250.想像していなかったものを見つけて
彼女に案内されるがまま薄暗い隠し部屋を奥へ。
奥の方に見える灯りの他、足元に小さな明かりがともっているのかなんとなく足元は分かる。
ずっと封鎖されていたからだろう、歩く度に埃が舞い上がり少々かび臭い感じだが透明マスクのおかげでそれらを吸い込まなくて済んだようだ。
「どこまで続くんでしょう」
「遺跡の構造からそこまで広くないはずだ。無駄に長い通路ではあるが、もしかすると正規の方法で入らなかったらトラップとかあったりして」
「えぇ!?」
「ホロムービーでは定番だからなぁ」
探索系のホロムービーでは未開発惑星で見つかった遺跡内にあるトラップをかいくぐり何かすごい物を見つけるのが定番。
ホラー系の場合はそこでよくわからない生物が登場するけれど・・・流石にそれはないよな?
少し脅かしすぎただろうか、ローラさんが俺のすぐ横に来て軽く右肘を掴んでくる。
操縦桿を握るとあんなに勝気なのにそうでない時は結構怖がりなんだよな。
「大丈夫だって、正規の方法で入ったんだし彼女が先に歩いているんだから」
「そうですけど」
「それにテネスがいるからな、工学系の異常はすぐに見つけるだろ」
「いきなりハードル上げないでよ。さっきからスキャンしてるんだけど不思議と反応しないのよ。恐らく反射を防ぐ素材か何か使っているんでしょうね。ある種ゴーストシップシステムと同じね」
「なるほど、そういわれるとよくわかる」
遺跡時代の物質ともなれば今の技術とは随分と違う物が使われているんだろう。
そう考えればあの壁だけ反応しなかったというのも納得だ。
そんな話をしながら進むこと数十メートル、地上に見えていた遺跡部は当の昔に通り過ぎおそらくここは土の中もしくはあの茶色い海の下だろう。
「見つけた」
「やっと明るくなったな」
長かった通路を抜け、角を曲がった先は太陽のような柔らかな灯りに包まれていた。
その先にあったのは開けっ放しの扉、彼女は迷うことなくその先へと入っていく。
「テネス、何かあったらよろしくな」
「私に何を期待しているかは知らないけど、あの子をハッキングしてでも外に連れ出してあげるわ」
「それを聞いて安心した」
この先に何があるかはわからないけれど、行かなければ何も手に入らない。
遺跡の未発見エリアを歩くなんて人生でもう二度とないかもしれない、怖くてもこの機を逃す手はないだろう。
戸を抜けた先にあったのは複数の医療ポッド・・・に似た何か、扉の開いたそのうちの一つに入り込むと静かに蓋が閉じていく。
慌ててそこまで行くも時すでに遅くカチリとロックされる音が聞こえてきた。
「テネス!」
「今確認してる!」
その横に並んだポッドのようなものは全部で六つ、そのうちの三つは解放されていて二つは蓋が閉まったまま。
そこをのぞき込むと彼女と全く同じ顔をしたヒューマノイドが安らかな表情で格納されていた。
モニターは稼働しているようだが見たことのない文字のせいで何が描いているかわからない。
「ヒューマノイドの工場でしょうか」
「彼女の言葉を借りるなら家なんだろう。開いている三つに住んでいたヒューマノイドがどこに行ったかはわからないが、少なくとも彼女にとってここが帰る場所だったという事だ。何かしらの理由でセリオス・ステーションに行ってやっとの帰還、まぁよかったんじゃないか?」
ポッドの中の彼女は非常に安らかな表情を浮かべている。
その横に設置されたパネルにはせわしなく何かの文字が流れていくけれどそれが何かはよくわからない。
いつまでも見ているのもあれなので、解析はテネスに任せてローラさんと共に部屋の中を見て回ることにした。
ポッドの並んだ部屋の奥にはもう一部屋あり、こちらにはカップや皿などの生活用品らしきものが並んでいる。
手分けをしてみて回ると、机の引き出しから一冊の本を発見した。
「このご時世に手書き・・・いえ、当時はこれが普通だったんでしょうか」
「ヒューマノイドがこれだけ並んだポッドがあるのに?もしくはオフラインで記録をせざるを得なかったか。お、これは読めそうだ」
「傷んでないみたいですね」
「前に漂流船で見つけたやつはどうにもならなかったが・・・っと、何々?ヒューマノイドの量産は順調、エラーは無し。情報共有に問題があるため、ポッドを使った情報連携プログラムを再構築。オリジナルと比べると思考領域に難あり・・・か」
「やっぱりここで作られていたんですね」
どうやら彼女達はここで作られていたヒューマノイドらしい。
