255.思わぬ状況になってしまって
「は?」
「ですので、例のデータを解析している最中にウイルスらしきものを発見。即時それらを隔離しましたが一部データがクラッシュしてしまいました。幸い通常稼働には支障はありませんが、完全復活には時間がかかる模様です」
とんでもない事後報告をサラッとされてしまい、ことの重要さがよくわからないんだが・・・どう考えてもまずい状況だよな?
データがクラッシュするっていうと彼女達からすれば体の一部を失うのと同じこと、ただ元のデータをバックアップから引っ張ってきて直るという事ではない。
最悪自分そのものが失われてしまう可能性があるというのに、随分と冷静なもんだなぁ。
「それ、大丈夫なんですか?」
「日常生活や業務にはさほど支障ありません」
「じゃあ具体的に何が出来ないんだ?」
「セクサロイドとしての機能が使えなくなりました。また、データのバックアップが定期的に行えない状況ですので、もし私が完全にクラッシュしてしまった場合には昨日の私が戻ってきます。その際情報共有などは行われませんのでご注意ください」
ローラさんの指摘にもさも当たり前という感じで回答するアリス。
これはクラッシュのせい・・・と言ってしまいたいんだが、残念ながら平常運航なんだよなぁ。
「つまりバックアップが出来なくなったってことだな?」
「セクサロイドの機能も使えなくなりました」
「それはまぁいいとして、まったく昨日あれほど気をつけろと言っただろ。それでハードが全部吹っ飛んでたらどうするつもりだったんだよ」
「その場合は非常用プログラムが働き、一度すべてをアンインストールした後自動的にバックアップがインストールされる手はずとなっています。もちろん先程はお話ししましたように昨日までのバックアップデータとなりますので、今日の出来事は全てなかったことになってしまいますがテネスがいれば特に問題ないでしょう。彼女経由で情報を入れればおおよその事は把握できます」
「でもそれって本当のアリスさんやあらへんよな?」
「私は私ですが?」
「それはそうやねんけど・・・」
ミニマさんの言いたいこともわかる。
パーツを全て替えた船は元の船と言えるのかという命題が過去に何度も取り上げられているけれど、それと同じじゃないかと言いたいんだろう。
俺も同じことを考えたことはあるが、彼女達にとってはそれは些細な事であり自分と言うプラグラムが稼働し続ければ特に気にならないような感じらしい。
「それで、具体的にどうすればよくなるんですか?」
「そうですね・・・今の所ウイルスは隔離をしましたのでそれを駆除するプログラムを構成中です。それが完了すればバックアップから復帰できますので通常通りの動きが出来るでしょう。とはいえあのデータ同様に既存の物ではない為駆除に時間はかかりそうです」
「つまりそれが終わるまではいつものアリスさんじゃないんですね」
「どのような状態でも私は私ですが、パフォーマンスは落ちているでしょう。その分テネスが頑張ってくれますから大丈夫だと思います」
「え、私が!?」
「何か問題が?」
「べ、別に問題なんてあるはずないじゃない。っていうか、普段からいなくても大丈夫だし」
アリスに無茶ぶりをされテネスが明らかに動揺している。
口ではなんだかんだ言いながらもアリスの実力を認めているだけに、それを自分でやらなければならないことに不安があるんだろう。
幸い機能的に万全でなくても何もできないわけではなさそうなので、しばらくは補佐的な立場で頑張ってもらうしかない。
しっかし、まさかアリスがウイルスにやられるとはなぁ。
アンティークだからという油断があったのかはわからないけれど、少なくともいい話ではない。
セクサロイド云々という部分はさておき、とりあえず元に戻るまで無理は刺せないほうがいいだろうな。
「貴女ならそういうと思っていました。今後は再度辺境惑星へと向かいますのでそれらのフォローをお願いします」
「あー、それなんだが・・・」
「なにか?」
「アリスがその状態で移動するのは流石に危険だろう。それならせめてウイルスが除去されるまでどこかで待機するべきだと思う。もちろんここでもいいし、もっと別のコロニーでも構わないがとりあえず万全な状況になるまで活動は控えるつもりだ」
別にアリスがいないから怖いとかそう言うわけではない。
テネスだってよくやってくれているし、彼女でも十分アリスの代わりは務まるだろう。
だが俺にとってアリスは仲間以上の存在、そんな彼女が万全でないのならわざわざ無理をする必要はないし、治るまでのんびりするのも悪くはない。
「私は別に動けますが?」
「お前が大丈夫です万全でないやつと一緒に活動するつもりはない。これはキャプテン命令だ、治るまで大人しくしとけ。そして俺達もアリスが復活するまで活動を自粛する。とはいえここでは色々と不便だから別の場所に移動してからってことになるが、どこがいいと思う?」
「そうですね・・・アステラル・ディスティラリーコロニーに戻るのはどうですか?あそこなら仕事もたくさんありますし、アリスさんが復調するまで十分やっていけると思います」
「ウチもそれに賛成や。別にお酒が飲みたいわけやないけど、見知ったコロニーの方が色々安心やろ?」
「私はここでもいいと思います。遺跡は魅力的ですし、いざとなったら遺跡のあの場所から何かヒントを手に入れられるかもしれません」
なるほど、イブさんのいう事ももっともだ。
ここで貰ったウイルスなんだから、それを解除するまで下手に動くなという事なんだろう。
いざとなればあの遺跡で更なる調査やデータの確保も不可能じゃない、確かに理にかなっている。
「今回のウイルスは回収したデータから感染したものですので、遺跡に行ってもどうにもなりません。今は時間をかけて解析して除去するしかないでしょう。まぁ時間はかかりますので、どこかでゆっくりしながら・・・と言うのも悪くないと思いますが」
「ふむ、ゆっくりねぇ」
「何か心当たりがあるの?」
「いや、ホロムービーで見た温泉ってのにはいってみたいなと思っただけだ。元嫁ともいつか行けたらみたいな話をしたこともあったし、実際どんな感じなのか興味がある」
「温泉?ほんと、人間ってお湯が好きね」
「でも悪くはないと思いますよ。私達には効果は無くとも、マスター達の日々の疲れを癒すのにはピッタリです。急ぐ旅でもありませんし、そこでゆっくりしながらウイルスを駆除するというのはどうでしょうか」
昔見たホロムービーでは、温泉という特殊なお湯が湧き出す惑星が紹介されていた。
お金のない人はその近くのコロニーで、お金持ちは実際に惑星に降りてそれを堪能するんだとか。
一生に一度入ってみたいなと思いながらも気づけばその機会も失われてしまった。
まぁ堪能するのは俺達だけでアリスに効果があるわけではないけれども、それでもじっくり時間をかけて治すという意味ではぴったりかもしれない。
「ふむ、悪くはないな」
「ですね、実は私も行ってみたいと思っていたんです」
「ローラさんも?」
「なんでも美人の湯があるとか・・・」
「さっさと行くで!」
いや、なんでそこでミニマさんが反応するのかはわからないけれども女性の美にかける情熱というのは男が思っている以上に凄いらしい。
かくして念願かなってやってきた遺跡コロニーで思わぬお土産を貰ってしまったが、それを解決するべく新たな場所へ向かう事が決定。
そこに向かう為にも最後のひと仕事と行こうじゃないか。




