから、生活基盤そのものが崩壊するわね。航行データが存在しないから隣のコロニーにも到着できないし、物資が補給でき無くなれば自給している惑星やコロニー以外は一カ月もしないうちに壊滅するんじゃないかしら。誰も見ていないってことは司法も機能しないわけでしょ?ホロムービーで言う原始時代よりも前の世界になるんじゃない?」
どうやら俺の想像以上の世界が待ち構えているらしい。
テネスがアリスの代わりを出来ても、彼女のマックスと比べれば出来る事はたかが知れている。
アンティーク、とりわけアリスという存在はそれだけ危険を孕んでいるという事になるだろう。
「はぁ、そんなヤバいやつと一緒だとはなぁ」
「あら、そんなの今更じゃない」
「まぁそれもそうか」
「だれがヤバイのですか?」
聞こえてきた声にゆっくりと後ろを振り替えると、アリスがやれやれという顔で立っていた。
聞かれて困る会話でもない、っていうかソルアレス内の会話は全てアリスに筒抜けなので今更取り繕う必要もないわけで。
「お前だよお前」
「お褒めにあずかり光栄です」
「まったく、今回は大丈夫だったからよかったもののマジで気をつけろよ」
「それに関しては何度も弁解させていただきました。対策も講じておりますし、もう二度と同じようなへまは致しません」
「だといいんだが。で、進捗は?」
「全然ダメですね」
「そんなスッキリした顔で言うなよ」
「事実だから致し方ありません」
どうやら二日経ってもなお進展は見られないらしい。
自分で言った手前何もできないというのは非常に面倒なのだが・・・、それでもこの状態のアリスと旅をする気にはならないのでしっかり治してもらわなければ。
「温泉に浸かりたいだけじゃないの?知ってるのよ、ウイルス除去の片手間にヒューマノイドが温泉に入る方法を探してるの」
「そうなのか?」
「通常の水程度であれば中に入ったところで何ともありませんが、複雑な成分が含まれている温泉ともなるといくらパーツに撥水が施されているとはいえなんとも言えません。まぁ専用の服を着れば大丈夫な気もしますが・・・見た目があまりよろしくなくて」
一体どういう格好なのかはさっぱり想像できないのだが、そこまでして温泉に入りたいのだろうか。
いや、俺達は温泉に入ることで筋肉がほぐれるとか疲れが取れるとか色々な効果があるけれども、ヒューマノイドがそれに入る意義とは一体何なのだろうか。
「別に女性同士ならいいんじゃないか?」
「わかってないわね、女性同士だからダメなんじゃない」
「ふむ、なら一緒に入るか?」
「はい?」
「いや、水着を着ているようなもんだろ?それなら問題ない・・・あれ、違うのか?」
「・・・マスター意外と大胆ですね」
いや、だからどんなものか想像できていないからの発言であって別に深い意味は・・・あれ?もしかしてやらかしたか?
テネスからは軽蔑の、アリスからは羨望の眼差しを受けながらここをどう切り抜けるのか必死に頭を巡らせるのだった。