なんのためにという部分に関しては読み進めても書かれていない。
どうやらこれは作業報告書の様で、どのページも似たようなことしか書かれていなかった。
気になる文言と言えばオリジナルと言う部分か。
「テネス、そっちはどうだ?」
「文字がわからないからとりあえず全データをダウンロード中」
「おいおい、ウイルスとかあったらどうするんだよ」
「ちゃんと独立ストレージに入れているから大丈夫よ。最悪壊れても星間ネットワーク上のバックアップをインストールすれば復活できるわ」
「・・・それはオリジナルと言えるのか?」
「そもそも私達にオリジナルなんて概念は存在しないわよ。常日頃からデータを更新し続けているし、そもそも私のオリジナルはテネブリスの中。このボディを使った私はあくまでも複製体なのよ?もちろん記憶連携をしているから常に同じ思考を持っているけれど、どれがオリジナルかなんて言い出したらきりがないわ」
うーむ、そういう物なのだろうか。
確かに彼女達ヒューマノイドはプログラムによって動いている機械であって生命体ではない。
なのでこのように複製体がいくらでも作られているし、それらが同じような記憶を有しているのも当然の事。
多少の誤差はあれど彼女達はほぼ同一の存在と言っても過言ではないだろう。
もちろんアリスやテネスもその枠組みの中にいる存在なのだが・・・まぁ、色々とイレギュラーが多いから別の存在だと俺は思っている。
「はい、ダウンロード完了!あとはめぼしい物を持って帰るだけだけど・・・ねぇ、この子たちどうするの?」
「どうとは?」
「オークションでも見たでしょ?起動したばかりの新品は一体当たり数億の値段で取引されるのよ?ここには新品が二体、中古が一体。中古って言っても数千万で売れるからここにいる子たちだけで惑星を買うどころかテラフォーミングまでできちゃうけど」
「折角帰ってきた家から追い出すのか?あり得ない話だ」
「ふふ、アンタならそういうと思ったわ。そのかわり、ここにある物で価値のありそうなものは貰っていきましょ」
「無論そのつもりでいる。といっても金になりそうな物はあまりなさそうだけどなぁ」
奥の部屋にあったのは生活雑貨ばかりで、それらしいものは見当たらない。
開放されたポッドをバラしてパーツを取ることも考えたが、他のポッドに影響が出ても困るのでスルー。
まぁ、貴重なデータを手に入れただけでも十分すぎる成果と言えるだろう。
「あの、どうやって帰るんですか?」
「ここをでるには扉の前で『いってきます』っていうんだってさ。ただし、人間の生態ではなくヒューマノイドが発したものでなければ開かないらしい。よくまぁ考えられているよなぁ」
「あんなところでそんなこと言うヒューマノイドはいませんしね」
「そういう事。だから今までスルーされていたんでしょうね。前にここで見つかった隠し部屋は物理的に壊されて見つかったらしいし、調査済みのこのエリアでそれが行われることは無いんじゃないかしら」
「つまり彼女達は静かに暮らせるわけだ。そろそろ戻らないとアリスが心配するからな、さっさと戻ろう」
最後に例の彼女のポッドをのぞき込むと、幸せそうな顔を浮かべていた。
この顔が見られたのならここに来たかいがあったというものだ。
「ふふ、幸せそうですね」
「だな」
「心なしか笑った顔がイブさんそっくりです」
「それ俺も思ってた!だよな、そう見えるよな?」
ふとローラさんが言った言葉に思わず反応してしまったが、マジでそっくりなんだよこの笑顔。
特に目じりの部分とか瓜二つじゃないか。
え、そう思うのは俺だけ?
「イブさんの写真との適合率87%確かにほぼそっくりね」
「これは偶然なのか?」
「他人の空似じゃないですかね」
「んーだといいんだが」
イブさんの出自がわからない中でこの一致はかなり気になる。
が、それを確認するすべはないので今回は保留だ。
急ぎ通路を戻り例の扉の前を確認するも声が聞こえてくる感じはない。
「テネス」
「いってきます」
彼女の声に反応して扉が静かにスライドする。
どうやらあの本に書かれていたのは間違いなかったようだ。
「あ、通信回復!わ!わ!ちょっと待って、今説明するから!」
「どうやらアリスから鬼のように連絡が入ったらしいな」
「ですね、それだけトウマさんのことが心配なんだと思いますよ」
「だといいんだがなぁ」
アイツの場合は心配なのかちょっかいを出したいのかよくわからないからなぁ。
なんにせよ遺跡での目標は達した、後はアリス達と合流して細かい話を聞こうじゃないか。




